ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2024年2月22日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

オリンパスの人事制度改革
~グローバル・メドテック・カンパニーへの変革に向けた人事基盤づくり~

オリンパス株式会社 人事本部 副本部長 井川 憲一 氏

このセミナーの案内を見る

今回の人事戦略フォーラムは「真のグローバル・メドテック・カンパニーへの飛躍」を掲げ、改革を進めているオリンパス(株)の井川憲一氏をお招きし、同社の具体的な人事改革の取り組みを紹介して頂きました。 以下は講演の要旨です。

1.オリンパスの会社概要

「オリンパス=カメラ」というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、当社はここ数年で映像事業と科学事業を譲渡・売却し、現在は医療事業(内視鏡事業と治療機器事業)のみを世界で展開しています。
創業から105年事業継続させていただいてきた当社ですが、社内の大きな変革は直近約4年間に凝縮しているといえます。当社の100周年となる2019年に、企業変革プラン「Transform Olympus」を掲げ、グローバル・メドテック・カンパニーへの変革を発表し、その一環としてグローバル人事制度への転換を発表しました。
日本で生まれて日本が本社の当社が何故グローバル化、グローバル一体経営を目指さなければならなかったのか。その背景には、医療事業の売上の多くは既に日本以外の海外各国で構成されていること、またこの事業でも成長ポテンシャルのある治療機器事業の競合はほとんど海外企業であること等が挙げられます。そして経営のグローバル化に伴い、経営幹部の体制も現在では約7割が日本人以外で構成されています。 これまで歴史的に各地域・各法人の自治を尊重する、言わば「分散型経営」を進めてきた当社ですが、グローバル全体最適の観点から事業展開を行う必要性がある今、経営戦略・経営理念(価値観)・目指す組織文化という社員の羅針盤となるものをひととおり統一してきました。ただ、グローバル・グループで適所適材を実現するためには、全体最適の視点から人事基盤を再整理する必要があると考え、グローバル規模での人事制度改革に踏み切りました。
人的資本経営や人的情報開示の観点からは、外部からの期待に応じた情報開示、開示情報に即した経営戦略の実行、経営戦略に根差した人事戦略の策定と実行というサイクルをまわし、社内外ステークホルダーに当社が正しく認知されることを目指しています。

2.職務型人事制度の導入で目指すこと

当社の人事改革のキーワードとして“グローバル化・メドテック・自律人材”が挙げられます。経営体制が“グローバル化”し、事業領域も“メドテック”に特化したことに伴い、企業に求められる状況変化を敏感に察知・判断・実行していく“自律人材”、すなわち「グローバル全体最適」の視点でビジネスをリードし「変化に適応して成果を上げた人」に報いる仕組みとすることを目指しました。
日本における人事制度改革をお話しするうえで、とりわけ日本で「オリンパス」という会社が社員にとってどんな存在にありたいかを定義しました。これまでのオリンパスは、「この会社が好きだ」と感じて参画してくれた社員が「会社」に忠誠を誓う先という存在である傾向が強い会社でした。ただ、医療事業一本に軸足を定めた今、私たちは、会社を当社の存在意義(Our Purpose)である「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」を達成することに共感し、自身の専門性を発揮しながらこのPurpose達成に貢献したいと志す“自律したプロフェッショナル人材”が活躍する舞台装置にしたいと捉え直しました。多様な価値観を持つ人材が、会社の存在意義(our purpose)に共感し活躍するオープンな世界を目指したいと考えています。

人事制度改革の主な取り組みとしては、人事制度の基本となるコンセプトを「職務基準」とし、評価制度は仕組みそのものをグローバルに統一化しました。日本地域においては、オリンパス(株)だけでなく、日本地域の大部分の人員を構成する関係会社(製造会社4社、販売会社1社)を含め、同一の職務型人事制度へと改定・統合しました。とりわけ日本地域におけるこの制度改定・導入のねらいは、従来から長年運用し続けてきた年齢を含む属人的要素が処遇の基準となり易かった職能型人事の運用から、会社の価値観を大事にしながら自身の専門性を発揮して成果を上げる自律したプロフェッショナル人材に対し、社歴・年齢・ライフスタイル等に関わらず、フェアに報いる運用を目指すことでした。

3.主要な人事制度(等級・報酬・評価制度)

新しく人事制度を見直すにあたり先ず行ったことは、制度改定の基本方針を定めることでした。これは、まず経営の方向性は何か、どのような人材マネジメントを通じて戦略達成を目指しているかを再度確認し、旧人事制度の運用実態を検証した上、顕在化していた課題を特定することでした。こうして、各制度の議論に入る前に、新制度策定にあたっての判断の拠り所とすべく『5つの基本方針』を定め、議論を開始しました。

等級制度については職責基準の等級体系とし、各自が担う職責基準をできる限り国内外で共通化することを目指しました。管理職層のうちラインマネジメントのポジションに就く職務は原則グローバル共通の職務等級に準拠させましたが、R&D・製造など技術・技能系職種に多くの社員が在籍する日本では、高い専門知識を発揮して大きな職責を担う技能職が、ラインのマネジメントに就かなくても管理職層として処遇される等級制度運用となることを考慮しました。また、歴史的に属人的な職務アサインを多くの職種で行ってきた日本の非管理職層については、制度を職務型に変える段階で全ての職務を洗い出し、職務記述書(JD)として定めることは行わないこととしました。これは、今無理に非管理職層の仕事をJDに書き出すと、その職務が当社にとって本当に普遍的に必要かどうか判断されないまま、JDに定められることで普遍的な居場所を作ることを避けたかったためです。とはいえ、職務責任の大きさを何らかのガイドで定める必要がありましたので、マネジャー以上に用いている外部の職務評価手法の考え方に準拠して非管理職層の等級ごとに求める職務責任の大きさを文書化した、全職種共通の「職責ガイドライン」を制定しました。このガイドラインに則って格付け検討を行なえるよう、各等級に求める責任の範囲を明確化しました。

報酬制度については、基本給は外部の職務評価手法を用いた結果算出されるジョブサイズ(職責の大きさ)を基準とした職務給体系とし、賞与は発揮した成果に対して今まで以上にメリハリある報い方を実現する体系としました。基本給を検討する上でのもう一つのポイントは、給与テーブルを検討する上で参照する報酬ベンチマーク先を、当社が歴史的に参照してきた電機精密機器産業群からライフサイエンス産業群に変更したことでした。
評価制度(グローバル共通の制度呼称は“MyPerformance”)については、グローバル共通で「成果評価」「行動評価」「総合評価」の3要素を5段階のレイティングで、事業年度に合わせて年1回評価する仕組みとしました。日本地域においては、成果評価は賞与へ、総合評価は昇(降)給・昇(降)格の検討へ反映させる運用としています。この評価結果の処遇への結び付けは、報酬制度そのものは通貨単位も異なること等を踏まえグローバル統一としなかったことから、日本地域のみ統一化しています。

新人事制度の導入において、とりわけ歴史的に職能型を運用してきた日本地域においては激変となるため、社員コミュニケーションはできる限り多く行うと決めて進めてきました。これは、何を目的に改定しようとしているか、具体的にどのような内容なのかを正しく理解してもらうことを目指し、制度改定の内容が決まった後に説明するだけでなく、制度の立案段階から社内コミュニケーションの場面を繰り返し設定してきました。具体的には、経営承認前後に新人事制度の理解促進のための説明会を約70回、労使協議の妥結前には質疑応答を5回実施。妥結後から制度導入前には、社員の理解促進のための説明会と共に、管理職向けには評価者トレーニングを全スロット合計約40回に分けて実施しました。新人事制度運用開始後も、初めての評価制度での目標設定説明会を全社員向けに実施したり、中間レビュー時点ではマネジャーがどのように部下と向き合えばよいかの説明とQAセッションを部門別に分けて開催する等、フォローアップを実施してきています。

4.結び ~定着に向けた課題~

職務型人事制度で目指したい人材マネジメントを定着させるためには、各職場のマネジメント層社員がその趣旨を理解し、ツールとして制度を活用しきれる状態まで働きかけ続けることが重要だと考えています。運用・定着のためには「人事権の濫用」とならない職務等級変更とすることや、職責変更に応じて、先輩・後輩/元上司・部下間の給与逆転は「必要な現象」として受容すること、「頑張り」(人)ではなく「アウトプット」(事実/結果)を測定する評価運用とすること、部下に耳の痛いことでも「事実」をフィードバックすること等に留意する必要があります。 また、新人事制度のコンセプト浸透・定着に向けて、組織設計・職務アサインを決定する立場の社員に「策定時に押さえる観点」を整理したガイドを配布し、直近では新制度で初の期末評価を迎えるにあたり、ガイドの配布と部門別での説明会の実施も予定しています。

このように制度を導入して終わりではなく、目指したい人材マネジメントの状態を築くまで継続して働きかけることこそが、人事の役割として必要なのではないかと考えています。

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    大変参考になった= 69%・参考になった= 31%・あまり参考にならなかった= 0%・参考にならなかった= 0%
  • 参加者の意見・感想は・・・

    オリンパスの人事制度改革の内容や浸透させるための苦労等、非常にわかりやすく腹落ちするセミナーだった。 弊社も4月から人事制度を変更し、現在も浸透や運用強化に向けて取り組んでいる最中なので、オリンパスの考え方や取り組みは、とても参考になった。 特に後半の質疑応答の時間で、ロールアウトにまつわる生々しいエピソードを多数紹介して頂き、大変参考になった。 私の前職でもそうだったが、こういう制度改革をした時に、一番ストレスを感じ、板挟みになるのは、課長クラスの中間管理職だと思う。人事は、中間管理職に覚悟や責任を求めるが、それと同時に、オリンパス社のように丁寧なケアが必要だと感じた。 制度改定にあたってのコンセプト、そしてその趣旨に則った定着が如何に重要か、わかりやすく説明して頂き、とても参考になった。 事業環境の激変に対応し、まさに短期間で制度変更を実現した稀有な事例だと思う。トップ層から現場第一線まで実施してきた全従業員への説明の充実が、成功の秘訣かと理解した。「会社は自律人材が専門性を発揮する舞台装置」。たいへん素晴らしい表現だと思う。 会社変革・事業変革の中、グローバル視点での人事制度変更は企画・実行するのが大変だったと思うが、リーダーが丁寧に責任をもって説明することで、現在まで上手く運用されてきていることが、よく理解できた。 これから評価制度の改定を行う予定なので、大変参考になった。会社として、かなり力を入れて行ってきていることが、ひしひしと感じられた。当社のリソースでここまでしっかりできるか不安ではあるが、いろいろと参考にさせて頂きたい。 「変化に対応し、適応して成果を上げた人に報いる」というコンセプトに基づく人事改革は、日本の製造業において最も難しい事だったのではないか。道半ばとの事だったが、次回はその後の経過や変化もお伺いしたい。
  • 登壇者の感想は・・・

    オリンパス株式会社 井川 憲一 氏

    オリンパス株式会社 井川 憲一 氏

    「この度は多くの会社の皆様にご参加・ご質問をいただき、ありがとうござました。質疑応答を通じ、ジョブ型人事制度の“意味をもった継続運用”について、私自身が改めて学ばせていただけたことに感謝いたします。弊社もまだまだ途上の段階ですので、引き続き、皆様と切磋琢磨することができれば幸いです」