男性育休推進で組織に変化を起こす取り組み
~いつまでも、誰かが欠けたら困る組織で良いのでしょうか?~
スリール株式会社 代表取締役社長 堀江 敦子 氏
このセミナーの案内を見る今回のダイバーシティ研究会では、改正育児・介護休業法(産後パパ育休)がこの10月から施行されるにあたり、数多くの企業のダイバーシティ推進を支援してきたスリール(株)の堀江敦子代表をお迎えし、男性育休推進をきっかけに、強くしなやかな組織へと変化を促すポイントと、会社の置かれた状況別に人事が取り組むべき対応について、紹介していただきました。また、育休取得の経験者との対談や、(株)パソナフォスターからは”育児コンシェルジュ”サービスの紹介も行いました。
以下は、堀江氏の講演の要旨です。
■男性育休の義務化と組織のメリット ~男性育休で組織に変化を起こす取り組み~
(今回の法改正ポイントを紹介した後)人事がやらねばならないことは、①制度説明と体制整備②啓発・研修③雇用環境の整備④取得状況の公表の4つです。これらは特別なことではなく、人事が組織変革のために日頃実践していることに似ています。例えば、働き方改革から始まった労働環境や企業風土の改善の延長線上に、育休を取得しやすくする組織風土の醸成やチームで仕事をする仕組みづくりがあります。男性育休を「やらなければならないこと」と捉えるのではなく、「組織を変革する上でのチャンス」と捉えていきましょう。
(1) 男性育休の推進のためには
「企業としてメリットになる」育休の仕組みを用意することは大切ですが、会社の状況によって取り組むべき優先事項は異なります。具体的には、
【啓発】 育休取得の実績がない場合や、経営者が制度や意義を理解していない場合には、まず実施の背景や他社事例を含めて、認知・啓発を図ることに注力してください。
【研修】 育休を言い出せる雰囲気がない場合、管理職の理解がない場合、育休に関する研修を行ったことがない場合、本人達だけでなく、上司に対しても研修を行うことに注力してください。
【仕組み】 既に啓発や意識醸成が出来ている場合や、既に男性社員の育休取得実績がある場合には、仕組みを更に強化することで、多くの人が取得しやすくすることに注力してください。
【雇用環境】 部署によって雇用環境に差があり、取得しやすさに差がある場合には、人事部も介入して当該部署の働く環境を見直すことに注力することが必要です。
(2) 男性育休を押し進める最大のメリットとは
男性育休の推進をきっかけに、様々な制約があっても働ける「労働環境」をつくり、個々の強みが活かされ、成果が出る「風土」の醸成を進めることは、結果として、多様な状況の社員が活躍できる風土の醸成につながります。男性育休の推進は、多様な人財が活躍する組織づくりにつながり、ダイバーシティ&インクルージョン実現の一歩となるのです。
企業や組織のメリットは、①社員のエンゲージメント&ロイヤリティの向上②採用面においての優秀な人財へのPR③脱・属人化組織④生産性が高い働き方へのシフトの4点です。男性育休を推進するにあたり、企業から困りごととして列挙されることが、実は最大のメリットに転化するのです。
(3) 事例紹介
1か月間の男性育休取得率が100%の積水ハウス(株)では「男性育休1カ月にデメリットなし」との社長からの力強い後押しのメッセージがありました。同社の育休に関するアンケート結果を紹介します。
①育休取得男性の方が仕事を前向きに取り組み、エンゲージメントも上がる傾向を示している。
②就活層の73.8%が「男性育休を推進している企業を選びたい」と回答している。
③育休取得男性の78.5%が「男性の育休制度は、仕事に好影響を与えると思う」と回答している。
④育休取得男性の70%弱が「生産性向上に役立つ」と回答しており、この回答は増加傾向にある。
(4) 男性育休の効果を出すには仕組みが重要
育休経験を業務に活かすためには“取るだけ育休”に終わらせることなく、職場内・家庭内で、取得目的・育休中に実施することなどを、ヒアリング等で明確にすることが大切です。業務引継について整理することも重要です。また、会社方針や産前・産後の基礎知識などの研修や体験者座談会、1年後のビジョンシート作成等は、本人のマインドセットだけではなく、他の社員への啓発・取得意向の調査にも役立ちます。さらには43.9%の上司が「部下に育休取得を打診された時に不安を感じる」との積水ハウス(株)の調査結果が示すように、管理職向けには制度の説明をするだけではなく、個別マネジメントや働き方改善についての研修も行いましょう。つまり、誰かが休んでも回る仕組み、チームで働く仕組みづくりが重要です。
(5) 男性の育休取得のポイント(まとめ)
① 仕組み・フローを確立し、取得者を後押し
・管理職への意識付け
・部署ごとの雇用環境整備
・育休取得フローの確立
② 目的を持って取得することで、メリットを最大化
・管理職にも納得感のある目的を
・管理職、本人ともにメリットのある方法を
最後には「男性育休を皮切りに、多様な人財が活躍する組織づくりをしていただきたい」とのメッセージで、堀江氏の講義は終了しました。
(6) 堀江氏と育休経験者の松尾氏との対談では……
松尾氏からは、育休を取った経緯をはじめ、赤裸々にご自身の経験を語ってもらいました。また、常にコミュニケーションを取り、自分がいない間に仕事をお互いに任せられる関係づくりと、業務の見える化が大切だと考え、実践していることを紹介してもらいました。
松尾氏は、これから男性育休を導入・推進していく人事の皆様へのメッセージとして、「育休を取得してもしなくても、真剣に働き方を考え、会社を自分が生きていく上でのツールと捉えている方が多いと思うので、会社が生き方をサポートしていくという視点から制度を作っていくといいのではないでしょうか」と、締め括りました。
参加者からは、講義内容への質問とともに、育休取得者の体験段を聞くことができ、有意義だったとの声が多数寄せられ、盛況のうちに会は終了しました。
◎研究会を終えて
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フォーラムの内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
制度のおさらいから、実際に育休取得した方の体験談まで、内容が濃く、たいへん参考になった。ただ単に育休を取らせるということに終わらせず、育休を取って良かったと従業員が思えるような、会社へのエンゲージメントが高まるような仕組みを、当社もぜひ作っていきたい。 当社でも徐々に実績を出しているので、安心して取得できる環境整備に向けて頑張りたい。 会社として対応することをシンプル且つ明確にご示唆いただき、実際に育休を取得した男性の考え方を伺うことができ、とても参考になった。 育休経験者の生の声が聴けて良かった。家庭もキャリアも大事にされている方だったので、たいへん参考になった。当社でも他人事にせず、育休をとりたいという部下のために、管理職の上司がもっと育休に理解が示せるような研修等を是非実施してほしい。 誰が何をやっているのか、仕事を見える化させることが大切だということを再認識した。セミナータイトルの副題に興味を持ったのだが、やはり具体的な問題の解決については、ケースバイケースで対応するしかなさそうな印象も持った。役職者の代替を、複数の一般社員で行うのは、ひとつのアイディアとして使えそうに思う。 男性育休について、具体的事例を交えながらのプレゼンは、とても分かりやすく、タメになった。特に育休経験者の体験談は、今後弊社で男女問わず育休を推進していく中で、どのような環境を整えていけば良いかについて、とても参考になった。 実際に育休を取得された方の話を聞けたことで、今の弊社に不足している部分が明確になった。 女性社員の産休・育休は定着してきたが、その後のキャリアや育児での悩みが絶えないように感じている。今回のパパ育休も、どのように浸透・定着していくか興味があるので、また暫くしてからの状況も知らせてほしい。 育休を取得するために、転職された方の体験談が、とても印象的だった。働き方、家族のあり方は様々なので、多種多様なケースがそれぞれ参考になる。男性も女性も育休取得後、どのように活躍し続けているか(昇進昇格にどうプラス/マイナスに働いたか)という、リアルな話も今後ぜひ取り上げてほしい。 -
登壇者の感想は・・・
スリール株式会社 堀江 敦子 氏
「男性育休の推進にあたり、各社が既に何らかの対応を始めている一方で、未だ様々な課題も抱えています。男性育休取得経験者のお話からも、ライフデザインを含めた個々人の働き方を尊重しサポートできる企業風土の価値は、今後更に高まるものと思われます。男性育休への取り組みが、多様な人財が活躍する組織に繋がることを、私達も応援します」