ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2024年7月3日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

リスキリングとしての「教養」と大学で学ぶ意義 ~個性を磨く学びのデザイン~

上智大学 学長 曄道 佳明 氏 

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今回の人事戦略フォーラムは、上智大学の曄道佳明学長をお招きし、教養を学び続ける意義や、身に付けた教養をビジネス上でどのように発揮していくかについて一緒に考えました。以下は講演の要旨です。

1.はじめに ~問題意識~

社会で生きる“人の成長”を支える学び

変化が激しく複雑な社会になって来ている現代においては、「時代に生き、次代に挑む」双方の側面が必要とされており、「人間の軸」を太く強靭にすることが学びの中で達成されなければなりません。

・志や信念を育む学び
・個性を形成し、発揮するための学び
・着想力・構想力・実装力を具備する学び
・社会構造を理解し、課題認識力・展望力を身に付ける学び
・職務遂行のための学び
・新規プロジェクトのための学び 等

上記の様に、数多の学びの表現があり、抽象度が高く効果測定が難しいものから、学びの対象は具体的である一方学びの基盤が不明瞭なものまで様々です。これらを大学での学びと捉えた際に、人の成長や「人間の軸」を太くするための学びには、○○学という言葉ではなく、専門性や教養といったより広いカテゴリーで述べられる言葉の方が適切であると考えています。

「教養」に対する社会の認識

高校での講演において”教養のイメージ”を尋ねると、”具体的なイメージが湧かない”と回答する高校生が大半です。日本の大学では、教養教育と専門教育が”縦置き分断型”で配置されており、高校を卒業したばかりの学生には”一般教養科目”が提供されているものの、低学年でその履修を終え、その後教養科目を学ぶことはほぼないというのが現状です。このことからも、日本社会での教養の認識は、グローバルスタンダードと明らかに異なり、生涯にわたり教養を深め・広めていく仕組みが社会の中になく、また、教育界においても与えられていないと言えます。

リスキリングとしての「教養」?

教養には”創造的意味”があるという認識が欠けているように感じています。教養はスキルではないが、力であるという認識が非常に重要です。「個の創成」という観点では、信念や価値観の創造等において、「他者との信頼の醸成」という観点では、人間性・倫理観・多様性の理解や交渉力等において、「創造力の獲得」という観点では、着想力・構想力・デザイン力・イノベーション等において、教養は基盤や大元であり、切っても切り離せないものです。これらのように創造的な何かを成し得るためには、教養は武器であり力になるものであると考えています。

2.没個性から突個性へ、生産性から創造性へ ~個性を磨く学び~

なぜ個性か

グローバル社会においては、多様性を理解するのではなく、多様性の必要性を認識する必要があり、そこには個性の存在と主張が不可欠です。デジタル社会においては、情報過多である一方、等しく情報を獲得出来ることに伴う画一性を生む危険性が潜んでいます。つまり、グローバル・デジタル社会の双方においては、個性の発揮が求められているのです。個性を形成・発揮するためには、教養・人間性・コミュニケーション力の具備が肝要であり、生涯学ぶ意義とは、個性を磨き続け、「個性としての教養」を獲得していくことなのではないでしょうか。

知識から智恵へ

情報社会において、知識を智恵に創造的に昇華させること、つまり教養から実践智へ昇華させるためには、個性の発揮が必要です。情報は知識ではありません。物知りと教養人は異なります。「知識」は元々備わっているものではなく、外部との接触・学習・情報等からのインプットがあって生まれるものであり、それらを解釈することで知識となります。知識から「智恵」へ向かうためには、知識を蓄積・整理した上で創造していく必要があります。創造的な智恵を発揮することで初めて課題解決や提案等のアウトプットに繋がるのです。智恵を創造するために重要な要素は以下の6点です。

・豊かな人間性
・広い教養(コミュニケーション力を含む)
・高い専門性(職務上のスペシャリティ)
・多角的な視座
・挑戦的な経験
・深い課題認識力と展望力

重要なのは、これらの6つの要素は誰でも持っているものの、これらが個性的でなければ智恵は創造されず発揮が難しいということです。

グローバル社会で信頼を得る

多様性を理解することではなく、多様性の環境を作り、その必要性を認識することが必要です。個性が集まらなければ多様性は生まれません。多様性社会の中で個性を発揮するためには、知識を引き出しにどう整理し蓄積するかということと、経験や体験から得られる「絶対的な」個性が重要です。多様性社会で信頼を得るためには、その人に志や信念があるのか、その人のバックグラウンドは何か、リーダーシップがあるのか、その人が教養人であるのか、これらのことが知らず知らずのうちに問われているのではないかと考えています。

経験値という指標

経験から発せられる言葉は、信頼の獲得になり、経験は新しいチャレンジの自信に繋がり、経験によるものの見方はオリジナリティに溢れることでしょう。自分を知り、多角的な視座を具備し、志や信念・価値観を形成し、社会や他者に奉仕するリーダーシップを身に付けるためには、自身から一番遠い存在を知り、異文化や多様性に触れ、広い世界観や視野を持ち、社会や組織における自分の役割を自覚する必要があります。これらの経験を積むことで、グローバル社会における信頼獲得、それを支えるための個性に繋がっていくのではないかと考えています。

3.大学で学ぶ意義 ~何を学ぶのか、具備するのか 上智大学の場合~

専門性・人間性・教養・コミュニケーション力を学びの観点から見た人の基盤と軸として考えた際に、本学では、総合大学として学部学科各々で専門性を学び、人間性・教養・コミュニケーション力は全学共通で教育しています。私たちは、学びの先にある社会=ビジネスシーンにおいて、人としての成長も問われていると考えているため、学部4年間の枠組みの中で人の成長の本質的な完結性を謳っているわけではありません。

基盤教育

個性としての教養・主体的な知識の整理・知識から智恵への昇華が求められています。グローバル・デジタル社会・マルチステージを生きる基盤創りを、専門教育・語学教育・全学共通教育の連携によって果たすため、本学では、基盤教育という概念を新たに導入しました。入学前に学びを学び、入学後は人間理解・思考の基盤をコアとし、そこから展開していく知(展開知)という考えのもとに履修科目を構成しています。教養とは一生をかけて深く広げていくものであるという認識を学生に持ってもらうため、高学年次においても全学共通教育科目の必修履修科目を敢えて置いていることも特徴です。
展開知…グローバル社会で、知識を深化させ、智恵を創成するために智を展開する力

上智大学プロフェッショナル・スタディーズ

実業界と本学が一体となり、産学協働でビジネスの最前線にいる社会人の教養を実践智に昇華させる新たな学びの場を創出するため、本学ではプロフェッショナルスタディーズを創設しました。個人・組織・社会が学び続けながら新しい社会を創っていく時代、マルチステージそのものを自らデザインする力が要請されています。その力とは、着想・構想・実装に至るプロセスを踏破する力であり、それらを支える智力とは教養に他なりません。異質から着想を得、混沌の中で構想を練り、理念を実装ベースに上げる、そのような教養を実践智として昇華させる智の訓練の場を提供したいと考えています。

4.おわりに ~リスキリングとしての「教養」~

教養を深め・広げていくことは、社会人としての基盤(志や信念・個性形成・実践力・グローバル社会での信頼獲得・豊かな人生設計の基盤)を更新していくことであると同時に、基盤とリスキリングは非常に強く連動するものです。リスキリングによる新たな知識の獲得は、新たな職務における能力の発揮・役割拡大・マルチステージ設計に繋がっていくでしょう。ビジネスパーソンは、スペシャリストであると共に、コーディネーター・コンダクター・ネゴシエーターとしての役割を果たし、職務の専門性・スキルと共に、人間軸を太くし連動させることが肝要です。創造力としての「教養」の深化・広角化が欠かせないことを踏まえると、教養を身に付けるということは広義の意味でのリスキリングと言えるのではないでしょうか。

フォーラム後半では、少人数でのグループ討議の時間を設け、「教養」における気付き・自社におけるリスキリングの取り組み・企業から見た大学への期待等に関しての情報交換を行いました。

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

     ・大変参考になった= 60%・参考になった= 40%・あまり参考にならなかった= 0%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    曄道先生のお話で、「教養」の重要性とその役割が明確になった。是非、多くの従業員にも理解して取り組んで欲しいと思った。 多様性や個性の重要性について理解が深まった一方で、教養をスキルとして扱う上で、会社や組織の中ではその人が、スキルホルダーであることを何かの基準をもって判断する必要があるという、実務上の課題を感じた。そのギャップを埋めるためにどのように考えるべきかもっと深堀したいと感じた。 社会人が学びやすい講座(時間や授業料など)が増えたら良いと思った。 講座の中でのキーワード「個性を磨く」「リスキリングにより社会人としての基盤を更新し続けること」が印象に残った。事業構造が多様化していく中で新たな視点や価値観を得ていくことはこれまで以上に重要になり、その意味でも社外講座への参加や関心をもつこと、その仕組みの構築が人事として重要であると再確認した。 教養を学び続けることの意味を改めて気づく機会となった。 ビジネスの現場での教養教育について、企業人事の皆様のご意見から多くを学ばせて頂いた。今後の教養教育の展開において、活用させて頂きたい。 「学び」「教養」「個性」についての曄道先生のお話はとても参考になった。
  • 登壇者の感想は・・・

    上智大学 学長 曄道 佳明 氏

    上智大学 学長 曄道 佳明 氏

    大学における社会人の学びの場は、産業界との充分なコミュニケーションに裏打ちされるべきものと認識しています。今回、教養が持つ創造性について、大学が多面的な役割を果たす可能性を実感しました。一方で、リスキリングに対する考え方、費用対効果の検証にかかる見解などのご示唆を、今後の展開に活かしたいと考えます。