イキイキと活躍する『リエゾンシニア』が語るセカンドキャリア
一般社団法人 定年後研究所 理事所長 池口 武志 氏
《活躍中のリエゾンシニア3氏》
渡邉 泰治 氏・西川 由喜 氏・本田 恭助 氏
株式会社パソナ キャリア支援事業本部 セーフプレースメント事業部 シニアコンサルタント 山下 弘晃
日本CHO協会では「ミドル・シニアのキャリア自律」を2022年の年間重点テーマとして展開しています。今回は、一般社団法人定年後研究所の池口氏の基調講演と、定年後研究所が提唱する「リエゾンシニア」のモデルとして活躍されている3名の方を交えたトークセッションにて、これからのセカンドキャリアのあり方に迫りました。
■基調講演 「リエゾンシニア 〜24名のロールモデルに学ぶ、中高年社員のキャリア自律〜」定年後研究所 池口 武志 氏
主に大企業の中高年会社員を対象に、職業人生の長期化に向けた調査・研究活動を行っている定年後研究所所長の池口氏は、まず「会社依存型社員から、主体的に自らのキャリアを形成していく、自律型社員への転換が進む現在、中高年社員はさまざまな不安を抱えています。企業の側には、不安の解消に向けたキャリア研修の実施・充実などを行うとともに、ロールモデルの個別化・多様化に対応することが、さらに求められてくるでしょう」と語りました。その上で「自らのロールモデルを見定めることが、自発的なキャリア自律の土台になる」との思いから、離れたものを横断的に繋いだり、知見を繋ぎ合わせるスキルを備えた人材を「リエゾン(=繋ぐ)シニア」と命名。24名のリエゾンシニアにインタビューを敢行し、その姿から望ましいセカンドキャリアのあり方を探ったとの事でした。
■トークセッション 「充実したセカンドキャリアを実現するためには?」
後半のトークセッションでは、以下の4つのポイントを、登壇者の皆様に順番に伺いました。
1.現在に至るご自身のキャリア
2.「転機」と「乗り越えた力」
3.セカンドキャリアで必要/求められるスキル
4.やりがい、楽しみ、これからの仕事
1~4のそれぞれについて、皆様からのコメントやメッセージを以下に要約し、お伝えします。
◆渡邉 泰治 氏
①社内の早期退職制度に応募し、新卒から30年間勤めた(株)電通を退職。偶然の出会いから新潟県魚沼市へ、地域おこし協力隊員として単身赴任。任期終了後は、地域おこしアドバイザーとして「魚沼・おとなの気づきの里」プロジェクトを現在推進中です。
②早期退職制度の公募は突然でした。何も準備をしていませんでしたが、「能力やスキルは目に見えるものではなく、課題に直面した時に発揮されるもの」と考え、社会の問題や課題に出会うことをテーマに、退職を決断。それは「職業選び」ではなく「生き方の見直し」でした。当時書き綴っていたノートに記した「出会いがなければ始まらない」という初心を忘れず、常に心がけています。
③偶然の出会いは、アンテナを張っていたことで訪れました。会社員時代は効率重視。自分に関係ないことは、プツッと切る習慣が身に付いていたので、そのままの自分ではチャンスを逃していたと思います。また、会社や肩書、年収といった図式の中で仕事を見ていた自分に気付き「『無職』の肩書きで堂々と生きる」と周囲に公言し、自分を奮い立たせました。
④地方活性化というと、観光・自然・食べ物でアピールするのが一般的ですが、それだけではないと思っています。魚沼に来て改めて、東京の影響力の大きさに気づきました。コミュニティのあり方、自然環境なども全く異なります。だからこそ、魚沼に身を置くことで、東京に暮らし、働くことがどういうことかが、よくわかる。そんな魚沼で得られる気付きを、問題意識を持ってセカンドキャリアを考える方々に、自分が水先案内人となって伝えていきたいと考えています。
◆西川 由喜 氏
①大手ハウスメーカーにパート社員として入社し、社員登用を経て、社内外のビジネス研修を担当。2016年に独立し、研修会社ウインズを設立。組織での経験を活かし、ミドル・シニア向けキャリアデザイン研修などを現在実施しています。
②会社員時代のある日突然、社内のマナー講習の講師に任命されたことが転機でした。会社を辞めるわけにもいかず、イヤイヤ受け入れた仕事でしたが、そこで磨いたスキルのおかげで、今ここに立っています。「チャンスはピンチのふりをしてやってくる」と言いますが、まさにその通りだと思います。
③ビジネス研修の講師は、経験値が重要。前職で経験した喜び、悲しみ、辛さなど、すべての実体験が講師のスキルとして役に立っています。また「人と繋がる力」は絶対に必要です。
④雇われの身から、すべてを自分で判断しなければいけない立場になったことが、初めはすごく怖かったですね。痛い目にも遭いましたが、今では「自分でオールを持って漕ぐことは、こんなに気持ちの良いものなんだ」と思っています。孔子は「50にして、天命を知る」と言いましたが、それは、50歳になって自分の役割が「降りてきた」時、それをキャッチできる感性を磨いておくことだと解釈、人生百年時代に、私は「日本の未来を明るくするためにライフプラン研修を行っている!」と公言しています。
◆本田 恭助 氏
①新卒で花王(株)に入社。60歳定年退職後の再雇用でシニア人材の社内応募に手を挙げ、現在は特定非営利活動法人日本NPOセンターに出向しています。
②定年退職予定者を対象とした再雇用説明会で「NPO職員1名」という募集を目にして「これだ!」と直感。両親の介護などで地域の方々に支えられ、そのありがたみを感じていたこともあり、迷わず手を挙げました。会社に嘱託として残る道もありましたが、役職もなく、好きなことができる訳ではなさそうなので、「それなら楽しいことをやろう」と考えました。
③40年間同じ会社で働き、商品開発、ブランドコミュニケーション、国際事業本部などの仕事に携わってきました。業務の中で培われた能力も役に立っていると思いますが、より重要なのは「課題に対してどうアプローチするか」といった無形の能力。中でも一番大切なのは、生き方や価値観が異なる人と一緒に取り組む「コミュニケーション力」「人間力」だと思います。
④「なんだってやってやる」と意気込んでNPOに参加しましたが、実際には、会社と家の往復しかしていなかった自分の視野の狭さを痛感しました。大企業に勤める会社員は、ごく一部の限られた存在です。自分の中に差別的なモノの見方があったことに気付き、価値観が全く変わりました。
これから、自分のような人間がNPO活動に興味を持ったときに、「繋ぐ」場を作りたいと思っています。まだ具体化できていませんが、社会に役立つNPOの活動を強化し、成長を支える提案をしていくことに、やりがいを感じています。
◆池口 武志 氏
①生命保険会社勤務を経て、人材育成支援サービスを行う会社へ出向。2021年4月より、定年後研究所の理事所長を務めています。
②(これはインタビューしたおひとりのエピソードですが)会社で人事管理本部長の職にあった時に、入院生活を経験。その時「今までの生き方でいいのだろうか」と考え、自分がやりたいのは、もともと興味があり勉強していた「キャリアコンサルタント」として人の就業のお手伝いをすることだと気づき、退院後に転職を決意したということでした。
③3人の話を聞く力、人に寄り添う力は大前提。転機を乗り越え、痛い目に遭うことで、人の痛みに気づき、心から共感して話を聞く力が養われるのだと思います。同時に、自分が持っているスキルを端的に伝える能力も必要です。
④大企業に勤めていた方が、中小・零細企業に移って活躍しているケースはたくさんあります。中小・零細企業の方が何に悩んでいるのか、しっかりと耳を傾ける。それだけでも経営者の力になります。「寄り添って聞く力」は、セカンドキャリアを充実させるヒントだと思います。
トークセッションの最後には、参加者の皆様へのメッセージを登壇者の皆様から頂きました。
◆渡邉氏から
「会社の外側の世界を知ることが第一歩。それなりに人生を歩んできた方々ですから、動き始めれば何とかなります。会社には、一歩踏み出すモチベーションを引き出すことを考えて頂きたいですね。カタログから選ぶように転職先を見つけても、上手くいきません。大切なのは出会いを通じて得る気付きです。多少のカルチャーショックもあった方が良いと思うので、是非一度魚沼に来てみてください。今までの生活は、こういうことだったんだ!という発見がありますよ」
◆西川氏から
「外の世界を知って頂きたいので、人事部門の皆様にはそのための情報提供や場づくりをお願いしたいと思います。そして暖かく見守り、応援してあげてください。私たちは「人生100年時代」に準備して臨める、初めての世代です。私たちがロールモデルとなって、部下や子供たち・孫たちに『幸せな姿』を見せてあげる義務があると思っています」
◆本田氏から
「あと30年、どんな日々を過ごすかは、自分で選ぶことができます。助走期間はあるので、自分なりのミッション・ビジョンなどを考え、『その時』を迎えてください。会社には、悩みを持つ人が交流できる『場』を作って頂きたいですね。そして、制度や環境を整え、次の30年について考えることをサポートして頂きたいと思います」
◆池口氏から
「会社は老若男女がバランス良く揃う部署ばかりではないので、世代間の交流ができる『場』が必要だと思います。幅広い世代がお互いの価値観を知ることは、組織の力に繋がると考えます。是非、そんな交流の場をサポートしてください」
◎公開講座を終えて
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公開講座の内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
登壇者の転職のきっかけや理由は異なるが、それぞれの方がかなり悩んだ経験をお持ちであり、それをどう克服したかを、非常に興味深く聞かせて頂いた。現代社会ではキャリアチェンジが当たり前になり、あらゆる世代の人が、この問題に直面することがよくわかった 登壇者自身の体験談から、たくさんのヒントを頂いた。十分に時間的な余裕をもって準備をすること、とにかく臆せずにチャレンジしてみることを、全社的に共有できればと思った 転機の乗り越え方も個性が出ますね。転機を「人生の生き方を選択する機会」と捉えた渡邊氏の考えに一番惹かれたが、それは私自身が「そうしたいけど、できない」と思っているからかも知れない 超大企業⇒50歳で小さな鉄工会社⇒64歳で個人事業の開業をした私にとって、会社のミドル・シニアの自立サポートが果たしてどこまで効果をもたらすか懐疑的な部分もあるが、今回のようなセミナーや、自立を考える方々が不安の声を吐き出せる場の必要性もよくわかった 大企業から中小企業に移る際、①人に寄り添うこと ②人の話を聴いてあげること が大事であるというメッセージは納得感があった 将来に亘るキャリアの問題に向き合い(転職も視野に)考えるための動機付けをどう図っていくかの働きかけが、何より重要なことがわかった。自分自身の将来のキャリア選択に対して、重要な示唆をもらった 成功されている方でも、アプローチや取り組み姿勢が違うことが参考になった。他方、成功するための共通点もあるのだと感じた。本日は、自分自身が、そのレベルの心の準備と覚悟があるか、を再確認した。自分にも一定の実力はあると信じたいが、「出会い」だけで果たして本当に飛び込めるのか、そこは本人の性格の違いもあると思った 西川氏の「やりたくないことをやる勇気」、「コロナ時代の若い世代とは、歩み寄ることが大切」、本田氏の「現場を知ることが大切」という言葉が、それぞれ私の心に響いた。これからの自らのセカンドキャリアの参考にしたい 主催者・モデレータ・パネリストが全員、肩ひじを張らずに、等身大の話をされていたことに、とても好感が持てた。「私達は人生100年時代の一期生だから、ロールモデルはいない」。とても良い言葉だと思う 本日の登壇者の方々のように、シニア層の方には、人生100年時代を「再雇用」に安住し、自分の経験・能力・ネットワークを活かせない「時」を無駄に過ごすことなく、大企業から早く外に飛び出てチャレンジしてほしい。そのため大企業には、50歳前後で「副業経験」を積めるような「副業インターンシップ」の様な仕組みが、これから必要になると思う 今回のようなシニアのセカンドキャリアやキャリア選択の背景の話はなかなか聞けないので、とても参考になった。そしてイキイキ活躍するためには、いくつになってもチャレンジが必要だと感じた。また事前準備をしながらも偶然のチャンスに飛び込んでみる勇気も、大事だと思った 今までのキャリアの延長線上ではない外の世界へ、実際に飛び込まれた方々の貴重な体験や気付きを伺う事ができ、大変参考になった。セカンドキャリアにもミッションやビジョンを描くべきとのアドバイスも、参考になった 魚沼やNPOの話を普段聞く機会はなく、パネリストの皆様の話はとても新鮮で、人事部門としても、またミドル・シニア当事者としても「接点を持ちたい」「体験してみたい」と思った パネリストの皆様が、正直に素直な言葉で語っていたのが好印象。皆様の話から、人事を担当する自分が、これから何をしたら良いのか、理想的なアイディアを思いつけたので良かった 往々にして、一方通行型のディスカッションによるセミナーが多いが、本講座は実際の経験談・失敗談であり、大変気付きが多く、心に響いた。後であの時が転機だったと振り返ることで、その後の力にすることももちろん大切だが、「今がチャンス、転機だ」とその瞬間に感じられると、スムーズなキャリアも形成できると感じた セカンドキャリアに向けての準備・助走期間を設けることは必須だが、それを会社がキャリアセミナーや面談以外で気付いてもらう方法が、なかなか見つからないなと改めて感じた セカンドキャリアで大事なことは、スキル・資格という物理的なものよりも、自分は今後どう生きたいのか、まずそれを見付けることだと認識した 「50歳代以上の人は、人生のロールモデルにならなければ」という言葉が、とても印象に残った。セカンドキャリアの構築は、今自分にとっても大きな課題で、今までで一番の難問。自分が人生の最後を迎えた時に、その答えが初めて明確になるのかな? 50歳代、先が読めない苦悩の中からのそれぞれの方の大胆な選択。決めたらとにかく、ひたすら進むということの大事さを教えられた。「ピンチはチャンスを伴ってくる」 その通りだと思った。リエゾン(繋ぐ機能)も、人との出会いがあり、それも自ら動いてこそ生まれてくる。他人から「この人に声掛けしてみよう」「一緒にやりたい」と思わせるのは、どんな人だろうか? 西川さんの「今の時代にはどの世代にもロールモデルはいない」というお話が特に印象に残った。会社内で様々な切り口での横断的交流の場を設けてみたいと思った 自分の持てるスキル、そして課題に直面した時に発揮される能力とは何かを改めて見つめ直し、会社の外側の世界を垣間見る良い機会だった。技術系で管理職になってしまうと、マネジメントに多くの時間が割かれ、その技術の専門性をとことん突き詰めることが無くなり、つぶしが効かなくなるのかなと危機感を感じている。今度は、技術系のシニアの方々の第二の人生における活躍の事例を聴いてみたい 外の世界に一歩踏み出す機会を、より積極的に作っていきたいと思った。また今後、そのような先進的な活動を行なっている企業に、運用面での工夫や課題などを是非聞いてみたい 本日の提言にもあったように、セカンドキャリアへの助走期間を形成するために、「会社の外で交流し、外の世界を知り、行動できる場」に関する情報を継続的に提供してほしい ありきたりの理論や概念論ではなく、苦労されてきた方々の実話は、リアルな血が通った内容であり、大きく頷ける、期待以上のものだった。これからも同テーマのイベントを、年2回とか定期的に開催して頂きたい -
登壇者の感想は・・・
定年後研究所 池口 武志 氏
3名のリエゾンシニアの方と一緒の登壇は、夢のような時間でした。それぞれの方のご体験に基づく人生論は迫力満点で、私自身も大いに触発され、身近なロールモデルの尊さを感じました。企業人事の方には、シニア人材のための、外との接点や世代交流の仕掛けづくりをお願いできればと思います渡邉 泰治 氏
このテーマは逃げられない、時間のない「プロジェクト」なのだと覚悟を持って取り組む必要性を痛感しました。また、皆様がもし「都会の引力圏外にある魚沼」と出会った時、そこにどんな気付きや意味が生まれるのか?そのヒントも頂戴したように思います。私自身もそうした出会いの実現に向けて走り始めたいと思います西川 由喜 氏
今回のイベントに200名を超える申込があったことに感激しました。私が人生100年時代を考えるライフプランセミナーを開発した2018年頃は「ほっておいて!余計なお世話だから」というような言葉さえ聞こえたものです。今回のテーマに、人事担当者の方を含め、非常に関心が高くなったことが、何より嬉しいです。理想は「人生100年時代」という特別感がなくなり、あたりまえに定年後もキャリアを積み上げる人が増えていくようになることですね本田 恭助 氏
登壇者三者三様のセカンドキャリアですが、共通点は、重要な出会いやきっかけがあったこと、そして新たなキャリアを、楽しいことや天職と思っていることです。次の人生をどのように歩むのかをイメージできれば、出会いやきっかけは自ずとやってくるのだと思います。企業には、こうした方々の幸せ実現に寄与して頂ければと思います株式会社パソナ 山下 弘晃
これまでの仕事を通じて得た経験と味わった苦労は、大きな力であり、ミドル・シニアの大きな強み(=無形だから見えない、実感がないから不安でも、新たな世界で活躍できるスキル)だと感じました。“社外に目を向ける”とか、あまり難しく考えずに、学生時代の友人や昔の仲間と久しぶりに連絡を取ることも、必ず将来に向けた一歩になると思います