ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2024年4月11日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

味の素グループの人財戦略 ~パーパスへの共感をベースとするASV経営~

味の素株式会社 執行役 ダイバーシティ・人財担当 栢原 紫野 氏

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今回の人事戦略フォーラムは、味の素グループの執行役 ダイバーシティ・人財担当の栢原紫野氏をお招きし、2030年へのロードマップを実現するための同社の人財戦略についてお話していただきました。
以下は、講演の要旨です。

1.グローバル人事戦略を考える枠組みの変化

味の素グループは、1909年に創業した従業員数 約34,000人の企業グループです。「単なる科学の発見ではなく、世の中の役に立つようにしたい」「国民の栄養不良を矯救し、日本人の体位向上に貢献したい」という創業者たちの志をもとに、“事業による生活/社会・地球への貢献”を通じて、経済価値を生み出すという創業以来の取り組みをASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)と称し、現在も経営の基本方針としています。

2.味の素グループが目指すもの

当社では「アミノサイエンス®※で、人・社会・地球のWell-beingへ貢献する」ことをPurpose(志・存在意義)とし、その志を実現する取り組みとしての事業を通じた社会価値と経済価値の共創(ASV)を通じ、コーポレートスローガンである“ Well, Live Well.”の実現を目指しています。
アミノサイエンス®とは、アミノ酸の働きに徹底的にこだわった研究プロセスや実装化プロセスから得られる多様な素材・技術・サービスの総称。また、それらを社会課題の解決やWell-beingへの貢献につなげる、味の素グループ独自の科学的アプローチのことです。

3. 中期ASV経営へのマネジメント変革 ~2030年に向けた成長へのシフト~

VUCAの時代、先行きが不透明で将来の予測が非常に難しい事業環境だからこそ、当社は従来型の精緻な数値を作り込んでいく中期経営計画を廃止し、挑戦的な「ASV指標」を掲げ、本気でASVを追求する「中期ASV経営」へと舵を切りました。そして従業員の「志」に対する熱意と、多様な関係者の皆様の共感を原動力に、従業員自らが主人公となり、「ありたい姿」の実現に挑戦し続ける企業文化へと進化させることこそが、「中期ASV経営」の成功の鍵であると考えています。2030年をターゲットに見据えた道筋をロードマップとし、ASV指標からバックキャストし、毎月のローリングフォーキャストと機敏なアクションによる修正により実行力を上げていきます。また重点事業の進化と成長をドライブする事業モデルの変革により、提供価値起点の4つの成長領域(①ヘルスケア ②ICT ③フード&ウェルネス ④グリーン)での成長へとシフトすることで、高収益且つユニークで強固な事業構造・組織構造を目指しています。

4.人財資産の考え方

味の素グループは経営戦略の実現にあたり、4つの無形資産(技術・人財・顧客・組織)が重要であると考えており、その中でも、無形資産全体の価値を高める源泉であり、技術と顧客をマッチングさせイノベーションを生み出す「人財資産」の強化に継続して取り組みたいと考えています。「志」に共感する社内外の仲間が集い、対話を通じて「志」の醸成と共感を、そして「多様性」と「挑戦」を促進することで、未来に向けたイノベーションを共創し、従業員の働きがい向上を通じ、人財資産を強化します。また、ASVの創出に向け、多様性×挑戦の加速と更なる志の醸成と共感にフォーカスした人財投資に関する取り組みを積極的に行うと同時に、それらの取り組みを従業員エンゲージメントと関連付け、従業員エンゲージメントスコアを2025年に80%、2030年には85%へ向上させることをASV指標としています。

5.ASVエンゲージメントサイクルとASV自分ごと化を促す主な活動

2020年度よりASVによる価値創出に不可欠な従業員エンゲージメント(ASVの自分ごと化)を高めるマネジメントサイクルに取り組み、各プロセス(「理解・促進」「共感・共鳴」「実行・実現プロセス」「モニタリング・改善」)に於いて、様々な施策を展開しています。具体的には、経営層と従業員の直接対話を通じ、ASV中期計画への理解・納得を醸成。「組織目標」と連動する各自の「顧客への提供価値としてのASV実現」を年度目標に落とし込み、それを互いに発表することで、ASVの自分ごと化を促進し、自分の目標達成への支援と仲間の目標達成への貢献を促す風土を醸成。また、従業員自身の業務におけるASV活動を、自らの言葉で社内SNSに投稿してもらう活動も実施しています。

6.Philosophy/Purposeの進化とありたい姿

2023年度より「Eat well, Live well.」をスローガンとし、それを支える概念としてAGW・ASVを置き、その上にあるPurposeという構成に整理したことで、より理解しやすいものになりました。志・Purposeは、2030年に向けたロードマップを歩む、私たちの羅針盤ではあるものの、どのように浸透を図れば良いかが、最大の課題です。

ありたい姿に近付けるためには、
①Our Philosophyが自分ごと化され、Our Purposeと従業員自身のMy Purposeの“重なり”の実現に向け、従業員が内発的に動機付けされている。
②従業員がMy Purposeの実現のために自発的に行動し、結果としてグループのPurposeが達成される。
③グループとしての求心力が働き、共感による一体感が生まれ、従業員を含むあらゆるステークホルダーからの評価が高まる。
④魅力的な企業グループとなり、purposeに共感する優秀な人財が集い、継続的な事業成長が可能となる。
という4点が重要であり、結果として企業価値が継続的に向上していくものと考えています。

7.My Purposeセッション

PhilosophyやPurposeを全従業員に浸透させるため、まずは執行役25名により、My Purposeセッションを実施しました。内省やグループ討議、プレゼンテーション等を通し、My Purposeを紡いでいきました。私自身、My Purposeセッションに参加し、Our Purposeを自分ごとにするためには、まずMy purposeの言語化が必要であると同時に、「アミノサイエンス®」という言葉への深い理解が必要であることを痛感しました。また、My Purpose を仲間と一緒に考え、語ることはチームビルディングであり、組織開発の一環になることを実感しました。

8.Philosophy/Purpose 共感推進活動の今後

2024年度からは、人事部内にOur philosophy共感推進グループを設置し、グループ・グローバルでの共感推進活動を本格始動させています。その際に、上から押し付けたり教えたりするのではなく、自分で考え、自分で解釈してもらうことを大切にし、その結果が共感を呼び、“浸透している”状態が創られること、「浸透」ではなく「共感」「自分ごと化」として活動を展開していきたいと考えています。加えて、各法人・関係会社のトップマネジメントのコミットメントとマネジャー層の巻き込みと自前(社員)での活動が肝要であると感じています。
Purposeへの共感にもとづくネジメントサイクルを回すことで、2030年の高みを目指し、ASVエンゲージメント向上と企業価値向上へとつなげていきます。

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    ・大変参考になった= 63%・参考になった= 37%・あまり参考にならなかった= 0%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    味の素というグローバル企業且つ大きな組織体でOur PurposeとMy Purposeの擦り合わせを地道に行うという志の高さに感動した。『purposeを自分事にする』ことの大切さは、現場で仕事をする上で、とても強く感じるし、年次や職位が上がれば上がるほど、その必要性を強く感じる。 味の素グループの人事戦略と経営戦略実現のための具体的なサイクルを、具体的に動かす部門の責任者が熱量をもって取り組んでいることと、実際に動かしてみての率直な感想を拝聴し、とても理解しやすかった。プレゼン資料も丁寧に作られていて、たいへん分かりやすかった。 味の素グループのフィロソフィとパーパスの関係がよくわかった。また「自分ごと」としていくことの重要性は、当社でも、あるいはクライアント企業との面談の中でも、常々考える機会がある。Our Purposeの浸透ではなく「共感」からMy Purposeに具体化していく、仲間と共有する取り組みには学ぶ点が数多くあった。 魅力的で当社も参考にしたい取り組みが数多くあったが、個人目標発表会の目的や開催することによる効果は、特に目から鱗の思いだった。自社もしくは自職場でもぜひ実現させたいと強く思った。 会社の風土の前提や土台があってこそ、人材育成の価値が真の経営資源になると思った。人材が流動する中で、会社がどのように自己成長の機会を提供できるかが、必ず企業力の差となって表れることを確信した。 当社よりも大きな規模で、海外も含めた改革の取り組みを行なっている味の素グループの事例は、とても参考になった。会社と自分の“志”の重なりを大きくするという点はおっしゃる通りで、自分事化するために必要なことだと思った。 当社でも経営理念をはじめ散らばって存在している会社の色々な概念を、体系化する必要性を感じた。 対話・自分の志の言語化・会社の志とのリンク・自分事化・共感・ストーリーを持った展開等、素晴らしい一連の活動は、大きな気付きとなった。 自身の目標を社内で可視化することから、協力やコミュニケーションが生まれ、信頼関係の醸成、そして自身の有言実行となって自然と力を入れることになるので、良い着眼点だと思った。また社員自身が主体的に会社に参加し、受け身になることを防げるのではと思った。本日のお話から、とても社内が活性化している様子が感じられた。 私は企業の組織風土改革、ダイバーシティ推進担当のマネジャーとなったが、これまでに人事業務の経験がないため、何をしていいのか全くわからなかった。本日のフォーラムでとても具体的で、たくさんのアドバイスを得た気がする。トップの強力なコミットメントを何とか取り付けられるよう、そして発信してもらえるよう、私も頑張りたい。 パーパス経営の実践にあたっては、各社の個性を織り込みながら、色々と工夫や試行錯誤をされるのだと改めて実感した。数値化しにくいものであるからこそ伝え方も難しいのだが、大変参考になった。 エンゲージメント向上につなげるための活動が、とても参考になった。自分事化が私の職場でも課題となっているが、時間をかけてでもパーパスを浸透させていこうと思う。 フィロソフィ、パーパスなど、呼称は違うものの、企業の方針・ビジョンに関する取り組み内容やアプローチには共通点があり、聴いていてとてもわかりやすかった。また、意外と出来ていない「個人目標発表会」「私が語るASV」など、当社の今後のヒントになる話が、盛りだくさんだった。 CSV経営とパーパスの連動がきちんとストーリーになっていて、しっかりと地に足の着いた活動を行なっている様子が窺えた。無形資産の中で人財資産を中心に据えたのは、自然の流れだったのか、人事部門からの働きかけがあったのかが少し気になった。 VUCAの時代、来年の戦略も立てづらい。それだったら30年後にありたい姿を描き、そこに向かうという戦略に共感するとともに、改めて勉強になった。また、エンゲージメントを高める施策を展開する際に「浸透より共感」を大切にしている事や、人財投資の思い切った拡大という方針に、とても納得した。
  • 登壇者の感想は・・・

    味の素株式会社 栢原 紫野 氏

    味の素株式会社 栢原 紫野 氏

    「このたびはご参加ありがとうございました。味の素グループは『アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する』という“志”(パーパス)への共感をベースに、経済価値と社会価値を共創するASV経営を引き続き推進し、社会から必要とされる存在であり続けられるよう、人事部門としても引き続き努力してまいります」