図解×実践 人的資本経営セミナー
~「要は、何をどうすれば?」を解消する~
Luvir Consulting株式会社 共同創業者 共同経営者 岡田 幸士 氏
このセミナーの案内を見る1.「人的資本経営」のなぜとなに
連日“人や人的資本”に関する記事がいくつも発信され、企業において“人”がますます重要になって来ていることは言うまでもありません。
企業における人の大切さは、2つの”カチ”(価値と勝ち)に着目して語ることが出来ます。「価値」の観点では、国連でのESG投資の表明、SDGsの採択、2019年のビジネスラウンドテーブルでの声明などからも、企業の長期的な持続可能性を追求するため、従業員に対する適切な投資の重要性が世界中で叫ばれています。もう一方の「勝ち」の観点では、人こそが無形資産を生み出す根源であり、企業の最大の資産であることは、既に世界的な共通見解となっており、また、独自性のある人的資本形成の重要性が調査分析結果からも明らかとなりました。このような2つの観点からも、人に対する投資、即ち人的資本経営や人的資本の開示が求められていると言えるでしょう。
「人を大切にする経営」と「人的資本経営」の違いは、前者が”人情によるマネジメント“であるのに対し、後者は”人情と理性による両利きマネジメント”である点です。人的資本経営の本質を解釈すると、人は投資する量によって価値が変わる資産(可変資本)であるため、人に対する投資判断を、理性を持って冷静かつ合理的な目で行うことが求められていると読み解けます。また、投資判断の視点からは、株式や投資信託の投資と同様、企業の勝ち負けを決める“人材”の「特徴・性質」「リターン」「リスク」を見極める必要があります。人も“投資対象”であると考えた場合、投資信託などにおける「目論見書」と同様に、以下の要素を含む人の投資に関する「目論見書」を作っていきましょう。
A:人的資本投資の目的 (どのような人と組織を目指し、どう経営戦略に貢献するのか)
B:投資方針と仕組み (目指す姿を実現するために何を行うのか)
C:リスク要素 (人的リスクにどう対応するか)
D:運用実績・推移 (どのような投資結果になったのか)
人的資本経営に関わる上記A~Cに必要な要素を体系的に整理した以下の7つの領域に関する26の問い(※)に回答していくことで、人的資本経営を踏まえた人事戦略を策定していくことが可能となります。
※7つの領域と問い (各領域に対する問いは、一例です)
①人・組織ビジョン: 戦略実現にどのような人材が必要か
②人材の獲得: 何をあなたの会社の魅力に据えるか
③人材の育成: 必要な人材スペックをどう定義するか
④人材の活躍: 人材のパフォーマンスをどのように高めるか
⑤人材の維持: 人材のエンゲージメントをどのように高めるか
⑥人のリスク低減: 健康をどのように維持・向上するか
⑦人事の体制: 人事組織をどのようにつくるか
2.人的資本経営を踏まえた人事戦略ストーリー策定のポイント
上記の7つの領域のうち、本セミナーでは①~⑤の領域を中心に、押さえておくべきポイントややるべきことを解説します。
①人・組織ビジョン
人・組織ビジョンは、経営戦略と人事戦略の結節点であり、人事戦略の起点でもある重要な領域です。「勝てる組織」にしていくためには、まずはありたい人材像/組織文化と経営戦略が連動していることが要です。その上で、必要な人材の量と質を可視化するためのポートフォリオを作成します。人事戦略に必要な要件を洗い出していくためには、抽象的な区分ではなく、人材のタイプやレベルをある程度具体的かつ実際の運用に耐えられる粒度にて設定することが重要です。
②人の調達
「あなたの会社に入ったら、どのような良いことがありますか?」という問いに、自信を持って答えられますか?まずは、あなたの会社の魅力を6つのEVP(=Employee Value Proposition)、即ち 仕事・報酬・環境・キャリア・人・会社から洗い出してみましょう。洗い出し方としては、トップダウンで考える、従業員に対するインタビューで拾う、ペルソナを作るなどの方法が有効です。EVPは社員に提供することを約束する“価値”となり、EVPを整理すると人材に対して自社の価値を訴求できるようになります。魅力をより高めるためには、マーケティング・ブランディングの考え方(4つのブランド価値=機能的価値・情緒的価値・社会的価値・自己表現価値)を活用することが有効です。洗い出した魅力をこの4つの価値の観点から、自社の何を価値にできるかを整理してみましょう。
③人の育成
人の成長には水平方向(知識・スキル・能力)と、垂直方向(人間としての器)がありますが、大人の学びでは、その必要性を感じてもらうと共に、経験による学びを促すことが有効です。とかくリスキリングなどによる水平的成長にフォーカスを当てがちですが、物事の捉え方を変えなければ垂直成長も望めないため、アンラーニングを促すことも重要です。また、人をリードする立場においては、垂直的成長により多様な価値観を受け入れ、多角的な視野を持った判断が求められてきます。成人学習理論によると、大人の学びには、目的や動機、学習者の経験との紐付けが必要とされるため「何を、なぜ学ぶべきか」をまず学んでもらうと同時に、学習を促す職務状況(修羅場)を経験してもらう必要があります。具体的には、変化の創出が必要な状況や、高いレベルの責任を伴う状況、障害のある状況等が、それにあたります。その際はフォローやフィードバックも怠らず、両面での成長を促していくことも非常に重要です。
④人の活躍
パフォーマンスを高めるためには「個人」「仕事」「同僚」「働く環境」という4つの要素にアプローチしていく必要があります。「仕事」に焦点を当てると、人と仕事の完全マッチングは困難ですが、パフォーマンスが高まる仕事になるよう、会社と人材双方から歩み寄りを行うことは可能です。エンゲージメントやパフォーマンスが高まる仕事とは「ミッション・役割が明確である」「裁量や工夫の余地がある」「達成感・成長感を得られる」等が、例として挙げられます。会社から人材への歩み寄りのステップとしては、職務の意味や意義を伝え、可能な限り権限を移譲し、仕事のやり方や方向性の改善を話し合うこと、それに加え、継続的な達成感や成長感を得られるよう、社員の力量に応じて難易度調整を行うこと等が有効です。一方、人から会社への歩み寄り方としては、ジョブ・クラフティング(仕事の内容や方法、人間関係、意義の捉え方の3つを構成し直すこと)の手法を社員に学んでもらうことにより、人の認知を変え、自らの仕事に対する意義を感じてもらうことが出来る状態を創り出すことも大切です。
⑤人の維持
承認欲求は誰しもが必ず持っています。金銭的な報酬だけでなく、非金銭的な報酬も組み合わせることで、以下の4つの承認を行い、欲求を健全に満たすことがポイントとなります。
●結果承認: 行ったことや出した成果を認める
●行動承認: 望ましい行動について認める
●成長承認: 以前と比べた成長度合いを認める
●存在承認: その人の存在自体を認める(これは上記3つの承認の土台となる)
3.人事戦略ストーリーを作ってみよう
人事戦略と可視化・開示は表裏一体であり、人的資本経営の実践に可視化・開示は欠かせません。「人事戦略の策定」「可視化・開示」「フィードバックを受ける」「フィードバックをもとに、改めて人事戦略に修正を加える」というサイクルを回していくことが、健全な人・組織をつくり、人材・顧客・経営者・株主にとって素晴らしい企業へのステップになっていくことでしょう。“自社として”以下の8つの問いを考え続けることが、独自性のある人的資本の構築、ひいては競争優位性へと繋がっていきます。
●企業使命・経営戦略にどう貢献するか?
●ありたい人・組織の姿はどのようなものか?
●どのように人を調達するか?
●どのように人を育成するか?
●どのように人の活躍を促すか?
●どのように人を維持するか?
●どのように人が抱えるリスクを低減するか?
●どのように人事体制を構築するか?
その後、セミナーでは、自社組織がどの程度のレベルなのかを診断する『人的資本経営 実践度診断』(簡易版)を個人ワークにて実施し、その診断結果をもとに参加者同士での課題共有やアドバイスをもらうディスカッションを行ないました。
また最後に、ワークショップを通してのインプットとして「人事戦略フォーマット」を参加者が作成する時間を設け、本セミナーは終了しました。
◎セミナーを終えて
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参加者の意見・感想は・・・
大変わかりやすい説明だった。頂いたフレームワークを使いながら、仲間と一緒に考え、CHROとも是非コミュニケーションを取っていきたい。 体系的で非常にわかりやすく、また実践編にも時間を割いて頂いたので自社の現状を棚卸する良い機会となった。 人的資本経営について俯瞰的に考えることができた。 具体的なフレームワークがわかりやすく有益なセミナーだった。 講義内容がとてもわかりやすくて、ありがたかった。グループ討議では皆さんの悩みや取り組みの状態が似たり寄ったりであるところに、ある意味驚きと安心があった。 今回のように、人的資本経営についていろんな切り口や事例を通じて理解をする場があると良いと思う。途中で、参加者間の意見交換ができたのも良かった。 グループ討議で同じような悩みを抱えている会社があることがわかったが、もう一歩進んで、自分探しの葛藤を乗り越えた事例紹介等もあると良かった。 -
登壇者の感想は・・・
Luvir Consulting株式会社 岡田 幸士 氏
「私自身が、各社において『人的資本経営や開示にどういった悩みがあり、どう受け止めているか』というリアルな状況を知ることができ、とても良い機会となりました。セミナーでご提供したフレームワークやツールが皆様の会社の課題解決の一助になれば幸いです」