ホームセミナーセミナーレポート人事実践セミナー 2024年8月5日

セミナーレポート

人事実践セミナー

人的資本経営を支えるアルムナイ
~あらたな定着のカタチ~

日揮コーポレーションソリューションズ株式会社 池内 達宣 氏
株式会社日立ソリューションズ 小山 真一 氏
三井住友海上火災保険株式会社 加藤 愛子 氏
株式会社ハッカズーク 鈴木 仁志 氏

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今回の人事実践セミナーでは、アルムナイという新たな市場を作り、「企業とアルムナイとの新しい関係」構築を支援する株式会社ハッカズーク鈴木仁志氏のご講演と、アルムナイネットワークを導入され、その活動を推進されている3社の皆さまとのパネルディスカッションを通じ、導入の狙い、これまでの経緯、また具体的な活用事例や今後の可能性等についてお話をお聞きしました。
以下はセミナーの要旨です。

【PART1】 「人的資本経営を支えるアルムナイ 〜あらたな定着のカタチ〜 」

株式会社ハッカズーク 代表取締役CEO 鈴木 仁志 氏

1.会社概要

当社は2017年の創業以来、アルムナイとの関係構築により、”退職で終わらない企業と個人の新しい関係を実現し、退職による損失のない社会を作る”というビジョンを持ち、アルムナイに特化した様々な事業やサービスを展開しています。さらに、クラウドシステムだけではなく、コンサルティングや運用支援・代行まで、アルムナイに関する幅広い支援を行っており、多くの企業にサービスを導入いただいています。

2.企業と個人の新しい関係 ~アルムナイの重要性~

キャリアが多様化し、企業価値の向上における人材戦略が変化する中、企業と個人の関係は大きな転換期を迎えています。そのような中、退職者を”裏切り者”として扱う日本企業に長く根付いていた固定観念を変え、退職で終わらない企業と個人の新しい関係を大切にしようとする企業が増えて来ています。アルムナイの”再雇用”ばかりが注目されがちですが、これは企業とアルムナイの関係の1つでしかなく、再雇用だけを目的にアルムナイとの関係を築くことは推奨出来ません。アルムナイは、社員にとっても多くの気付きを与えると同時に、人材開発、従業員体験の向上、退職率の改善に繋がり、業務委託や提携等でビジネスの関係を共に築くことも可能です。アルムナイ・社員・企業にとって、Win-Winの関係を築くことにより、人的資本を強化していくことが出来ると考えます。

3.人的資本経営とアルムナイ

アルムナイを含めて組織を拡張的かつ自社の人的資本として捉えることが出来れば、この時代に合った非常に強い組織を形成すること、また、退職を資産の流出ではなく溜まり続けるストック型の資産にすることが可能であると言えます。人的資本情報開示の観点では、「比較可能性」と「独自性」が重要視されています。前者においては、多くの企業が社内の人材基本情報から着手し、後者においては、多くの企業において社内の人材拡張情報(マインド・価値観・コンピテンシー等)の取り組みで止まってしまっています。自社を一番良く理解する貴重な社外人材であるアルムナイを拡張組織の一部と捉えることは独自性の一つとしても注目をされており、アルムナイに関する情報を開示する動きが加速しています。

4.アルムナイの取り組みにおいて重要なこと

アルムナイから繋がりたいと思える企業、アルムナイとの信頼関係を構築出来る企業となる為には、以下の4点が重要なポイントです。

点の施策ではなく、ファン化のための長期的な線のジャーニーで考える

“退職者”と言っても、在籍時の経験・辞め方・退職後の経験はその人によって異なります。一度関係が切れたアルムナイと再度関係を構築するには、それぞれの状況に合わせてジャーニーを設計し、会社のファンになってもらうことが重要です。

全ての人に居る理由がある場所にする - There is something for everyone

アルムナイは「再雇用のためのプール」ではありません。企業とつながりたい理由やアルムナイコミュニティに参加する理由は様々です。ニーズを把握して「全ての人に居る理由がある場所」にすることが重要です。それぞれのニーズに合わせジャーニーを設計し、企業とアルムナイの双方にとってWin-Winの関係を築くことは、アルムナイ採用(カムバック採用)のみに特化した取り組みと比べ、より多くのアルムナイとの関係構築を可能とし、双方にもたらすメリットが最大化されます。

辞め方改革 / オフボーディングを実現する

退職時の体験(辞め方・辞められ方)を改善していくことも重要です。ハーバード・ビジネス・レビューでも、10ページに渡ってアルムナイとオフボーディングの特集がされています。オフボーディングに対する対処方法が分からないマネージャーも多いでしょう。ピークエンドの法則を退職にも当てはめてみると、退職意思を表明してから退職までの「エンド」の体験が今後のアルムナイとの関係を左右すると言えることから、企業としてオフボーディングをどう設計していくかが非常に重要であると考えています。

「定着」を再定義する 〜あらたな定着のカタチ〜

これまで「定着」の定義は、従業員としての雇用契約を継続し、可処分労働時間の100%を自社に使ってくれることでした。この定義が徐々に変化しつつあり、アルムナイリレーションシップを築く上では、常に変化し続ける企業と個人の状況とニーズの中、お互いの需要と供給がマッチする時に、繋がっている関係値を継続することが重要であると言えるでしょう。

【PART2】 パネルディスカッション

[パネリスト]
日揮コーポレーションソリューションズ株式会社 池内 達宣 氏
株式会社日立ソリューションズ 小山 真一 氏
三井住友海上火災保険株式会社 加藤 愛子 氏

[モデレータ]
株式会社ハッカズーク 鈴木 仁志 氏

《登壇者の自己紹介》

■日揮コーポレーションソリューションズ株式会社 池内 達宣 氏
 “日揮を母校に“

当グループは、「いつの時代であっても、産業、ひいては社会の基盤を支える存在でありたい」という創業者の想いのもと、産業や社会の基盤を支える存在として「エネルギーと環境の調和」という課題を中心に5つの事業領域に取り組んで来ました。
”日揮を母校にすること””緩く繋がる場の提供”を目的に、2019年に「アルムナイコミュニティ」を有志と人事のサポートにより立ち上げました。設立記念日に「Echo-Day」を開催し、「同業が集まってオンライン対話」をするアルムナイトや、コミュニティサイトを通じた発信を行っています。アルムナイと社員の結節点である事務局としては、「操作変数と従属変数」「アルムナイ事務局の多様性と事務局の内発的動機」「キョウリョク的な役員」を意識して活動を推進しています。

■株式会社日立ソリューションズ 小山 真一 氏
 退職しても、会社と“ゆるく“繋がっていられるコミュニティ

当社では、持続可能な社会の実現に向け、お客さまのサステナビリティに貢献する事業活動と、企業活動による貢献とを一体化させ、持続的な企業価値向上を実現することを目指すべきサステナブル経営の姿としています。50年先も、人財も企業も惹きつける企業になるべく、DX推進や、組織文化・ビジネスマインドの変革を通じた人的資本経営の推進が必要不可欠です。当社では、社会価値の「協創」に向け、トップダウンによる推進に加え、ボトムアップによる組織文化・ビジネスマインドの変革が必要であると考えています。ボトムアップカルチャーを醸成するため、
・ボトムアップ意識を醸成し、発言しやすい「風土づくり」
・自発的に考え、行動できる「きっかけづくり」
・自発的なチャレンジを応援する「仕組みづくり」
の3つの取組みを推進しており、その「仕組みづくり」のひとつとして、退職しても会社と”ゆるく”繋がっていられるコミュニティ”アルムナイネットワーク”を構築しました。再雇用の目的だけではなく、退職者との繋がりを維持し、ビジネス連携も視野に入れています。2022年5月より開始し、社員との交流会の実施、社内報でのインタビュー掲載、新事業創生プロジェクトのセミナーへメンバーに登壇いただく等、活動を推進しています。

■三井住友海上火災保険株式会社 加藤 愛子 氏
 三井住友海上の存在意義 社会課題解決につながる「仕組み」を創るビジネス

当社では、新商品や幅広いサービスの提供を通じ、挑戦をサポートし、新しい文化を創造し、事故のない社会づくりを目指しています。そのためには、顧客志向力と統合思考力の掛け合わせ、即ち幅広い知識と経験が必要であると考えており、未来にわたり、世界のリスク・課題解決で、リーダーシップを発揮するイノベーション企業を当社の目指す姿としています。リーダーシップを発揮するためには、「あらゆる業界でのリスクマネジメントの知見」「ビッグデータ」「ネットワーク&マーケティング力」「世界最先端技術への投資」「人財への投資」が必要であると考えています。人財への投資の観点では、2022年9月にアルムナイネットワークを立ち上げ、アルムナイ同士でのビジネス・情報連携やカムバック採用、また、当社社内のビジネスイノベーションチャレンジプログラム(全社員対象のアイデアコンテスト)における審査員等で、アルムナイの方々に活躍していただいています。

《パネルディスカッション》

Q1. 貴社において、「企業と個人の関係」はどのように変化していますか。またその関係を実現するための企業・人事としてのお取り組みを教えてください。

■池内氏「当社では海外勤務等により不安を抱え、転職を視野に入れる社員が一定数います。エンゲージメントやリテンションの取り組みを実施した上で、転職は仕方ないと受け入れる一方、転職した方が戻って来やすい文化や場の醸成は重要ではないかと考えていました。1対1ではない”場”の提供が当社の最初の取り組みでした。」
■小山氏「組織と個人のパフォーマンスの最大化・エンゲージメント向上の為には、企業と社員が選び選ばれる健全な緊張関係や双方向のコミュニケーションが必要であると考えました。退職はやむを得ないと考える一方、今後その方とどう付き合っていくかの方が重要であると考え、その一環としてアルムナイを構築しました。当社では、オープンコミュニティにおいて様々な社外の方々と協創しており、人的資本経営という意味合いにおいても、アルムナイに限らず、様々な方々と繋がっていきたいと考えています。」
■加藤氏「当社では、全社員総活躍による働き方改革を2016年に掲げ、育児・介護・病気等、様々な制約がある方にも長く働いてもらえるような企業を目指して来ました。キャリアという観点においても、現在の環境下では制約があり、自身の希望が叶わず、やむを得ず退職を選択する社員も一定数いました。そのような方々も制約が無くなった際に、いつでも戻ることの出来る環境があれば、再度ご活躍いただけるのではないかという思いから、2022年にアルムナイを立ち上げました。」

Q2. 様々な制約等により社員の退職をやむを得ないと捉え、戻ることの出来る場を提供していること対して、企業に残ることへのモチベーションが低下する社員もいるように思われますが、何か配慮・対策されていることがあれば教えてください。

■小山氏「当社では、入社5年目以下の社員の退職が多かったことにより、2022年より若年層におけるジョブマッチング制度を導入しました。入社3年目の社員全員に、残留・異動を手挙げで申請してもらっています。」
■加藤氏「当社では、アルムナイの方々がいることにより、ビジネス連携や情報交換が出来、お互いに刺激し合える関係が続いていく意味合いの方が強いと感じています。」

Q3. 社外の人的資本として注目されるアルムナイですが、人的資本経営の観点で注力されていることがあれば教えてください。

■池内氏「当社では、新たな人事戦略の全体像「人財グランドデザイン2030」を策定し、2030年に向けた重要施策を一枚絵にすることで、会社と従業員が同じ目線で見ることが出来るように意識しています。また、人的資本経営は投資であるため、リターンには時間がかかることやトップの思想で施策が変わっては意味がない為、長期視点でのビジョン策定は重要です。人的資本経営におけるアルムナイならではの価値は、”共通言語”を持てることだと考えます。他社に行かずとも疑似体験が出来、相対比較が出来る。企業と退職者各々がアップデートされているため、毎年すり合わせることで、”共通言語”という価値を明確化することが出来ると感じています。」
■加藤氏「社外のカルチャーを持っていることは、アルムナイならではの価値であると思います。当社のカルチャーを認識した上で、社外から見た際の当社に対する意見を率直にいただけるという点は非常にメリットであると感じます。」

Q4. アルムナイとの長期的な関係を構築する上で、KPIとしている指標はありますか。また、アルムナイネットワークへの参加資格やアルムナイの方々に協力していただいていることを教えてください。

■加藤氏「当社でのアルムナイネットワークは、当社とアルムナイがフラットで対等な関係であり、その関係を長続きさせたいという思いがある為、KPIは設定していません。また、アルムナイの方々には、チャレンジプログラムや新卒採用のインターンシップの審査員等にも参加していただいています。」
■池内氏「当社でもKPIは置いていません。2019年にスタートさせてから、実際に数名戻って来るまでに時間を要した印象はあります。また、参加資格は特に設けていませんが、採用と心理的安全性のある”場づくり”は、分けて考える必要があると思います。」
■小山氏「アルムナイの参加資格は、自己都合による退職者で、会社が認めた方としており、競合に転職された方などを入会メンバーから除外していません。アルムナイの方々には、社内報や新規事業創生のプロジェクトに向けたセミナー等にも善意で登壇していただいています。」

Q5. 今後のアルムナイリレーションシップの展望について教えてください。また、貴社が目指すアルムナイとの関係性を一言で表すとどのようなものになりますか。

■加藤氏「今後も、アルムナイと現役社員が双方にポジティブな関係性を生み出し続けていきたいと考えています。だからこそ、当社で働きたいと思われる企業であること、いつでも戻って来ることが出来る企業であると思ってもらえることが重要です。アルムナイとは”同郷のメンバー”であり続けたいと思っています。」
■池内氏「”日揮を母校に”。母校の為に尽くしたいと思う人も一定数いる為、企業に適応するのも良策ではないでしょうか。辞め方改革は非常に重要である一方で、辞めた方々が戻る際の導線をデザインしていくことも必要であると感じています。」
■小山氏「今後はより社員を巻き込んでPRし、上手く連携していく仕組みを作っていきたいと考えています。引き続き”ゆるく繋がれるコミュニティ”として、アルムナイネットワークを継続していきたいと思います。」

◎セミナーを終えて

  • セミナーの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    大変参考になった= 58%・参考になった= 38%・あまり参考にならなかった= 4%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    各社様、アルムナイを単に再入社候補者の人材プールとしてとらえるだけではなく、人的資本経営の文脈で広く自社経営にとってのメリットを考え模索しておられる点が、非常に参考になった。 アルムナイ採用に目を向けがちだったが、ネットワーク・情報交換・協業に向けた機会づくりの重要性を学ぶことができた。 様々な事例と考え方を伺えて、とても参考になった。弊社でもこれから検討していきたい。 導入している企業様の具体的な目的な運用方針などをお聞きでき、大変参考になった。 アルムナイというものに対し、断片的には見てきたが、鈴木様と三社の取り組みから、かなり全容が見えてきたように思う。現役の方々が自身のキャリアを考えるヒントがアルムナイの方々の話からつかめるというのも大きなメリットだなと気づきを得た。 非常にテンポよい運びで経験豊富なパネルディスカッションをエンジョイした。 退職された方とは緩くつながって良いというのが確認できて良かった。再雇用だけではなく、様々なシーンでアルムナイの方に活躍していただく話も聞けたので良かった。 実際に導入されている3社様それぞれにお持ちの考え方や経緯の違いを具体的に聞くことが出来、大変参考になった。 「コミュニティ」としてカジュアルに展開されている企業もあり、アルムナイ制度のハードルが想像していたほど高くはないと感じた。 緩くつながる。有志。KPI設定なし。ポイントだと思った。
  • 登壇者の感想は・・・

    日揮コーポレーションソリューションズ株式会社 池内 達宣 氏

    日揮コーポレーションソリューションズ株式会社 池内 達宣 氏

    2019年、飛び降りながら飛行機を作るように、「まずやってみよう」の精神で作ったアルムナイコミュニティ。アルムナイの形に正解はないと思いますので、各社の文化に合わせたアルムナイコミュニティを作ることが重要だと改めて感じました。あるのかないのかわからないアルムナイ。長続きに必要不可欠な栄養素は事務局の「楽しみ」だと思いますので、一緒にこのアラナミイを乗り越えていけるよう皆様と情報共有したいです。
    株式会社日立ソリューションズ 小山 真一 氏

    株式会社日立ソリューションズ 小山 真一 氏

    手探りの状態ではじめたアルムナイネットワークですが、トライ&エラーで進めていることもあり、各社の考えや取組みは非常に参考になりました。なお、聴講された方とのディスカッションする機会などもあれば、より学びになれたと思いました。ぜひ、皆さんとも連携させて頂きたいです。
    三井住友海上火災保険株式会社 加藤 愛子 氏

    三井住友海上火災保険株式会社 加藤 愛子 氏

    2022年に立ち上げたアルムナイコミュニティですが、まだまだ手探りで進めているところも多くありますが、本当に立ち上げてよかったと思っております。今回このような機会をいただき、各社人事の方々と意見交換や情報共有させていただく場となり、非常に多くの学びとなりました。VUCA時代に必要不可欠なイノベーションの創出には、アルムナイネットワークが重要であることを再認識致しました。また皆様と意見交換や情報共有できる機会を頂けましたら幸いです。
    株式会社ハッカズーク 鈴木 仁志 氏

    株式会社ハッカズーク 鈴木 仁志 氏

    アルムナイとの関係構築は、日本社会における「企業と個人の関係」を変革する大きなチャレンジであり、簡単な取り組みではありません。これからもまだ試行錯誤を繰り返すと思いますが、本セミナーにご登壇された3社、そしてご清聴いただいた皆様と一緒にこの大きなチャレンジに取り組めることを楽しみにしております。