ホームセミナーセミナーレポート人事実践セミナ 2023年1月26日

セミナーレポート

人事実践セミナー

「エンゲージメント×キャリア自律」から考える
キャリア支援を実践する管理職の必要性

株式会社NEWONE 取締役 葛西 健一郎 氏

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今回の人事実践セミナーは、株式会社NEWONEの葛西氏をお迎えし、部下やメンバーのキャリア自律を支援する上での管理職の役割やその重要性をテーマに、人事/人材開発部門はどの様な武器(知識・ノウハウ・ツール等)を用意したら良いのかを、エンゲージメントとキャリア自律の両面から考えました。以下は、講演の要旨です。

■Section1: 変化する環境におけるエンゲージメントとキャリア自律の関係性

1社で働き続けることが当たり前であった時代から、現在では新卒内定者が既に2社目・3社目もスコープに入れていることからもわかるように、この約30年間で働くことに対する世界観や価値観が大きく変化しました。そうした環境変化に伴い、高い「エンプロイメンタビリティ」を有する企業と優れた「エンプロイヤビリティ」を持つ働き手が互いに「選び合い」、共に成長していくことが重要です。双方が「選び合う」関係性に変わってきているからこそ、組織が注目すべき指標がエンゲージメントであると言えます。
エンゲージメントとは、企業と従業員、仕事と従業員の”つながりの強さ”や、組織に対する”自発的な貢献意欲”、主体的に仕事に取り組んでいる心理状態等を意味します。従業員満足やロイヤリティ(忠誠心)は会社と社員のどちらか一方、モチベーションは社員の一時的なものであることに対して、エンゲージメントは自発的な貢献意欲により、会社と社員が対等に繋がるイメージだと思ってください。そのためにエンゲージメントの向上は、収益性・生産性の向上だけでなく、品質欠陥や離職率の低下にも効果があるというデータも示されています。仕事を「やらなければならない」(have to)状態ではなく、「仕事をやりたくて仕方がない」(want to)状態を作ることが重要です。では、どのようにエンゲージメントを高めていけば良いか。エンゲージメント向上のためには、キャリア自律を支援することが不可欠であると考えます。

「キャリア自律」とは何か。これからは、組織の中でキャリアを主体的に築く組織視点でのキャリア自律ではなく、社会の中でキャリアを主体的に築く個人視点でのキャリア自律が求められます。これまでは、キャリアとは1つの組織で昇進するための”過程”でしたが、プロティアン・キャリア論では、キャリアとは能力を蓄積していく”過程”とされており、組織は経験を積むための場として捉えられています。つまり、キャリアの所有者が組織から個人に変わり、成果は地位や給料から心理的成功(自らの目的ややりがいを達成したことによるもの)へと変化しています。キャリア自律のゴールは、得たいやりがいや目的を「自己決定」し、そのために取り組むことや取り組み方を「自己決定」出来ている状態です。企業がキャリア開発を行う意味は、キャリア開発によって内発的動機を向上させ、それがエンゲージメント向上に繋がり、最終的には人的資本の最大化に通ずると考えています。

■Section2: キャリア支援が機能しない管理職の認知の罠を超えるポイント

そもそも何故、管理職に注目しなければならないのか。それは、労働環境や給与よりも上司との関係や関わりがよりエンゲージメントに影響を及ぼすというデータからわかります。
次に、多くの管理職の方々とご一緒する中で見えて来た、キャリア自律やキャリア支援の観点における管理職が陥りやすい”認知の罠”をご紹介しましょう。

【5つの思い込み】

①キャリア支援をすると、離職する可能性を高めてしまう
②部下のキャリアの意向を聞くことは、不満やズレを生むことになる
③キャリアの意向がない人には支援できない
④キャリア支援は工数がかかる
⑤キャリア支援とは多くの面談を行うことである

【作るべき変化の兆し】

① 「キャリア支援=離職」ではないことを理解する
「従業員のキャリア自律に関する定量調査」(出典:パーソル研究所)のデータによると、キャリア自律と転職意向の間に相関関係はないことがわかります。

② 「キャリア=ポジション論」ではないことを理解する
キャリア自律支援とは、メンバーへの問いかけ等のかかわり合いの中で、現状から”ゴール”に向けて自ら進んでいく支援であり、この”ゴール”は”心理的成功”であるということを理解する必要があります。但し、ポジション(昇進・昇格)が心理的成功である方もいるため、ポジション論がNGということではありません。

③ 意向が言語化できない人もいるが、キャリアアンカーは存在している
多くの管理職は「キャリア」と聞くと「キャリアビジョン(主にポジション)」をイメージしていますが、キャリアの意向には「キャリアアンカー(仕事観/何を大切にしていきたいのか)」が含まれています。この2つの混同により議論が進まないことが多いと思いますし、キャリアアンカーを引き出してあげることも管理職の役割のひとつです。

④ 1on1の注力ポイントに傾斜をかけるだけで、むしろマネジメントが楽になる
1on1とは、上司と部下が1対1で向き合い話し合う30分程度の対話を頻度高く行うことです。大前提となる信頼関係を部下と構築しつつ、今後は「キャリアビジョン」「キャリアアンカー」「強みの抽出」などに力点を置くべきであると考えます。

⑤ 「キャリア支援=面談」だけではないことを理解する
キャリア自律のゴールは「自分なりの心理的成功を得ている状態」つまり、得たいやりがいや目的を「自己決定」し、そのために取り組むことや取り組み方を「自己決定」出来ている状態です。皆さんがビジネスシーンで心理的成功を感じた瞬間はいつでしょうか。これまで取り組んで来た仕事や今取り組んでいる仕事と未来につながりを感じた時に、心理的成功を感じることが出来たのではないでしょうか。管理職は、メンバーが取り組む仕事と、メンバーが持っているキャリアの意向(今/未来の自分)を”つなげる”結節点としての重要な役割を担っています。会社のWhy(上位方針とどうつながっている仕事なのか)とメンバー本人のWhy(自分の意向ややりがいとどうつながっているのか)を意識し意味付けを行うことで、本人が納得して自律的にパフォーマンスを発揮することに繋がると考えます。「ジョブアサイン」や「フィードバック」の際に、忙しい日常の中でも「つなげる」を意識し実践することは可能であり、「キャリア支援=面談シーン」ではなく、日常の関わりの中でキャリア支援を行うことが重要です。

講演に続いて、葛西氏が参加者からの多数のご質問に一つひとつ丁寧にお答えいただき、セミナーは終了しました。

◎セミナーを終えて

  • セミナーの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    当社では私自身も含め、まだまだキャリア自律に対する認識が低く、やりがいや取り組み方を自己決定するための環境も整備されていない。そうした中で、本日の講演の「心理的な成功を得た瞬間」への問いかけには、たいへん共感した。確かに、誰もが持っているだろう、会社との繋がりを感じた際の経験は、これからのキャリアを考える上での大切なポイントになると思った。また、個人の能力を分解し、業務に求められる能力と結び付け、仕事の意義を提案することは、これから常に意識していきたい。 当社は現在、キャリア支援策の検討を進めており、管理職がポイントとなることは理解していたが、今回のセミナーで管理職の役割・職責やその根拠等を勉強させてもらい、とても参考になった。 多くの経営層や管理職の世代は、自身のキャリアを考えたり、キャリア教育を受けたりした経験がないと思うが、これだけ世の中でキャリアが重要視されていることにキャッチアップし、自ら学んでほしい。また、キャリアの問題だけでなく、D&I、エンゲージメント等、当社に限らず時代の変化についていけない困った人達が沢山いる日本の現実はなかなか根深いことを、本日の講義から改めて痛感した。 素晴らしいセミナーだった。エンゲージメント、キャリア自律、1on1など、普段それぞれに独立して考えていたテーマの相互の関係性が、わかりやすく説明されていた。 言葉の定義等を、しっかりと確認しながらの進行方法が、とてもわかりやすく、たいへん勉強になった。 これまで、キャリア自律についての施策とエンゲージメント向上に向けた施策とを分けて考えていたが、その繋がりについて非常にわかりやすく説明してもらい、よく理解できた。過去の働き方から意識を変えることが難しい管理職層もまだまだ存在し、そうした方々にどのようにアプローチしていけば良いのか悩ましい場面も多々あったが、メンバーのキャリア自律についても、エンゲージメント向上の重要性についても、腹落ち感が得られるような説明のヒントを幾つかいただけたので、当社でもこれを実践し、引き続き取り組みを強化していきたい。 管理職が陥る認知の罠はありがちで、当社で今後、キャリア支援の重要性を管理者層に説明する際に使える内容だった。また本セミナーにこれだけ多くの企業から参加があるということで、改めて本テーマへの関心度の高さを感じるとともに、エンゲージメントを高めないと人材の獲得面で競合に負けてしまうという危機感も抱いた。非常に有意義な時間になった。 エンゲージメント向上には、社員の「自己決定感」を生み出すことが重要とのお話に、今後の施策を考えていく上でのヒントを得た気がする。 エンゲージメント向上とキャリア自律に関する具体的な打ち手について、たいへん参考になるセミナーだった。外部のツール等も参考にしながら、内部・外部双方から組織全体のレベルアップを企画したいと思う。 「キャリア」や「エンゲージメント」という言葉の意味に対する解像度が上がり、取り組みを考える上での材料が増えた。 当社はどちらかと言えば、ダイバーシティ推進が停滞気味だが、他社の状況は今、どのような感じなのか?ますます加速しているのかどうか?また何人体制で推進しているのか?等、いろいろと悩ましい。また、国からの要望が多すぎる。イチ担当者ではなく、経営層にまず指導してほしい。 どちらかと言えば抽象的で雲をつかむような?今回のテーマだったが、具体的且つ現場目線からの講義により、しっかりと理解できた。葛西氏のお話の上手さとファシリテーション力には、非常に好感が持てた。
  • 登壇者の感想は・・・

    株式会社NEWONE 取締役 葛西 健一郎 氏

    株式会社NEWONE 取締役 葛西 健一郎 氏

    「管理職に求められる、エンゲージメント向上とキャリア自律を両立させるというテーマに対し、あるべき論だけでなく、皆さまからのチャットやQ&Aを通して一緒に考えさせていただく時間にもなりました。積極的なご質問が大変嬉しく、ご関心のあるテーマに対して、少しでも多くのヒントをお持ち帰りいただけたならば幸いです」