ホームセミナーセミナーレポート人事実践セミナー 2024年5月29日

セミナーレポート

人事実践セミナー

「新しい人事のスタイル」
~生成AIが人事にもたらすもの~

日本アイ・ビー・エム株式会社 小山 政宣 氏

このセミナーの案内を見る

今回の人事実践セミナーは、日本アイ・ビー・エムの小山政宣氏をお招きし、進化の目覚ましい“生成AI”が人事の業務領域にどのような変化や影響を与え、どのような可能性を秘めているのかについてお話いただきました。 以下は講演の要旨です。

1.生成AIブームの背景

2022年、史上最速でユーザー数を拡大したChatGPTの公開を皮切りに、生成AIに対する期待値が急速に上昇しました。過去5年間でAIをビジネスに使用する企業数は2.5倍になる等、私たちは、ビジネスや社会を根本から変えるような新しい技術イノベーションが生まれる瞬間におり、AIによる新時代が到来したと言えます。生成AIにより全世界のGDPが7%向上し、60%の職業が影響を受けると予測されており、その衝撃は非常に大きいでしょう。これらのことからも、これまでの業務にAIを補完するのではなく(+AI)、今後はAIファースト(AI+)、即ち、AIを前提としたビジネス設計へ切り替わっていくと考えています。
一方で、生成AIには不正確な回答に関する問題やデータの収集法に関する倫理的な問題等、様々な課題があることも事実です。今やAI活用は必須であるが故に、リスクも上手くコントロールしていく必要性があります。AIリスクを管理するためには、「バイアス問題」「ドリフト問題」「暴走するAI」「敵対的攻撃」等、まずはリスクを認識することが重要です。AIを活用し利便性を高めるということは、常にリスクテイクとトレードオフの関係であることを忘れてはなりません。ここ1-2年で、各国ではAIリスクに対する規制やガイドライン策定の動きが拡がり、日本においても「AI事業者ガイドライン」を制作中です。

2.生成AIがもたらす人事への影響

当社による最新の調査レポートでは、人事は、企業全体における生成AIの主要な推進役・原動力となることで、組織のパフォーマンス文化を再構築出来る部門であることをメッセージとしてお伝えしています。企業によりシームレスな「人」財体験を提供するには、人事部門が更にテクノロジーに明るくなる必要があります。
「AIが人に取って代わることはない。AIを利用する人が、利用しない人に取って代わるのだ。」これは、当社が生成AIブーム以前より終始一貫して出しているメッセージです。AIによって人が不要になる訳ではないものの、いかに人が新しい技術と共存していくかが重要であると考えています。調査レポートでは、今や経営層の5人に4人が、生成AIによって従業員の役割とスキルが変化するだろうと回答しており、また、生成AIは従業員の職務を奪うのではなく、拡張すると予想している経営層は87%に上ることが分かりました。更に、経営層は、AIと自動化の導入に伴い、今後3年間で従業員の40%にリスキリングが必要になると見込んでいるというデータもあります。
従業員に求められる最も重要なスキルに関する調査では、2023年、人間固有のスキル(時間管理や優先順位付け・チーム環境で仕事に成果を出せる能力・効果的なコミュニケーション力)がトップ層を占める一方、2016年にはトップであったSTEM(Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学))スキルは順位を大幅に落としています。このようなことからも、企業は変化に備えた柔軟な組織体系を構築する必要があり、その前提のもと、リスキリング施策を実行していく必要があります。人間は共感や創造性といった能力を発揮し、機械はAI・IOT・ロボティクスによる拡張性を実現することで、自動化とAIは仕事の性質を変え、人間とテクノロジー双方の価値をこれまで以上に高めるでしょう。
2023年に当社が実施した調査によると、経営層・取締役層に占める女性の割合は以前よりは上昇したものの、依然としてわずか12%に留まり、また、中間マネジメント層に関しては、ここ数年でその比率が落ちて来ていることが明らかとなりました。現代において、男性・女性を切り分けて考えることは必ずしも正しいことではないかもしれませんが、調査結果のひとつから、男女其々に求められる資質の優先順位が異なり、女性に求められる”戦略ビジョンやオープンで透明性の高いコミュニケーション力”は、先述の従業員に求められる最も重要なスキルの上位とリンクしていることが分かりました。このことからも、生成AIをビジネスの中核として推進していくことは、女性がより活躍していくことの出来る流れが来ていると考えています。生成AIを活用し生産性を向上させ、各業界を変革する機会は飛躍的に増加しています。新たなユースケースを定義する絶好のポジションにいるのは女性であると言えるでしょう。

3.生成AIの技術

これまでAIは、機械学習モデル(=学習させる教師データ)が必要でした。現在は、基盤モデル(=基礎的な知識を備えたAI)や大規模言語モデル(=人の言葉を対象にした基盤モデル)が新しく生まれ、大量のデータから自己学習し、もっともらしい回答を導くことが可能となりました。これらのベースがあり、微調整を繰り返しながら生成AIやその他の用途のAIが生まれて来ています。基盤モデルは、自然言語以外にも、プログラム生成や楽曲作成・動画作成等、様々なタスクへの拡がりの可能性があります。大規模言語モデルでは、抽出・分類、文書要約、テキスト生成、質疑応答や翻訳等、以前よりも更に便利にそして容易に利用できるようになって来ています。実際にAIは、化学薬品メーカーでは製品の新規用途探索に、ゴルフのマスターズでは解説と試合予測に、当社人事では約800万件の問い合わせの自動化等、様々な用途で使用されています。

4.生成AI活用の今

従来の機械学習によるAI開発では、用途ごとにモデルを作成し、学習を重ねていかなければなりませんでした。一方、基盤モデルによるAI開発では、1つの巨大モデルを作成し、用途別の少量のデータでカスタマイズが可能になりました。基盤モデル活用において、一般的に4つのレベルに分けることが出来ます。レベルが上がるにつれ、必要な自社/業界固有のデータが必要となり、自社管理領域の増加に伴い、AIガバナンスの必要性が高まります。
基盤モデル活用におけるレベル分け
Lv.1:既製モデル活用
Lv.2:プロンプトエンジニアリング
Lv.3:モデルのカスタム・チューニング
Lv.4:独自モデルの構築
例えば、顧客問い合わせに対するチャットボット作成のための生成AI活用を例に挙げても、回答精度を上げるためには、様々な創意工夫が必要です。プロセス・データが増えるにつれ、リスクも増加するため、今後、実務適用のためには、モデルチューニング等で、ある程度リスクを集約させることも必要であると考えられます。

5.IBM watsonxのご紹介

当社では、基盤モデルや生成AIなどの最先端のAI技術を活用し、ビジネスのためのAI活用を加速する新しいAIとデータ・プラットフォーム「IBM watsonx」を発表しました。独自のAI構築により、ビジネスに活用される基盤モデルの多様化に備え、各種の基盤モデルを提供することが可能です。また、2024年には、日本語特化の学習モデルも順次提供を開始しています。生成AIと自動化テクノロジーを搭載したwatsonx Orchestrateでは、反復作業が際限なく続く日々の作業リストを一掃出来、より素早く業務を遂行することが可能です。当社内では、昇進プロセスやオンボーディング(入社処理)等で活用しています。

6.本日のまとめ

AIは単なるブームで終わらせるのではなく、今後より発展させていかなければならないと考えています。人事部門こそがAI推進の先導者となり、社員教育も含め、必要なスキルセットを考えていく必要があります。そして、時代の流れと共に変化していくことを受け入れながら、AI+(AIファースト)の世界を楽しんでいきましょう。今日のこの場が、AIと共存していく世界に方向転換をしていくための最初の一歩になれば幸いです。

◎セミナーを終えて

  • セミナーの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    大変参考になった= 21%・参考になった= 74%・あまり参考にならなかった= 5%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    AIが人に取ってかわるのではなく、AIを使いこなせる人が、AIを使えない人に変わってゆくのだという冒頭のお言葉に一番感銘を受けた。リスキリングという言葉がはやっているが、リスキリングの方向性のひとつとしてAI領域は外せないものだと感じた。 生成AI活用に向けた取り組みなど大変参考になった。 本セミナーのおかげで、HR部門の存在意義を考え直す良いきっかけとなった。また、今後HR部門に必要な人材もこれまでとは大きく異なることも認識した。 生成AIの基礎と発展性(活かし方)が少し見えてきた。 人事・人材戦略の領域において、生成AIがもたらす世界をいろいろ想像できて楽しく拝聴することができた。 生成AIの活用が女性の活躍にもつながる、という観点を新たに知ることができ、参考になった。 AI活用は進んでいないが、将来的には欠かせないものだと思うので、色々なテーマ含め関心持って情報収集し業務に活かしていきたいと思った。
  • 登壇者の感想は・・・

    日本アイ・ビー・エム株式会社 小山 政宣 氏

    日本アイ・ビー・エム株式会社 小山 政宣 氏

    講演後のQAセッションの中では、社内において思うようにAI活用が進まない、などの皆さまの生の声を聞くことができて私自身も大変勉強になりました。セミナー中にもお伝えしましたが、AI活用はまだまだ始まったばかりです。皆さまの今後のご検討の中で、本日のセミナーが少しでもお役に立てていれば幸いです。