「多様な人材の捉え方・活かし方」
~DE&Iを活きたものにする具体的アクションの考察~
ビジネスコーチ株式会社 専務取締役 山本 佳孝 氏
このセミナーの案内を見る今回のダイバーシティ研究会は、ビジネスコーチ(株)の山本佳孝氏をお招きし、講演と参加者同士の情報交換・意見交換を通じ、多様性(Diversity)・公平性(Equity)・包括性(Inclusion)の本質を深く掘り下げ、 DE&Iの企業内での推進方法に関しての理解を深めていきました。
以下は山本氏の講演の要旨です。
これまで築き上げられて来た社会性・国民性・文化等から、日本は極めて同質性が高く、外面の多様性には敏感である一方で、内面の多様性に対する感度はあまり高くないと言えます。女性活躍推進・世代間ギャップ・働き方等の多くの企業で取り組まれている“表層的な”DE&Iの取り組みの多くは、自分事化しづらく受け身のテーマとして捉えている従業員も多いのではないでしょうか。本研究会では、DE&I実現のためのアクションにはどのようなものがあるのか、そのアクションに繋がるトリガーを得ていただくことを目的としています。
そもそも皆様の企業では、何故DE&Iを推進するのでしょうか。DE&I推進において、現場では具体的に何をしていますか。
1. 採用に向き合う
皆様の企業では、優秀な社員が獲得出来ていますか。自社の求める優秀な人材とは、どのような人材でしょうか。多民族・多言語・個人主義と言われているアメリカですら組織における“多様性に富む集合知の形成”が難しい時代です。同一民族・同一言語・全体主義の日本では、その何倍も難易度が高いのではないでしょうか。“同質性の高い集団形成”を避ける為には、自社に合う人を探す(同質性)のではなく、自社に居ない人を探す(多様性)ことに視点を変え、採用コンセプトをアップデートしていくことも重要であると考えています。「同質性」と「多様性」のバランスを取るためには、ダイバーシティ推進を担当されている皆様が、採用担当者と協業していくことも検討していくべきではないでしょうか。「多様」=「違い」と訳されますが、この「違い」の“Wrong”(間違っている=排他)と“Different”(異なっている=受容)を無意識に混在している可能性があることを念頭に入れておくことも大切です。
2. 人を育てる
多様な人を育てることや自社における人材の多様性とはどのようなものでしょうか。多様な人材を採用し活かすことは、「発揮」であると同時に、「旧態依然に変革を起こす」ことであると考えています。人材育成=「教育」という取り組みを新たに整理してみましょう。企業における旧来の人材育成は、仕事に関する知識・スキルを万遍なく教え、社員間の画一化と業務の再現性を高めることに主眼が置かれてきた「管理型のマネジメント」です。外部環境が大きく変化する中で、これまでの同質性をベースとした管理型マネジメントでは、十分に対応出来ない時代になったと言わざるを得ません。自身の経験や先例主義に依らず、適時適切かつ柔軟に最適解へのアプローチを変えることが重要であり、だからこそ、多様なアプローチ=多様性に富む集合知の必要性が増して来ています。「社員らしさ」を求める人材“教”育では同質性を醸成し、「その人らしさ」を育む社員”育”成では多様性を発揮させる。つまり「教える」ことと「育む」ことを分けて考え、取り組む必要性があります。
人と組織のマネジメントにおいて、経営者が従業員の強みに着目している場合、従業員が仕事に熱意を抱く割合は73%に上り、強みによる効果として、社員のエンゲージメントスコアが6倍、日々の生産性が約12%向上し、収益性も約9%高いという調査データもあります。自身やメンバーの強みや魅力を具現化し、相互理解と支援に繋げるための「自分の自分らしさ探し Find own 5 cores」と「メンバーの良いところ 5つ探し」の2つのワークを紹介しましょう。これらのワークを実際に行った方々からは、「自身の強みに対し自信がなく漠然としていたが、他の方々からの言葉で明確になり自信を持つことが出来た」「他の方々の強みや魅力などを見ていなかったことを反省した」等、様々なコメントをいただいています。このようなトリガーになるワークを実施し、言語化することで気付きを得ることが出来ます。一方で、私たちには強み・魅力を阻害するものがあります。それは“ネガティビティバイアス”と言い、私たちは無意識に欠点を先行認識し、指摘する傾向にあり、これは強みや魅力の発揮を阻害する要因の一つになってしまいます。皆さんは自分の先入観や印象(特にネガティブな要素)で部下を決めつけていませんか。部下の本当の考えや気持ちを理解しようとしていますか。弱点・欠点に見えるものを強み・魅力として捉える肯定的受容“リフレーミング”の意識を持つことが重要です。(例:指示待ち・受け身→従順・忠実 等)組織全体が個々の弱みを補い中和し、多様性や個々の強みを組織において結集させる必要があります。ご自身の組織において、どのように個々の強みや魅力を掴み、相互理解を進めますか。自他の違いを相互理解するため、「性格・性質の差~ストレスの個人差」「価値観の個人差」「ソーシャルスタイル(立ち居振舞い)の個人差」の3つのワークを紹介しましょう。
性格・性質の差を理解することのメリットとして、ストレス耐性を強みとして捉え任務へ紐づけることや、ストレス負荷が大きくなる場面では、事前の対応準備が可能になることが挙げられます。一方で、意識的訓練や環境・立場の変化をしなければ傾向は変わらないこと、自分の基準を他人に当てはめないこと等を、留意点やリスクとして考えておかなければなりません。
価値観の個人差を理解することで、向上心等に繋がることが多い為、動機付けや目標設定に紐づけることで効果が大きいこと、無条件で受容し大切にしてあげることで大きな親和性が生まれます。一方で、価値観は状況・環境・立場によって変化するものであること等に留意する必要があります。
ソーシャルスタイルには、「現実派」「社交派」「友好派」「理論派」の4つの行動傾向があり、各々の違いを理解することで、コミュニケーションを円滑に行うことが出来るようになり、組織内での役割最適化に繋げることが可能です。一方で、1つのプロジェクトに現実派や理論派が複数存在すると、方針が異なる場合、対立が激しくなりまとまらなくなる等、新たな問題が生まれる可能性にも留意しなければなりません。
これらのワークを行った方々からは、「多様性に関して、国籍やジェンダーではなく、もっと本質的な違いに目を向ける必要性があると感じた」「自分基準に周囲を見ていたため、いつの間にかそれがバイアスになっていると反省した」等のコメントが寄せられています。
3. 風土を醸成する
多様性の高い人材を集めただけで、個々人が活き、組織に一体感が生まれるでしょうか。DE&Iを機能させるためには、「心理的安全性」「パーパス・ビジョンの浸透」の2つの力が必要です。心理的安全性は、他者への気遣いや、どのような気付きも安心して発言出来るという心理的な要素が生産性に影響する、まさに土台となる要素であると言えます。心理的安全性を生み出すためには、当事者相互の柔軟性、特に率先垂範のもととなるリーダーの心理的柔軟性が非常に重要です。心理的安全性の現場実装のための「ハートのワーク」を紹介しましょう。言語・非言語双方において、心理的安全性を高めるもの・損ねるものをハートの内外で各々考えていきます。まずは、職場全員で心理的安全性を手に入れる取り組みを決め、最初の数か月間でハートの外を撲滅し、その後の数か月でハートの中を増殖するような取り組みを実施する進め方を推奨しています。真の心理的安全性を手に入れる為、立場・年齢・社歴を問わず、皆がお互いのためにフィードバックをしましょう。このワークを行った方々からは、「親しみを込めていたつもりの言葉や態度が、相手によってはマイナスになっていることを感じた」「自分が率先して言動を改善したいと思った」等のコメントが寄せられています。
DE&I推進を組織全体の力に変えるための不可欠な取り組みとは何でしょうか。多種多様な個性のメンバーが動き始めることで、企業の求める方向性やブランディングに対して一体感が得られなくなる可能性もあります。すなわちDE&I×心理的安全な職場の2つが揃うことで生じる力は皆を自由な方向に発散させる”遠心力” になりかねません。多様なメンバーを惹きつける“求心力”として、企業理念・社会への存在意義等の発信と組織浸透が必要です。違う方向を向くという多様性を持ちながらも、企業理念という要の存在によって、全体が美しく調和している状態こそが、多様性が真に活きる姿だと考えています。つまり、「DE&I推進」「心理的安全な職場=組織風土づくり」「多様な社員を惹きつける求心力=企業風土づくり」が一体で進められることで、「人的資本経営」が現実化すると言えるのではないでしょうか。
組織実装するのは、現場を預かる部長や課長の役割です。それには、過去からの延長では成し得ない“プロフェッショナルマネジメント”が必要なのです。
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参加者の意見・感想は・・・
ワークシートがあることで、意識しながら聴講することができた。パーパスや方針を伝えてはいるものの、伝える部署によってズレが生じているので、社内の運営する側の部署同士がもっと連携していかねばと感じた。 知識ではなく、行動に落とし込んでいくための、新たなワークや視点を頂けた。 多様性について提示された問いに、今まで疑問を感じなかった自分に気づき、本質的な理解ができていなかったことを認識した。 他社でも同じような悩みがあることがわかり、推進の難しさを感じた。そのような中でできることからやっていくためのヒントとなるものがいくつかあったので持ち帰って共有していきたい。 表面的多様性ばかりに注目されていることに違和感があり、本講義の内容は非常に腑に落ちた。心理的安全性やダイバーシティへの理解など、忍耐強く取り組んでいきたいと改めて思った。 人材教育と人材育成の違いを意識したいと感じた。さまざまなワークをご紹介いただき、自分やメンバーの強み・魅力を言語化するワークなど、実際に活用させていただきたいと思った。 受講前の多様性の理解が表面的なものであったことに気づいた。 実際に使えるワークをご紹介いただき大変参考になった。人の強みに着目して活かすのが上司、弱みにばかり注目するのは無責任、弱みを中和するのが組織の役目であるということをマネージャー層に浸透したいと思った。 講義内容もわかりやすく気づきがあった。他社との意見交換を通して自社の根本的な課題も言語化できた。 より個々人の深層的ダイバーシティを知り、活かすための具体的なプロセスを伺うことができ、大変参考になった。 -
登壇者の感想は・・・
ビジネスコーチ株式会社 専務取締役 山本 佳孝 氏
「DE&I推進は表層的になりがちで、真に社員理解を促すことが難しいテーマです。できるだけ身近な事例や実感頂くためのワークなどをご紹介しましたが、現場に対して具体的にどのように取り組みを展開していくか悩まれている方が多いことを実感しました。何か一つでも具体的アクションに繋げて頂けることを願っています。」