データから見た、ミドル・シニア人材をめぐる労働市場のリアル
株式会社パソナグループ 常務執行役員 CBO Masters Advantage(兼)株式会社パソナマスターズ 代表取締役社長 中田 光佐子
株式会社パソナ 常務執行役員 岩下 純子
株式会社パソナJOB HUB ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長 加藤 遼
今年1年間展開してきた「ミドル・シニアのキャリア自律」のオンライン講座の最終回は、ミドル・シニア人材の労働需給の状況を、パソナグループ各社の様々なミドル・シニア向けサービスの利用実態の客観的データから紐解き、ご紹介するプログラムとしました。
【PART1】 働き方変革による「個人が主役」の働き方の拡がりと人的資本経営に与えるインパクト
パソナJOB HUB 加藤 遼
企業依存社会から個人自律社会へと向かう中で、社員一人ひとりが、自身が主役である働き方を望む傾向が強くなっており、またそれを応援する企業は業績を伸ばしています。
ワークスタイルトランスフォーメーション(働き方変革)も進み、フルタイムオフィスで働く時代から、パラレルキャリアやテレワーク、ワーケーション、更にはハイブリッドキャリア、デジタルノマド等、所属も場所も時間も自由に選び働くスタイルへと、そしてプロフェッショナル・副業・兼業といった、個人が主役で才能をシェアする多様な働き方へと、時代は進化しています。
(1)プロフェッショナルシニアの活躍
パソナ顧問ネットワークでは、企業様とはコンサルティング契約を、登録された方とは顧問契約を結び、企業の経営やイノベーションの支援をしています。案件職種・支援先の業界、共に幅広いことが特徴です。
(2)複業人材の活躍
「JOB HUB LOCAL」では、地方自治体と連携の上、地域企業と複業人材をマッチングし、地域企業の経営支援を行っています。2018年頃から地域で貢献したい人材が増加し、それに伴い、様々なプロジェクトを立ち上げています。ある地域プロジェクトでのアンケート結果によると、コロナ禍を経て、今後の人生を熟考した結果からか、40~50代前半がボリュームゾーンとして最も多く、その多くが会社員として就業しています。また、複業先を選ぶ際に魅力を感じる点として、「企業理念・ビジョン」「経営者への魅力」という回答が多いことから、収入のためではなく、自身が共感する理念を持ち、経営をしている企業で働くことで、人生の視野を広げると共に、今の会社ではなかなか出来ない経験を積みたいと感じている方が多いことがわかります。
(3)プロ人材・複業活用と人的資本経営
プロ人材や複業人材を活用するメリットとしては、「社内にないノウハウや技術の獲得」「組織の活性化と、社員のスキルアップ」が挙げられます。実際に地域企業社員と複業人材が一緒にプロジェクトに取り組むことで、仕事に対するマインドやプロフェッショナルなスキルを身に付けることが出来、人脈・ネットワークという観点でも非常に学びになり、成長すると考えられています。また人的資本経営の観点からは人材戦略が最も重要であり、「動的な人材ポートフォリオ」「知と経験のダイバーシティ&インクルージョン」「リスキル・学び直し」に紐づく、組織を支える人事施策として、プロ人材や複業人材の採用や教育投資というテーマが浮上して来ます。このような点から、プロ人材・複業人材を活用することと、人的資本経営を実践していくことの繋がりが見えて来ると思います。
(4)副業・兼業と人的資本経営
現状、企業による副業・兼業パターンは、企業主導での“推奨型”よりも、個人主導の“容認型”が大半です。日本経済団体連合会実施のアンケートによると、自律的なキャリア形成支援に取り組んでいる企業ほど、社外での副業・兼業を「認めている」「認める予定」と回答しています。このことからも、組織を越境して副業・兼業を上手く活用することは、リスキル・学び直しの有効な手段であると考えます。企業としては、多様化する個人の価値観の変化に合わせた様々な人事施策のひとつとして用意しておくと良いのではないでしょうか。
働き方の変革は、人が育つチャンスです。自社に多様な人材を受け入れながら、越境により如何に育っていくか。人的資本経営の実践と繋げて見ていくと面白いのではないかと考えます。
【PART2】 ミドル・シニアの中途採用マーケットの現状
パソナ 岩下 純子
ミドル・シニアの転職市場を見ると、転職者数は年々増加傾向です。2018年から2021年の転職決定者のデータから見ると、40代以上の転職者も増加していることがわかります。
また、どの年代においても職種を変えて転職する人は少ない一方、40~50代は業界を変えて転職する人の割合が増えています。こうした結果の背景には、以下の3点があるのではと考えています。
①事業拡大スピードの加速
②スピーディな戦略実行の必要性から、社内登用だけではない即戦力の採用
③新規参入の領域における必要人材を外部から登用
スピード・即効性がキーワードとなり、スピーディに対応していくために、社外から採用することが必要となっているのではないでしょうか。その際に、当該事業周辺の業界(同業)だけではなく、他業界も競合になり得ることや、若手にこだわらず、外部からミドル・シニア人材を正社員として採用することが、自社にとっての有益な手段として拡がっていることをお伝えしたいと思います。
【PART3】 シニア活躍のリアル~いま、活躍しているシニア人材とは~
パソナグループ/パソナマスターズ 中田 光佐子
(1)シニア活躍の現状
シニア派遣は、経験を活かし“柔軟な働き方”が出来るという点で、シニアの方にとって最適な働き方であると考えています。
シニア稼働者の年齢分布データでは、この5年間で65歳以上が大半を占める結果となりました。平均年齢が66.7歳、最高齢が82歳であることからも、シニア活躍の更なる高齢化が促進していることが伺えます。
シニア稼働者の職種としては専門・技術職や事務職が多く、活躍の幅が広がっており、技術職や専門職の活躍増加により、支払時給の平均値も右肩上がりになっています。
また、派遣社員として働くシニアの約7割が社会保険に加入し、60歳以降も年金被保険者として活躍中です。1日あたりの契約時間の平均は7時間を超えている一方、1週あたりの勤務日数は2~3日の方が多いことからも、長期的に安定した勤務を継続されるためには、こうした柔軟な契約形態も一理あるのではないでしょうか。
転職・転身実績のデータから、50代前半と60代後半を比較すると、年代別の平均年収が56%ダウンしていることからも、早い段階で転職・転身活動をした方が、より高い年収で再就職出来ることがわかります。これまでの当社の支援事例から、年齢以外の条件がマッチングしている場合には、企業と個人双方が可能性を信じてチャレンジし合うことも大切であると感じています。
(2)シニア人材を知る
シニア活用のメリットとして、「即戦力として期待できる」「経験や人脈が活用出来る」「若手人材の教育や成長につながる」「ダイバーシティの実現」等が挙げられる一方、「体力面・健康面」「新しい職場環境への適応力」という点は、気を付けるべきポイントです。
当社内のアンケートによると、仕事がスムーズに決まるシニア人材の特徴としては、専門性や技術・技能は勿論重要ですが、仕事スキル以外に「モノや他者に対して柔軟で寛容」であることや、常に学ぶ姿勢など、性格スキルを磨くことも大切であることが分かります。
シニア活躍が促進しない理由としては、シニアの方が自身を高齢者であると認識していないことや、本人の自覚のみならず周囲からの反応や社会とのつながり等も影響していると思います。加齢により全てを喪失するわけではなく、「歳をとっても衰えない能力」を活かして活躍いただけるように企業側がサポートすることも大切です。ミドル・シニアの働き方としては、お互いのバイアスを取り除きながら、会社が個々人に合った活躍の場を提供することが必要なのではないでしょうか。
【PART4】 登壇者3氏によるトークセッション
「データから読み取れる、ミドル・シニア人材活躍のヒント」
《論点1》 副業・兼業を企業が始める際にどのように始めたら良いか、上手な浸透方法や機運の情勢等、良い事例があれば教えてください。
自分自身のことを考えても、社内・社外副業をする中で、対外的に発信することを大切にしていたのと同時に、会社として推奨してもらえたことで、背中を押してもらえました。
企業側がバックアップするために、従業員向けのキャリア研修のカリキュラムの中に、兼業・複業についての情報を盛り込んでいる企業もありますし、地域活性化・地方創生等に取り組んでいる企業では、その分野に興味がある従業員の方へ情報提供し、ご案内しています。
副業・兼業の具体的な事例や、経営者や人事の立場から従業員向けに副業・兼業に対するポジティブなメッセージを発信することも大切であると考えています。
また、上司・上長が部下との面談の中で、その方が今後何をしていきたいのかといった希望をしっかり聴いてあげることも大切です。
《論点2》 どの企業も人材不足が課題となっている中で、求職者向けに職種や業務内容を明確に示すことに加えて、どのような情報を企業が準備するとエントリーが増えるか教えてください。
ミドル・シニアを念頭に置くと、その後のキャリアパスを明確に示すことと、働き方の柔軟性という観点からの情報や、これまでの実績や事例の開示が大切であると考えています。再雇用の実績がどの程度あるのか。中途採用から管理職・役員登用の実績があるのか。また、コロナ禍でワークスタイルが変わったことにより、働き方の柔軟性を求めている人材も多いため、多様な働き方が出来る会社が選ばれていると感じます。
《論点3》 活躍するミドル・シニアは、自身のキャリアをしっかり考えている人、キャリア自律をしている人かと思いますが、そうした人材を増やしていくためにはどうしたら良いでしょうか。
場所と人とテーマ、その全てを変えると、人は変わります。全く異なる環境に身を置くと、自身の中にあるリソースを最大限に発揮しなければなりません。普段働いている中で発揮することのなかった内なる可能性を発露し始めるのです。その点においても、本気になる機会を提供することや、実際にキャリア自律をしている人に会うことは重要で、周囲にそうした人達がいると、それがチャレンジに繋がっていきます。そのための手段としても、越境や転職、兼業・複業はとても重要であると考えています。
◎公開講座を終えて
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参加者の意見・感想は・・・
当社では定年後再雇用(60~65歳)は行っているものの、65歳以降のキャリア自律やシニアの中途採用・派遣採用の実情に疎かったため、今回情報収集したく参加した。会社としては現状65歳までの対応や案内で手一杯だが、65歳以降も含めてキャリア自律やキャリア形成をサポートできるよう、改めてシニア社員への対応や接し方を検討していきたい。 人事・労務担当者として再雇用者の対応を行なっているが、当人達は雇用延長のような感覚で、再雇用になったら給料が下がるから、あまり仕事したくないというようなモチベーションになるケースが多く、悩んでいた。今回のセミナーを拝聴し、今後に向けてのヒントを頂けたかなと思う。また、自分自身のセカンドキャリアについても考えさせられる良い機会となった。 自ら一歩踏み出してみようかと思わせる情報提供の方法や施策について、たくさんヒントを頂いたので、是非参考にしたい。 現在の日本社会でミドル・シニア層の力が必要であることが認識できた。またそうした人たちのモチベーションをどう上げていくかが重要であると感じた。 会社からの働きかけで、変わってくれる可能性のある方については、大変参考になった。一方、専門性や強み、興味関心のある分野などが特にないまま、シニアやその予備軍になってしまっている人への対応策に悩んでいる。パソナマスターズなどで軽作業などの紹介を受ける、といった方法も考えられるのだが、定年再雇用で残り続けるほうが処遇面で有利なため、どうしても意に沿わないので、会社にはしがみつくという方が多く困っている。 越境体験の環境が参加者のキャリア自律を促し内面を大きく変化させる可能性を持つ点は、本当にその通りだと思った。 ミドル・シニアの活躍が当社の将来を左右することに気付かされた。ミドル・シニアともに組織の重要なポジションにあることを再確認した。 テレワーク勤務や副業制度など、ハード部分の整備を進めてきたが、なかなか社員のキャリア自律へと繋げることができていないと感じていた(特にミドル・シニア層について)。今回のお話の中で、「研修や会社からの情報共有など、様々な手段を多く提示し、選択してもらう」という点に納得した。会社からのメッセージや提示に対して反応の薄い社員に対し、反応の薄さにあきらめや失望するのではなく、その社員がどのような手段を提供すれば、自身のキャリアに向き合うきっかけとなるのか、メンバーと知恵を出し合って実行していきたいと改めて感じた。ミドル・シニアのキャリアは、会社によって課題感の幅は大きいかと思うが、引き続きこのようなテーマのセミナーに参加させて頂きたい。 データのみでなく、現場の声もお聞かせ頂き、とても有益だった。 シニアの働き方・転職について、テータ・事例など豊富に示してもらい、具体的なイメージが出来た。 シニアの活用は今後活発になっていくと思うし、自分自身もシニアになっていくというところで、自分自身のキャリアを考えていく上でも大変参考になった。 60~64歳の年齢は、非常に微妙だと思った。個々の考え方次第で、今後の道が違ってしまうことを本日のセミナーで実感した。 3つの違う立ち位置からの登壇者が、それぞれミドル・シニアの課題をとらえ解説してくれたのが、とても分かりやすく参考になった。 副業に関するQAは良かった。2社にまたがる雇用関係は法的な問題があり、やっぱり広がらないと思った。 副業、兼業の状況やミドル・シニアの転職、高年齢者の活性化などを考える上で大変参考になるお話しを聞くことができた。 転進に成功しやすいシニアは、スキルよりも働く姿勢やマインドだというところが興味深かった。こういった姿勢を醸成するために必要なもの、会社ができること、研修サービスの紹介をして頂けると助かる。 最近、ジェネレーションの違いによるキャリア感の差を強く感じる。バブル世代(⇒最後は会社がなんとか救ってくれるから、滅私奉公こそ生き残りの最善策)、団塊ジュニア~ポスト団塊ジュニアのX世代(⇒就職氷河期を経験し、自分の身の丈を意識し、自分のことは自分で守る意識の強い世代)、ミレニアムZ世代(⇒ようやくバブル崩壊から抜け出し、社会的な価値やパーパスを重視するデジタルネイティブ世代)、この3つのジェネレーションと価値観が混ざり合っているのが、現代の企業のポピュレーションとなっている。そして、それぞれの世代は理想とするロールモデルが微妙に異なっている。バブル世代のセカンドキャリアについて、世の中の中心年齢がZ世代となった社会で、どのように自身のアイデンティティ保ちながら、共存していく姿が理想なのか?答えがない話だが、知見のある講師の講演を聴いてみたい。 ミドル・シニア人材については、能力を活かし活躍してほしいという期待があるが、モチベーションの減退や勤務態度の悪化が目に見えてしまうケースもある。報酬が減少傾向にあること、役割責任が変更になることが起因かと思うが、モチベーションを向上させながら働いてもらうにはどのような施策が必要かを聴いてみたい。 DE&Iの観点や、今後の労務構成からもミドル・シニア層の方に活躍して頂かなければならないが、人事制度に、どのような見直し・改善が必要なのか、そうしたテーマでセミナーをやって頂けるとありがたい。 -
登壇者の感想は・・・
パソナグループ/パソナマスターズ 中田 光佐子
「『歳を重ねることで、また新たな道への可能性が広がった!』ミドル・シニア層の皆様にはそんな想いを、そして企業の皆様には『ミドル・シニアの可能性を活かしたい!』と感じて頂けるよう、多様な活躍のフィル―ドや仕組みを創り、皆様のお役に立ちたいと思います。この領域は、まだまだ緒に就いたところ!これから皆様と共に、チャレンジして頂けたら幸いです」パソナ 岩下 純子
「ミドル・シニアの活躍フィールドは、ますます広がっていることを実感しています。雇用形態にとらわれず、これまでの豊富な経験を生かして活躍して頂けるフィールドを探索する機会がますます増えていくと良いなと感じています。今回の公開講座がそのきっかけになったなら嬉しいですね」パソナJOB HUB 加藤 遼
「組織や地域の”越境”による刺激的な原体験を通した、マインド・スキル・ネットワークの進化が、キャリア自律やワークエンゲージメント・ジョブクラフティングに繋がります。働き方変革や人的資本経営によって、副業・兼業やワーケーションが推進され、”越境”機会が創出し拡大していく流れは、より加速していきます」