ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2024年3月15日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

「セガサミーグループのグローバル展開とマルチカルチャー人財戦略」

セガサミーホールディングス株式会社 人財開発部 部長(兼)キャリアセンター長 髙橋 哲也 氏
株式会社プロゴス 取締役会長 安藤 益代 氏

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今回の「人事戦略フォーラム」は、セガサミーグループの事例をもとに「人的資本経営」と「グローバル人事戦略」を考察するプログラムとしました。 以下は髙橋・安藤両氏の講演と対談の要旨です。

【PART1】 人的資本経営とグローバル人事戦略~成長戦略を担う「人的資本」のストーリーをどう描くか~

株式会社プロゴス 安藤 益代 氏

1.グローバル人事戦略を考える枠組みの変化

企業の海外生産比率や海外売上比率が増加し、グローバル市場への拡大が急速に進んでいる一方で、企業の成長戦略を実現するために不可欠なグローバル人材は不足し続けています。また、終身雇用・OJT中心・階層重視の「人の囲い込み」の時代から、キャリア自律・リスキリング・スキルや能力重視の「人の流動化」の時代への移行期にあって、人事の役割も変化を余儀なくされています。加えて、コロナ禍を経てリモートワークが定着したこと、人的資本経営やDE&I、リーダー像の変化など、様々な内外の環境変化に伴い、グローバル人事に関する業務も変化し、大企業・スタートアップ企業・IT企業各々で、グローバル化へ向けた様々な取り組みが始まっています。
ISO30414の人材育成に関わる項目から人的資本経営を考察すると、グローバル人的ポートフォリオを策定するためには、教育研修費総額・必要な専門人材の量と質・研修参加人数や参加率などのデータやエビデンスを揃えていく必要があります。

2.グローバル人材定義のアップデートと可視化

グローバルリーダーのコンピテンシーに関する調査研究によると、グローバルに活躍するために必要なスキルは、「異文化関係構築力」「組織的業務遂行力」「問題解決力」「イノベーション推進力」「ビジョン体現力」の5つの要素と、「英語スピーキングのCEFRレベル」であるとされています。
当社では、グローバル事業の人的資本価値を高めるための組織診断ツールを用い、部門のグローバルKPI達成に向けたスキルを、To BeとAs Isで定量化し過不足を把握し、組織開発や人材育成・採用に活用しています。こうした定性的・定量的な目標を決定した上で、グローバル人事戦略を進めていくことが重要であると考えます。

【PART2】 セガサミーグループのグローバル展開とマルチカルチャー人財戦略

セガサミーホールディングス株式会社 髙橋 哲也 氏

1.セガサミーグループとは

セガサミーグループは、エンタテインメントコンテンツ事業・遊技事業・リゾート事業を中心に事業を展開しています。当グループでは「感動体験を創造し続ける ~社会をもっと元気に、カラフルに。~ 」をMission/Purposeに掲げており、人事のあらゆる施策の根底にこの思想が根付いています。当社社員が目指すべき姿を示すVisionは、 “Game Changer(革新者)”であることです。その土台となる思考特性・行動様式として”SEGA SAMMY 5つの力(「突破力」「共感力」「決断力」「自制力」「徹底力」) を設定しています。人財育成においては、この5つの力を備えた多様な社員を育てることで、社員が互いの能力・才能を活かし合いながらシナジーを起こし、大きな革新を起こせるような組織文化を醸成することを目指しています。また、2030年に向けた中期経営戦略においては、海外売上高比率とデジタル売上比率を各々50%以上にすることを目標に掲げています。

2.セガサミーカレッジとは

企業内大学「セガサミーカレッジ」では、セガサミーらしいリーダー育成のためのプログラムの提供と、誰もが学べる教育インフラの整備を進めています。階層別教育・選抜型教育・手挙げ式道場など様々な学びの場を提供しており、2021年9月に導入した英語教育もそのうちの1つです。
2021年12月のコーポレートガバナンスコード改定を機に、当社が考える人的資本における4つの重要指標を開示し、そのうちの1つに「マルチカルチャー人財の育成」を掲げ、指標や実績を社内外に公表しています。セガサミーカレッジは開校5年目となり、年々カリキュラムを充実させるると共に受講者も増加しており、今期末時点では累計40,000人以上の受講者を見込んでいます。

3.マルチカルチャー人財戦略

当社ではマルチカルチャー人財を”多様な文化を理解し、世界で活躍できる人財”と定義し、外国籍・海外滞在歴1年以上・母国語以外の言語日常会話レベル以上のいずれかを満たすことを人財要件としています。
何故いま“マルチカルチャー人財”なのか。その背景としては、グループミッションとして掲げている「感動体験を創造し続ける ~社会をもっと元気に、カラフルに。~ 」にあるように、多様でカラフルな社会を創造するためには、人財も同様であるべき、即ち、多様な人材=マルチカルチャー人財を増やしていくべきであるという強いコミットメントを持っていることや、海外売上高比率を50%以上にするという中長期事業戦略に基づいた目標や、グループ事業のグローバル化が加速していることなどが主な理由です。ゲームコンテンツ市場規模はグローバルで右肩上がりに伸長しており、コンシューマ分野での重点戦略もグローバル展開を前提に立案しています。

4.具体的な施策

当グループでは、社員の語学レベルに応じた英語教育コースを準備しており、参加者募集型の英会話コース、指名選抜型の会社要請コースの他、海外留学制度や社員の英語力をリアルタイムで測定可能なスピーキングテストなどを整備しています。
英会話コースは3か月を1タームとして募集を行っていますが、受講者に関しては、導入初回は全従業員の10%以上にあたる約630名が参加し、以降も毎ターム700名程度を維持しており、概ね85%以上の受講者は受講率50%以上をクリアしています。受講後のCEFRスコアでA2High以上が増加していることから見ても、英語力が着実に底上げ出来ています。
また、運用面で工夫していることは以下の3点です。
①短期サイクルで効果を検証し、改善施策を高速で回す
②モチベーションの維持向上と、新規受講者開拓を絶え間なく実施
③受講者に寄り添った丁寧な運用で、脱落者を防止
英語教育は短期間で成果が出るものではないからこそ、上記のように粘り強く運用しています。その結果、71%が語学教育の必要性を認識するようになったこと、またマルチカルチャー人財の数が想定より早いペースで増加し、当初の目標値を次年度にも達成する見通しであることは、成果のひとつと言えるでしょう。

5.現状の課題と今後の展望

現状、事業会社による温度差が大きく、グループ全体への波及がまだ限定的であること、社内外のインフラが英語化に追い付いていないこと、運用を丁寧に行うほど工数が増え続けてしまうこと、技術進化により語学教育の優先順位が変化する可能性があること等が、本当の意味でのグローバル化に向けての今後の課題だと考えています。従来の事業領域・仕事のしかた・保有スキルでは限界が来るため、組織や個人が成長できる機会を提供することが我々の使命です。英語教育により学びあい、成長しあえる文化を加速し、世界中の誰もが「この会社で働きたい」と思える企業にしていきたいと考えています。

【PART3】 対談: グローバル人事戦略を実現するためには……

セガサミーホールディングス株式会社 髙橋 哲也 氏
株式会社プロゴス 安藤 益代 氏

Q1. 人財面の重点指標に「マルチカルチャー人財」を明記し、投資家も含めた外部に対して求め る人材の目標数値や進捗、具体的な施策などを開示出来た秘訣を教えてください。

■髙橋氏:「やはり第一に経営トップに非常に強いコミットメントがあったことが理由として挙げられます。社員一人ひとりに自分事として捉えてもらうためには、まずトップから力強くメッセージを発信し伝えていく必要があると思います。また、社員側の視点では、自らの目標に対しての進捗や現在地が見えないとモチベーションも高まらないため、現状を社内外に開示することは重要だと考えます。」

Q2. グローバル人材を育成する上で、社員がグローバルに関心がないという悩みを抱える企業もあると思いますが、社員の意識改革をする上でのアドバイスがあれば、お聞かせください。

■髙橋氏:「当社でも、当初は海外事業に携わる一部の社員以外は、グローバルに関して興味があるという状況ではありませんでした。少子高齢化による国内市場の縮小化や海外にビジネスチャンスがあることを経営トップ自らが説明することで、社員も納得できたことに加え、社員自身が自分のキャリアは自分で創らなければならないという意識が高まってきたことが、当社社員の意識改革を進める後押しになったと感じています。」

Q3. 2030年にマルチカルチャー人財の目標を達成した際には、御社ではどのような人がどのよう に働いているイメージをお持ちでしょうか。

■髙橋氏:「英語は本来、コミュニケーションのためのツールに過ぎないと思います。現状は英語を話せることで活躍の場が拡がると思いますが、究極は英語力の有無ではなく、全員が同じ土俵の上で戦い、本質的な能力や人間力の優れている人財が、より幅広いフィールドで活躍出来るような会社を目指していきたいと考えています。」

Q4. 目標達成に向けて、更に取り組むべき課題があれば教えてください。

■髙橋氏:「現状の1番の課題は、インフラの整備です。社内文書やシステムなどが、グローバルに対応出来ていない部分もまだまだあるため、他部門とも連携しながらこれらを解決していく必要があると感じています。また、私達のミッションやコンピテンシーをいかにグローバルに浸透させていくかについても課題だと感じています。海外の現地法人を含め、これからM&Aなどで新しい仲間が増えていく際にも、世界に通用する言語でどのように伝えていけば腹落ちするのか、我々がエバンジェリストとしてリードしていかなければならないと考えています。」

Q5. グローバル人事戦略を実現していくためには、これからの人事はどのような役割を担っていくべきでしょうか。

■髙橋氏:「人事戦略は経営戦略のうちの重要な要素であることから、人事はこれからもますます経営戦略の一翼を担う重要な機能となっていくと思います。経営者と従業員、ひいては社会との懸け橋となり、これまでの“人事管理”というスタンスから、“人”という資本を用い、会社の成長を最大化し牽引していく役割に変わっていくべきだと考えています」

Q6. グローバル人材育成の観点では、変化を見通した従業員側のキャッチアップ支援やレディネスを高めることが重要である一方で、課題と感じる企業も多いと聴きますが、御社においては如何でしょうか。

■髙橋氏: 「当グループでは、今期初めてキャリア支援施策として、全管理職層に対してキャリア研修動画視聴を義務化し、キャリアデザイン研修やキャリアカウンセリングの仕組みを導入しました。事業環境の変化を社員も敏感に感じているため、社員のキャリア自律に関する考え方は前進して来ていると思う一方で、グローバル化・ボーダーレス化はどんどん進んでいきます。社員にとっては、世界に活躍出来る新しい活路を見出せるのか、縮小する市場に留まり自身の活躍の場を狭めていくのか、その決断を迫られていくと思います。出来るだけ多くの社員が前向きに自身のキャリアを築き、活躍の場を拡げていけるよう、私達も尽力していきたいと思います。」

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    ・大変参考になった= 22%・参考になった= 74%・あまり参考にならなかった= 4%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    経営から今後のグローバル戦略をしっかりと社員に発信することにより、会社の本気度が分かることと、いつまでにどれくらいの人数を受講させる等をしっかりと社内外に開示・宣言していることに共感した。ゲーム業界は国籍に関係なく活躍されている方が多いので、他の製造や金融等の業界と比べても特異だと思うが、参考になった。 やはり何事もTopのCommitmentが重要だと改めて認識した。 セガサミーカレッジの仕組みと、年々受講者が大幅に増加している運用実態に感銘を受けた。 両氏の講演は非常に参考になった。今後また、グローバル化していない企業の取り組み事例(これからグローバル化を進める企業や、社内にグローバル人財がまだほとんどいない企業 等)を聴きたい。
  • 登壇者の感想は・・・

    セガサミーホールディングス株式会社 髙橋 哲也 氏

    セガサミーホールディングス株式会社 髙橋 哲也 氏

    「セガサミーグループでは、事業のグローバル化に向けて“多様な文化を理解し、世界で活躍できる”マルチカルチャー人財を増やすために、2021年9月より本格的に英語教育を導入しました。今回のセミナーを通じて、我々が目指すべきゴールに向けての試行錯誤の過程や課題認識が、少しでも皆様のご参考になったようでしたら幸いです」
    株式会社プロゴス 安藤 益代 氏

    株式会社プロゴス 安藤 益代 氏

    「この度は多くの方にご参加いただき、ありがとうございました。グローバル成長戦略を掲げていらっしゃる企業には、セガサミーグループ様のお取り組みは、戦略を裏付ける人的資本という点で大変参考になったことと存じます。私どももアセスメントによる定量化・可視化で、人事戦略や育成施策の立案・実行のお役に立てれば幸いです」