ホームセミナーセミナーレポートダイバーシティ研究会 2024年10月11日

セミナーレポート

ダイバーシティ研究会

人生100年時代のウェルビーイング
~とくに白秋期(50-74歳)に焦点をあてて~

公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事 石川 善樹 氏

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今回の人事戦略フォーラムでは、「人生100年時代のウェルビーイング」をテーマに掲げ、公益財団法人Well-being for Planet Earthの代表理事である石川善樹氏より、調査・研究結果、またその結果から考えるキャリアデザイン論や特にミドルシニア世代のウェルビーイングとは何かについてお話をいただきました。
以下は講演の要旨です。

従業員のみならず、様々なステークホルダーを含めたウェルビーイング経営がここ数年の潮流となって来ています。それには以下3つの背景があります。

①従業員の「主観」を大事にするようになった

従業員満足度→エンゲージメント→ウェルビーイングと、会社や仕事が主語だった言葉から、従業員を主体とした主観指標が大切ではないかという考えが生まれ、このように言葉自体も変化して来ています。

②ウェルビーイングが企業価値を「予測」すると分かった

従業員のウェルビーイングが高い企業は財務業績がよいという商工中金のデータが示すように、将来の業績や経営状況を判断する重要な非財務指標としてウェルビーイングが注目されて来ています。

③会社の「ESG格付け」にウェルビーイングが加わった

米国S&P Dow Jones Indices社のサステナビリティ指標では、2023年の格付け調査から、ESGのソサエティ(S)の項目として「従業員のウェルビーイング」が組み込まれました。

これらの背景からも、会社規模に関わらず、従業員のウェルビーイングに取り組むことや、従業員を主体におき、いかにサポートすることが出来るのかが、問われる時代になって来たと言えるでしょう。

人類の平均寿命は世界全体で72歳まで伸びて来ている一方、最大寿命はほぼ伸びていません。その理由には老化が挙げられますが、そのスピードには個体差や種差があり、老化しない生き物も多く存在しています。病気を主軸に研究されてきたこれまでに対し、最近では、健康を害する根本の原因であるこの老化に目が向けられ、関連する書籍も複数出版されています。

2016年頃から「人生100年時代」という考えが出て来ました。当時は、人生設計を80歳位まで考えていた人が多かった一方、現在の平均余命や技術進歩を考えると、今後は、人生は100年あるという前提で人生設計をした方が良いだろうという背景から、様々な制度設計が進んでいます。

日本人にとって人生とは何だったのかを紐解くと、戦後直後は企業や組織に勤めるという考え方は少なく、定年も無し、平均寿命も50歳位でした。1964年頃になると、平均寿命も70歳位まで伸び、定年の55歳まで一生懸命働きさえすれば、その後の年金や医療制度の面等、企業や組織が個人を手厚くサポートしていた時代でした。身体が動く限り働くことが人生であった戦後直後から、学ぶ・働く・休むというレールが敷かれた昭和。そして人生100年時代の今、75歳位まで働こうとしている人が増えているものの、魅力的なロールモデルがいないというのが現状だと思います。人生のライフステージを「春夏秋冬」の4ステージで捉えてみると、25歳までが「学ぶ春」、50歳までが「働く夏」、75歳以降を「休む冬」と考えることが出来ます。50-75歳の「秋」にロールモデルがなく、この秋である白秋世代がどう生き、健康でいるのかが非常に重要なのではないでしょうか。時間やお金にも余裕がある世代、実り多き秋をどう過ごしていけば良いのか、その指針を作るべきであると考えています。

急性心筋梗塞で入院した75歳以上の男女を調査したある研究によると、お見舞いやサポートをしてくれる人数の差が死亡率にまで影響するということが分かりました。また、私自身が実施した65歳以上を対象にした追跡調査では、所属組織やコミュニティの数が多ければ多い程、介護のなりやすさが軽減するという結果が明らかとなりました。特に3つ以上の組織に所属することが重要とみられ、所属コミュニティの増加に伴い出掛ける回数も増える為、身体や健康に良いということと、様々な人との関わりにより脳への刺激にもなることがその背景として考えられています。また長生きの要因として、繋がりの有無が喫煙の有無よりも影響があることが明らかとなり、このことからも、孤独・孤立対策の施策が様々な省庁で実施されています。春夏秋冬の「秋」のライフステージでは、「働く」と「休む」の間に、社会とのつながりを保ち3つのコミュニティに属しながら、「よく学び、よく働き、よく遊ぶ」という指針が重要なのではないでしょうか。

ウェルビーイングの研究では、「何者かになれる居場所」と「何者でなくても良い居場所」の双方が大切ではないかと考えられています。居場所やその中での役割が複数ある「健全な多重人格」であることも重要です。また、年齢を重ねることに対してポジティブなイメージを持つ人はネガティブなイメージを持つ人と比較し、寿命が7.5年も長いという研究結果も明らかとなり、100歳まで生きるための75歳以降の冬の時期には、気の持ちようが大切であると言えます。色々なコミュニティに参加することで、必ず自身よりも年上で元気な人に出会えるでしょう。どれだけ魅力的な人に出会えたかということが、根拠のないポジティブな思い込みに繋がっていきます。元気でいるためには、会社はもちろん、会社以外のコミュニティへも参加する必要があります。また、年齢を重ねるにつれ、様々な辛い経験や苦労も増えるでしょう。若い時に苦労があり、それらを乗り越えた経験がある人は、自身の人生の基準が出来るため、その後の人生も乗り越えやすいと言われています。長い人生100年時代、しっかり苦労をして、乗り越えることが出来れば、秋や冬の苦難を乗り越えやすくなります。

人生100年時代をウェルビーイングに生きるため、時代にあった指針を将来世代のためにつくる時代が、今来ているのではないでしょうか。

◎研究会を終えて

  • 研究会の内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    ・大変参考になった= 49%・参考になった= 48%・あまり参考にならなかった= 3%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    石川先生のお話はこれからの白秋期の過ごし方の参考になる内容だった。選択肢と自己決定と言われてもこれまで正解を求めて他人との比較の中で生きてきた世代には難しいかなとも思うが、ひとりひとりが自分らしく生きていくこと、ウェルビーイングになるためには、マインドセットが必要だとも感じた。 白秋期には、多重人格でること。そのことを意識して、50代から試行錯誤しながら、自分の世界を作る意識が必要だと思う。そして、そのことを多くの人が認識することで、日本のあり方も変わってくるのではないかと感じた。 人生100年時代をどう生きるかという点でのヒントになった。 人生100年時代のウェルビーイングのために、白秋期における「居場所・役割が複数ある」というところは、腑に落ちた。会社制度においてもそのようなことを念頭においていきたい。 人事部門の立場でもあるが、自分自身が白秋期であるため、自分ごととして勉強させていただいた。 新しい観点と気づきを学ばせていただいた。 今回は、白秋期の話があったが、若い世代にも共通すること、居心地の良さ(自分が何者であること、自分が何者でもなくてもよい)のグラデーションが大事であるという事を再認識した。承認欲求が根底にある、社会や企業内の孤独対策やカスハラ対策にも通じるものを感じ、奥深いお話で考えるきっかけ、視野の拡がりを感じた。 ウェルビーイング向上のために会社がすべきことは、会社は選択肢を提示して、従業員が自己決定できる仕組みを作ることというのがとても参考になった。 ウェルビーイング形成に向けた白秋期、冬期での向かい合い方が大変わかりやすかった。また、会社としてのウェルビーイング醸成への役割や2:6:2社員への向き合い方が少しクリアになった。 Q&Aまでの全般を通して、全てにおいて納得感があり、腹落ちした。非常に良い講演だった。
  • 登壇者の感想は・・・

    公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事 石川 善樹 氏

    公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事 石川 善樹 氏

    「とても熱量の高いみなさまと対話させて頂き、わたし自身も刺激を受けました。日本CHO協会は、学びの場でもあるし、同じ志を持った仲間と出会う場でもあります。会社が抱える課題解決はもちろん、どのような働き方・未来を将来世代に残せるか。引き続きみなさまとご一緒できると嬉しいです!」