NTTグループの働き方改革とエンゲージメント向上
日本電信電話株式会社 総務部門 人事戦略担当部長(兼)ダイバーシティ推進室長 出口 直子 氏
このセミナーの案内を見る今回の人事戦略フォーラムは、NTTグループの人材戦略とダイバーシティ推進を担当する出口直子氏をお招きし、同社の経営改革・働き方改革・人事改革の足跡と現在の状況、及び今後に向けた計画や展望についてお話しいただきました。以下は講演の要旨です。
1.NTTグループのご紹介
NTTグループは現在国内に約19万人、2010年以降に海外M&Aを進め、グローバルで約33万人の多様な従業員のいる組織です。電話サービスによる音声売上げが8割であった時代から、ブロードバンドへの移行やグローバル事業の拡大を経て、新たな構造転換期を迎えています。
2.人材ポリシー
当社は世の中に対して価値あるものを生み出す原動力が「人」であると考えており、人材戦略のポリシーを「私たちは、多様な人材が働きがいや成長実感を得られるよう、従業員体験(EX:Employee Experience)を高め、それが顧客体験(CX)の向上や事業の成長・企業価値の向上につながる好循環を目指します」と定めています。
本年5月には、新中期経営戦略『New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN』を発表し、新たな価値創造と地球のサステナビリティのためにNTTは挑戦し続けることを基本的な考え方としています。
取り組みの柱は以下3点です。
①新たな価値創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ
②お客さま体験(CX)の高度化
③従業員体験(EX)の高度化
本日は③の従業員体験(EX)を中心に、お話しいたします。人材戦略の全体像としては、成長支援と多様な働き方・働く環境の両面から各施策を展開し、一人ひとりの成長サイクルをサポートしています。EXを高めるためには、カルチャーを変えていく必要があると考えており、そのためにオープンで革新的な企業文化への改革にチャレンジしています。お客様重視を基本に、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を土台として、オープン・コラボレーション・トライ&エラーを重視する文化の浸透を目指しています。
3.多様な働き方
当社ではテレワークを2000年代から導入していましたが、自宅で業務を行う際のセキュリティが大きな課題であり、育児や介護事由に限定しての実施が継続されている状態でした。
2017年に、“ワーク・ライフ・マネジメント”働き方改革宣言により、在宅勤務の事由を撤廃。2020年のコロナ禍での制度見直しでは、在宅勤務の上限を撤廃し、回数や場所の制限のないリモートワークの導入、実費での通勤費支払い、リモートワーク手当の支給、フレックスタイムのコアタイムを撤廃等の諸施策実行により「場所」や「時間」の選択が自由になりました。2021年、ワークとライフは対等なものという考え方から、ワークはライフの中にあるものとして、ライフを主に置く考え方”ワーク・イン・ライフ”を発表。
そして、2022年“リモートスタンダード”により、「居住地」の選択も自由になりました。日本国内であれば居住地は自由、遠隔地へ異動の場合、異動先がリモートスタンダードの対象であれば転居は不要となりました。自宅・オフィス以外でも働ける環境を確保するため、グループ社員が使用可能なサテライトオフィス・シェアオフィスを全国に約600拠点程整備しました。
リモートスタンダードは、対象組織の拡大に伴い、現在約4.8万人が活用、また遠隔地からの勤務が可能になったことに伴い、単身赴任の社員が減少しました。実際に、リモートスタンダードを活用し、秋田県にてアグリテクノロジーに従事している社員や、群馬県にて大学での副業を通じ地元へ貢献している社員もいます。また、コアタイムのないフレックスタイム制により、短時間勤務社員の割合も減少、育休取得後のフルタイム復職率が大幅に増加しました。
4.現状と課題 ~働き方に関するアンケート調査結果より~
2022年に実施したNTT国内グループ各社約12万人の従業員に実施したアンケート調査では、現状と課題が浮き彫りになりました。
2022年度のリモートワーク実施状況は、前年度とほぼ変わらず、コールセンターやショップ等、リモートワークが難しい職種も存在しています。リモートワークの満足度は前年度よりも10ポイント改善し67%。9割以上の社員はリモートワークによる生産性の低下を感じていないという結果も出ています。一方、「上司・チーム内でのコミュニケーション不足」を生産性の低下の理由に挙げる社員も多く、コミュニケーションツールは生産性に影響があると推察しています。また、部下の状況把握やコミュニケーションが困難という理由から「マネジメントが大変になった」と回答した割合が、管理職の45%を占めています。コミュニケーション方法の改善案として、「オープンな情報共有」等を通じ、情報格差をなくすことが望まれています。出社に関しての同アンケート調査から「不定期で出社日を揃えている(案件・アイデア出し)」場合が、生産性・満足度等の肯定的回答が高いことがわかりました。このことからも必要性に応じ、具体的な目的を持って出社する場を設けることには意味があると言えるのではないでしょうか。
このように当社では、「多様な個人」と「チームや仕事の状況」に応じて、働き方をデザインし、組織・チームとしての生産性・創造性の向上と多様な個人のWell-beingの両立を目指しています。
5.ダイバーシティ&インクルージョン
NTTグループでは、女性が働きやすい制度に早期から着手し、この10年、様々な施策に力を入れ取り組んできました。女性管理職比率は、2025年に15%、新任女性管理者登用率は30%を目標に掲げています。そのための取り組みとして、女性管理職や役員が各地域に出向き、女性社員との対話やキャリアのアドバイスを実施したり、社内フォーラムや各種講演会、女性社員のキャリア開発研修等、様々な施策に着手しています。
6.従業員エンゲージメント
当社では、エンゲージメント調査によりEXの状態を定点観測し、重要結果指標として以下4項目をKPIに定めています。
①当社では、仕事を成し遂げるために求められる以上の貢献をしようという気持ちになる(自発的な貢献意欲)
②私は、当社で働くことを誇りに思う(自社に対する愛着・誇り)
③私は、当社を素晴らしい職場として、知人に勧めると思う(自社に対する愛着・誇り)
④私は、仕事を通して個人として達成感を得ている(仕事のやりがい)
2022年に実施したエンゲージメント調査では、上記4項目への肯定的回答は、前年横ばいとなりました。KPI指標に影響を与えるドライバー指標を分析し、エンゲージメントに対する影響度と肯定的回答率の両軸で優先順位を付け、打ち手を検討しています。その結果、維持・強化すべき項目として「働きやすい環境」「多様性の受容」が挙げられており、これまでの多様な働き方の推進が従業員に届いているのだと感じています。一方、課題としては、「成長の機会」「戦略の浸透」「チェンジマネジメント」等が挙げられ、組織の変革に対応するためのサポートが必要であると言えます。
課題改善に向けてNTTグループ横断と各社各組織での取り組みを併用しており、調査結果の公表や社長対話会の拡大、幹部メッセージを充実させる等、様々な施策を実行しています。また、2021年10月よりジョブ型人事制度を導入し、従来の適材適所を適所適材へ転換。戦略実現のため、チャレンジ機会を創出・拡大し、「NTT University」という経営人材育成の仕組みも導入しました。一般社員においても、専門性を軸とした人事給与制度を2023年4月に導入、最短在級年数を廃止し、スピーディーな昇格・昇給が可能な仕組みとしました。7月からは、NTTグループキャリアコンサルティング制度の運用を開始。同時に、公募機会を拡大し、新たな専門性を獲得するため、グループ内求人サイト”Job Board”を開設し、社員の一人ひとりが自らキャリアのオーナーシップを持ち、自律的なキャリア形成が出来る仕組みづくりにも力を入れています。
7.最後に
会社と個人は互いに「選び・選ばれる」関係であり、個人として目指すことと会社として目指すことの重なりを最大化する取り組みによって、多様な個人の成長をサポートし、組織の力にしていきたいと考えています。
◎フォーラムを終えて
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参加者の意見・感想は・・・
日本を代表する企業がどのような取り組みをされているのか、大変参考になった。 コロナ禍が落ち着き、今改めてリモートワークが組織の生産性向上等に繋がっているのかが問われている中、今後の働き方を検討するにあたり、大変参考となるお話だった。 NTTグループの人事施策や具体的な取り組みを理解することができ、大変参考になった。 NTTグループのリモートスタンダードの発表から、是非お話を聞いてみたいと以前から思っていた。今日のお話の中で「ライフの中にワークがある」というご説明に共感した。特に首都圏は通勤時間が長く、混雑する電車の辛い往復2~3時間をライフ(もしくはワーク)に移行することにより、業務対応時間をコントロールしたり、生活を豊かにできると感じる。BPO事業やコンタクトセンターなど週5日のフルリモートが難しくとも、業務や担当調整により導入できるよう、当社でもぜひ検討したい。 NTTのような大企業でも、大胆に先進的な施策を取り入れている点に感心した。 NTTグループの働き方改革の取り組みは注目度が高く、弊社グループ会社の社員からも最近、同じようなフレキシブルな働き方を導入できないかとのフィードバックも出ていたところだったので、とてもタイムリーなトピックだった。 個社の事例紹介は、その決断を下した背景等がよくわかり、参考になる。 「事業戦略⇒人事戦略⇒人事ポリシー⇒人事制度⇒人事運用」という流れでのお話は、大変分かりやすく、ためになった。既存領域のビジネスに先が見え、業容を変えてきた会社がどのように人事戦略を立て、ポリシーを変更し、制度を見直したのかのセミナーも今後ぜひ企画してほしい。 自由な働き方を、どのように推進していくのか?不公平、不満が出ないようにするためには、どのような運用方法、取り組み方の順番、意識改革が必要なのかをもっと知りたい。 働き方改革の一環でハイブリットワークに取り組まれており、その成果や課題を定量的に分析されており、とても参考になった。現在ご検討されている生産性への影響は、必ずしも相関関係が一致せず難しい課題かと思う。とても有意義なセミナー・内容を企画していただき、感謝している。 当社でもリモートワークやフレックスタイム制を導入しているが、対象外職場の従業員からの不満に対するケアに苦慮しており、これらの制度にまつわる永遠の?課題だと感じている。 -
登壇者の感想は・・・
日本電信電話株式会社 出口 直子 氏
「この度は貴重な機会を頂戴し、ありがとうございました。参加者の皆様から“社員エンゲージメント”を中心に、多数のご質問やご意見を頂戴し、CHO協会参加企業の会員の皆様の熱意を感じました。今後、私自身も各種講演を聴講させていただき、多くの優良企業様の取り組みから学ばせていただきたいと思っております」