ジョブ型課長を育て、生かす
~人的資本を人的資産に転換し、企業価値を高める~
コーン・フェリー・ジャパン株式会社 シニア・クライエント・パートナー 綱島 邦夫 氏
このセミナーの案内を見る今回の人事戦略フォーラムは、コーン・フェリー・ジャパンの綱島氏をお招きし、昨今騒がれている“ジョブ型”の本質と、第一線で顧客・社会と向き合い、部下を束ねリードする、これからの管理職のあり方について、お話し頂きました。ジョブ型への転換を既に実施した企業も、これから実施しようと検討中の企業も、多様な状況下に置かれている参加企業の皆様にとって、ジョブ型についての再認識と新たな考察ポイントを得る貴重な機会となりました。以下は講演内容の要旨です。
日本企業が失われた30年の呪縛を断ち切り復活する鍵は、「全社員が持っているパワーを全開にすること」「社員主導の組織開発を進めること」だと考える。現状、日本企業の社員エンゲージメント指数は欧米に比べ著しく低く、求められる以上の事を行ない、積極的に貢献しようとする社員は少なく、若手社員の退職願望も世界最高レベルに達している。
本日は、そのような時代背景の中で、なぜ今『ジョブ型課長』が必要とされているのか?そしてそれがもたらす恩恵とはなにか?を考えてみたい。
最初に、当社が考える「ジョブとタスクの違い」を定義する。
◆ジョブ(仕事)とは?
・知識や技能を使って問題を発見解決し、誰かに貢献すること
・付加価値を創造すること
・外を見て何かを感じ、考えること
◆タスク(作業)とは?
・やり方や方法が分かっている機械的な行動
・定例的なルーチンワーク
・新たな価値を創造するものではない
・放っておけば、自然に増殖
日常の仕事において、人は放っておくと「タスク型」の仕事に流れていく傾向が強い。しかし、これからの時代は、組織の「内側」を見るのではなく「外側」を見つめ仕事する人材、すなわち「ジョブ型」社員をいかに育てていくかが重要だ。経営層や社長が主導し牽引する時代は終わり、上記のような「ジョブ型」の仕事スタイルを身に付けた人材、とりわけ『ジョブ型課長』を養成することが不可欠だ。
以下に、これから求められる『ジョブ型課長』のプロフィールを示す。
・個性に目覚め、貢献する「意思」を持つ。
・義務感ではなく、高揚感がエンジン。
・「個の力」「チームの力」「マネジメントの力」という、三つの車輪を回す。(どの車輪が欠けても車は前進しない)
・旺盛な好奇心を持ち、自らが起点となり、顧客・社会の問題を解決する。
・企業の「中核」管理職として、顧客価値、イノベーションと生産性の向上を通じ、企業の成長を牽引する。
こうした『ジョブ型課長』が中心となりながら、指示をされた業務を淡々とこなす「タスク型社員」から、誰かのために問題を発見し、解決し貢献する存在である「ジョブ型社員」を増やしていかなければならない。「タスク型社員」は、コンプライアンス、リスクマネジメント、業務のDX化、そして働き方改革など、新しいテーマに対して“自分ごと”とは考えず、イノベーションが遅々として進まない。その現状を打破するには、CEOやCHOが主導する「マクロ視点での政策」だけではなく、社員に直接働きかけ、意識と行動の変容を刺激する「ミクロの視点での政策」すなわち、現場第一線や顧客第一線からの施策が重要であり、それこそが『ジョブ型課長』の担う役割であり、その重要性は増している。
次に、『ジョブ型課長』を育てるプログラムだが、その目的(大義名分)は「イノベーションと生産性の向上を通じて、日本企業の成長を復活する」ことだと定義したい。それを実現するための中核管理職である『ジョブ型課長』は、以下の3つのポイント(真髄)を意識し「自社のフロンティアはなにか?」を探求することで、育成されていく。
【ジョブ型課長育成プログラムの真髄】
①信念の共有
②体系的な取り組み
③三段跳びのアプローチ(ホップ:自律 ⇒ ステップ:価値創造 ⇒ ジャンプ:跳躍)
これからの企業において、21世紀の繁栄を主導する社員像は、20世紀後半のトップダウン型経営の下での社員像とは根本的に異なることの認識が出発点となる。以下に、その求める社員像の6つのポイントを示す。
①ジョブを構成する要素を理解し、自らのジョブを描く
②自らの強みと課題を知る
③顧客や社会の問題を想像する。そのために、オフィスを出て、街を歩き、人に出会う
④自由闊達にモノが言える風土を作り、インクルーシブリーダーを育てる
⑤自主的な目標管理 (Management by objective and self-control)
⑥プロジェクトを駆動し、アジャイル組織を牽引する
最後に、21世紀の経営におけるCHOのジョブ・新たな役割とは何か?を考えたい。それはミシガン大学ウルリック教授の言う「事業ラインの戦略的パートナー」と「変革エージェント」という役割を統合し、それを超えていく存在だと考える。すべての社員を活かしきる組織ケイパビリティ(人、プロセス、文化)を総合的に開発することが役割であり、人事部門のKPIは、繰り返しお伝えした「イノベーション」と「生産性」の実現に他ならない。保守的な傾向のある管理部門から脱却し、人事部およびCHOが主体となって、組織を引っ張っていくマインドを持って頂きたい。
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参加者の意見・感想は・・・
当社も、ジョブ型人事制度の来年4月導入に向け制度構築中だが、この制度と連動させて育成やキャリア開発の仕組みを整えていきたいと考えているので、本日の講演はとても参考になった 当社グループでは、顧客接点で働く社員の働き方の変化にスポットを当て、顧客体験を創出する育成カリキュラムをスタートしている。そのカリキュラムを受講した社員を増やすこと、受講した社員の発揮する行動の評価・処遇を検討することが、今年度のミッションだが、綱島氏の講演は非常に役に立った。特に育成トータルプログラムのステップが参考になったので、当プロジェクトに活かし、ミッションを達成したい 私自身は人事制度の企画を担当しているが、制度改革を社員のモチベーションやエネルギーの向上につなげていくためには、人事の運用や育成面を含め、総合的な取り組みが必要であることを強く認識した。ジョブ型社員を増やすためには段階的な取り組みが必要だと理解したが、社員総体としての状態を踏まえての取り組みと、社員個々人のレベル感を踏まえた対個人の施策の双方の観点から検討する必要があるのでは?と漠然とだが課題感を持った ジョブ型社員について正しく理解することが出来、また同時に、思っていた以上に課題が大きいことにも気が付いた。タスク型社員が多いことは日々感じていたが、管理職の中にもタスク型が確かに存在し、若手社員の業務への向き合い方やモチベーション低下にも繋がっているように思う。本日の学びを切り口に、私にできることを探しながら頑張っていきたい 弊社は、まだ50名ほどの小規模な会社だが、評価制度や報酬制度を導入したばかりなので、今回のセミナーの内容を、ジョブ型思考のできる要員の採用や育成に役立てていきたい 綱島氏の講義がとても分かりやすく、たいへん参考になった。ジョブ型雇用に関しては「ジョブ型」という言葉だけが先行し、本質を捉えていない講義やテキストが多いように思っていたが、今日は形式的ではない、根底となる考え方を学ぶことができた 「ジョブ型=報酬(処遇)連動(制度)」という書籍やセミナーが多い中で、本日は異なった観点からの講義で、そもそも、ここをきちんと整理・理解・認識しなければという点や、ジョブ型人材とはどのような人材であるかを理解できた ジョブ型という言葉を多く聞く昨今だが、人事制度や仕組みだけでは個人や会社の成長に結び付けていくことは困難であり、その会社の状況に応じた段階的な取り組みが重要であるということが理解できた ジョブ型の制度ではなく、どのような人材か、という視点からの講義はとても興味深いもので、たいへん参考になった。Job Descriptionを細かく定義すると、タスク型人材を生み出してしまうことを懸念していたが、良いヒントを貰った 綱島氏の見識がとても素晴らしく、非常に考えさせられる深い講演内容だった 日本企業(一部の先進的な大手は除く)に浸透させるのは、かなりハードルが高いと感じた一方で、ジョブ型に転換しないと未来はないとも感じた 制度の話以前のジョブとタスクの概念についての考え方が、非常に参考になった 社員一人ひとりが自律的に自らの特性も知った上で、まずは一歩踏み出すことの大切さ。PDCAではなくDCAPサイクルで、現状課題を察知したら、まずは気付いたことを実行し、修正を繰り返す方が現実的という考え方は、キャリア自律についても当てはまると思った 綱島氏の『ジョブ型課長』を育成する意義や、人事のKPIはイノベーションと生産性である点等は、とても納得できるお話で、勉強になった 会社としてのフロンティア、そこに対する社員の共感と社員の志が出発点だなと感じた ジョブ型人事といっても、制度導入だけでなく、意識改革、行動改革に繋がる施策とセットで考えなければならないという点が、とても腹落ちした ジョブ型社員の考え方、フロントを重視した作り方など、頭ではわかっていても実践出来ていないことを改めて認識した 全体的に興味深い内容だった。ジョブに対する賃金の決め方、職種間の差のつけ方(特にスケールがない、またはそれを適用しづらい規模である場合)など、これから導入しようとしている当社にとっては、ちょっと難しい内容とも感じたが、とても勉強になり、心構えも出来た 人事としてだけではなく、自身の向き合い方への刺激ももらい、とても勉強になった ジョブ型の働き方が大切であるということが、とても納得感があり、すっきり腹落ちした。資料を再度読み返して勉強させて頂きたい ジョブ型雇用の概論として、考え方を理解し整理する良い機会になった。一方で、どのようにこのエッセンスを社内に落とし込めば良いのかのイメージが、まだ沸かなかったので、具体的な方法など課題の整理がまず必要ではと感じた -
登壇者の感想は・・・
コーン・フェリー・ジャパン 綱島邦夫 氏
「2000年以降の日本経済の成長停止を、次の10年間でくい止め反転させるという希望を持って、今後また皆様との意見交換を継続できれば幸いです。“ジョブ型の働き方”や“ジョブ型課長”というのは私の造語ですが、ビジネス界に共有され、多くの企業がジョブ型社員を大量生産し、イノベーションと生産性を通じ、成長力の復活を実現することを祈っています」