ダイバーシティ推進の軌跡
~2社の取り組み事例紹介~
積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 執行役員 ダイバーシティ推進部長 山田 実和 氏
株式会社りそなホールディングス 人財サービス部 ダイバーシティ推進室 室長 島田 律子 氏
今回のダイバーシティ研究会は、ダイバーシティを巡る内外環境変化の中で、早くからその取り組みを始めた、積水ハウスの山田氏、りそなホールディングスの島田氏から、両社のダイバーシティ推進活動の過去から現在に至る取り組みの足跡を紹介して頂き、参加者の皆様には今後のダイバーシティ推進の参考になる多くのヒントを持ち帰って頂きました。
以下は両氏の講演の要旨です。
■積水ハウスグループにおけるダイバーシティ推進の取り組み 積水ハウス 山田 実和 氏
積水ハウスグループは、グローバルビジョンとして「わが家を世界一幸せな場所にする」を掲げ、 2020年6月ESG経営推進本部を新たに設置し、傘下のダイバーシティ推進部がダイバーシティ推進方針を策定し、具体的な取り組みを実施しているが、今回は女性活躍推進と、男性育児休業取得の取り組みを中心にご紹介したい。
2025年度までに女性管理職の310名以上登用を目標とし、様々な施策を実施している。その中でも女性社員本人の自律と共に、上司の意識改革に力を入れており、「育児中でも配慮はするが、遠慮はしすぎない」「早めに機会を与え、それに対して成果を出すようなサポートを行なう」など、本人と上司が共にキャリアプランを実現することをめざしている。
次に男性育児休業取得推進への取り組みだが、きっかけは社長がスウェーデンのストックホルムで、男性が普通に公園で育児をしている姿「ラテ・ダッド」(ラテを飲みながら育児をする父親)を目にしたことがきっかけであり、2018年9月1日より「イクメン休業制度」を導入した。
《イクメン休業制度とは?》
・対象は3歳未満の子を持つ積水ハウスグループ全社員
・育児休業1か月以上の完全取得
・最初の1カ月の有休 (性別不問)
・最大で4回の分割取得が可能
「有給休暇取得も難しいのに、育休なんか取れるわけがない」という風潮の中で、社長自らが「今後来るべき大介護時代への準備のためにも、イクメン休業がもたらす職場の変化は好ましいこと」という力強いメッセージと共に、社員のマインドセットを促し、完全取得をめざしている。
社内のイントラネットでの「イクメン奮闘記」や「パパたち写真展」には、営業や設計、現場監督、総務など様々な職種や立場のイクメン事例を多数掲載し、職場では見られない仲間達の育児奮闘の様子を見ることで、「自分でも取得できそう」という、マインドの醸成につなげてきた。
また、育休を取得するにあたって、夫婦でしっかりと話し合いをするきっかけ作りとして「家族ミーティングシート」も導入。育休終了後についても、家事や育児の役割を夫婦で徹底的に話し合うことを後押しすることが、イクメン休業の実現に寄与している。
最後に、「イクメン産後8週休」の新設の意義を伝えたい。2021年4月1日より運用を開始したこの制度の特徴として、産後8週中における休業取得の柔軟性を高めた。なぜ産後8週なのか?それは、産後8週は以下のポイントを実現するために、とても重要な時期であるためだ。
・産後鬱の防止
・パパのサポートが最も求められる時期
・育児スキルの取得は、スタートが肝心
・未来の家族の幸せのため
様々な施策展開の結果、取得期限を迎えた1,020名全員が1ヶ月以上の育児休業を取得し、取得率は100%となり「配偶者のことを理解できるようになった」「これまでの仕事のやり方を見直した」など良い効果がアンケートから見られるようになった。
■りそなのダイバーシティ推進と現状の課題 りそなホールディングス 島田 律子 氏
りそなグループは2003年5月に 約2兆円の公的資金が注入され、実質国有化となった、いわゆる「りそなショック」の歴史がある。その頃、多くの男性社員が退職し、営業担当や管理職が不足するという事態に至った。そこで、「銀行の常識を変えていく」という故細谷会長の強いリーダーシップの下、大改革が実施された。不足する営業職社員や管理職社員を補う形で進められた女性社員・シニア層・パートナー社員(パート社員)の活躍推進は、会社の存亡に不可欠で、まさに必要に迫られ実施したものだった。
こうした背景の下で、当社グループの女性活躍推進は、経営の強い信念とメッセージが後押しした。以下が、そのエッセンスである。
・お客様の半分は女性であり、家計運用のカギを握るのは女性。女性の視点を生かした改革が必要である。
・女性が活躍できる環境作りが、企業価値の向上につながる。
・現場第一線は女性に支えられている。男女の壁や、社員とパートナー社員の壁を打ち破ってほしい。
・女性を積極的に登用するためには、女性の意識改革も必要。
人事制度の改革として、従来の総合職と一般職という区分を廃止し、管理サービス系・ソリューション系・カスタマーサービス系という「キャリアフィールド制度」を導入し、複線型のフラットな職務体験を実現できるように変更した。
また、勤務時間や業務範囲を限定できる新たな職種として「スマート社員」を導入。この制度は、ライフイベントに合わせた多様な働き方を実現し、これまで築いてきたキャリアを中断させずに長く働ける環境整備に寄与した。
2021年6月には「サスティナビリティ長期目標」を設定し、その一項目として女性活躍推進の項目を導入。「誰もが働きやすい職場」から「誰もが最大限能力を発揮できる職場」へと変貌するよう、全方位をカバーした取り組みを実施した。特に男性の配偶者出産休暇の取得率は、2017年以降100%を達成。それには所属長の「イクボス宣言」や人事部門からの育休取得啓発メールの実施、「さんきゅうパパ準備ブック」の配布など、地道な働きかけが功を奏した。
また、女性本人の意識改革と、女性の声を経営に反映させていくことを目的にした、経営直轄の諮問機関「りそなWomen‘s Council」を2005年4月に発足。既に第11期を迎え、女性社員から起案された提案は、すべて実現するに至っている。
柔軟な働き方ができる職場は、多様な能力や考えを持つ人材の、新たな気付きの創発となると考え、全従業員に向けたダイバーシティ・マネジメント研修を推進している。会社と個の成長や、働きがいの充実が、企業価値の向上に繋がると考え、長時間労働の是正によるワークライフバランスの実現や自己研鑽の促進など、社会や家庭との接点を増やす取り組みは、イノベーションの促進や新たな価値創造へと繋がっている。
◎研究会を終えて
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研究会の内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
D&Iは、やはりトップの意識改革と取り組み姿勢が重要だということを改めて感じた 経営層のメッセージが非常に重要であり、更には担当部署の推進力が大事なことが改めて分かった 企業の方針を、法律や国の意向に沿う形に変えていくためには、トップダウンが必要だということを改めて感じた どの企業も社員の意識改革や女性活躍などを進めているが、トップダウンのメッセージが大きく影響するように思う。経営上層部の考え方が古い場合、どのように進めていったら良いのか悩んでいる 2社とも経営トップが明確なコミットメントを行ない、女性活躍推進のリーダーシップを取っており、うらやましく感じた。ボトムアップも勿論必要だが、やはりトップのリーダーシップは重要だと思う。特に、積水ハウスのような男性が中心の業種・業界での取り組み情報を今後も紹介してほしい 社内の様々な意見を聞くと、迷いが生じることもあるが、D&Iの推進が最終的には会社としての利益に繋がることを社員にしっかりと伝えて納得してもらい、取り組みを進めていかなければならないなという気持ちになった。2社の事例も、とても参考になったので、私たちも頑張りたい 両社ともKPIをしっかり立て、ウィークポイントがどこかを常に把握した上で的確に対処しているように見受けられたが、弊社でも取り入れるべきところは取り入れ、従業員へ還元できるようにしたい たいへん参考になる2社の事例紹介で、とても有意義だった。当社でも同様に取り組めそうな内容もいくつかあり、是非検討していきたい 両社ともかなり先進的な取り組み事例なので圧倒されたが、少しずつ参考にさせてもらいながら、自社の取り組みも前進させたい 自社のD&Iの取り組みに参考になる情報を得ることができた。弊社では、まだまだ女性活躍や男性の育児休業への取り組みができていないが、積水ハウスやりそなグループのように、男女ともに全従業員が生き生きと働ける環境づくりにこれから取り組んでいきたい 積水ハウスが男性育休1か月以上取得の目標を100%達成した背景や、そこに至る具体的なアプローチなどを伺うことができ、たいへん有意義なセミナーだった当社でもこれから男性育休一カ月以上と施策を推進しようとしているので、積水ハウスの取り組みはとても参考になった。これから法改正も踏まえた規程類の改訂をしていくところなので、今後また育休に絞ったテーマの会合があるとうれしい 特に、積水ハウス山田様からの「女性活躍推進や男性育休取得について、社内の反発意見があったとしても、メッセージをしっかり伝え、推進していく」お話が、非常に勉強になった 特に男性育休促進についての具体的なお話が参考になった。今後またD&Iの組織への浸透策などの事例を取り上げてもらえるとありがたい たいへん参考になった。こうした先進企業とのネットワーク形成が出来ることはありがたい -
登壇者の感想は・・・
積水ハウス株式会社 山田 実和 氏
「オンラインセミナーということで、講演中の参加者の皆様の反応が見えず、不安な面もありましたが、皆様から多くのご質問やご意見を頂き、御礼申し上げます。弊社のダイバーシティ推進は、課題も多く、まだまだ道半ばではありますが、今後、他企業の皆様との情報交換を通じ、共に新しいチャレンジができることを楽しみにしています」株式会社りそなホールディングス 島田 律子 氏
「皆様から多数のご意見・ご質問をいただき、本当にありがとうございました。参加された皆様のダイバーシティ推進への関心がとても高いことがわかりました。弊社においてもダイバーシティ推進はまだまだ課題が多く試行錯誤中ですが、コツコツとtry&errorを積み上げ推進するものと考えておりますので、これからもセミナー参加企業の皆様とともに取り組んでいければと思います」