「数字に翻弄されない、真の人的資本経営へ!」
ストレスに強くエンゲージメントの高い人材が育つ環境とは
~見える化から「見える変化」へ繋げる方法~
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 代表取締役社長 鳥越 慎二 氏
このセミナーの案内を見る「人的資本経営」が注目され、企業には健康経営やウェルビーイングの観点を包含する人的投資の本質的価値を捉えた、より高度な戦略構築が求められています。
今回の人事実践セミナーでは、今後ますます重要となる社員エンゲージメントとメンタルヘルスの相関関係や、ストレスに強くエンゲージメントの高い人材が育つ環境をいかにして創り上げるかについて、数多くの企業をご支援されてきた(株)アドバンテッジリスクマネジメントの鳥越社長をお招きし、様々な切り口からお話いただきました。以下は講演の要旨です。
1.社会背景と昨今のトピックス
人的資本経営への関心が高まりを見せている昨今、内閣官房による人的資本可視化指針では従業員エンゲージメントが開示項目のひとつとされ、「人材版伊藤レポート」においてもエンゲージメントが主要な要素に取り上げられました。これらのことからも、エンゲージメントの向上を重要な指標として注目している企業が多いのではないでしょうか。
エンゲージメントは企業生産性の優劣と高い相関関係があることが、複数の調査で示されており、エンゲージメントの高い企業は生産性・業績が高いことが明らかになっています。最近では、大企業を中心に、エンゲージメントの結果を役員報酬に連動させるケースも増加しています。このようにエンゲージメントはますます重要視されている一方、日本におけるエンゲージメントの数値は世界各国と比較して最も低い水準となっており、この現状を改善することにより、日本企業にも生産性向上の余地があるのではないかと考えます。
2.エンゲージメントとは何か
エンゲージメントとモチベーションは似て非なるものであり、前者は後者の一部です。モチベーションの大半を占めるものは“外発的動機づけ”で、結果予測への期待や反応による「やる気」です。一方、エンゲージメントは“内発的動機付け”であり、何かが欲しいからではなく、心の内面から自然と湧き上がる「やる気」です。つまり、やることそのものにやりがい・意味・価値を感じ、自発的で内発的動機付けを伴う「やる気」が、エンゲージメントだと理解してください。
エンゲージメントには仕事に向かう「ワークエンゲージメント」と、会社に向かう「エンプロイーエンゲージメント」の2種類があります。
「ワークエンゲージメント」は仕事に対する熱意や姿勢で、生産性向上の鍵であると言えます。「ワークエンゲージメント」が高い人は自発的行動をとり、ポジティブな感情を持ち、仕事に従事しています。
「エンプロイーエンゲージメント」は、組織や仲間に対する一体感や愛着感で、離職防止の鍵となります。「エンプロイーエンゲージメント」が高い人は、所属組織に対する一体感から貢献意欲が高い状態であると言えます。つまり、「ワークエンゲージメント」が高くても、「エンプロイーエンゲージメント」が低ければ離職の可能性が高まり、企業としては損失となってしまいます。
エンゲージメントをこの2つに分けて適切に把握することで、きめ細やかな対策が出来るでしょう。ストレスやエンゲージメントに影響を与えている要因が分からない限りは、改善には繋がりません。要因は、職場の環境的な要因(例:企業理念やビジョンへの共感・役割意識の醸成・職場の人間関係など)と、個人的な要因(例:会社との適合性・強みの発揮・働きがいなど)の2つに分けられます。単にエンゲージメントの高低だけではなく、何が原因なのかを把握出来る状態であることが、エンゲージメントを測る上で非常に重要です。
3.メンタルタフネス・エンゲージメントを高めるために
さて、エンゲージメントに関する取り組みは実施しているものの成果に繋がっていない企業も多いのではないでしょうか。
「測るだけで終わり、現場へのフィードバックもない」「具体的な施策が示されず、現場任せ」「施策の効果測定まで出来ず、改善のPDCAが回らない」「施策とサーベイ結果に連動性がない、課題解決型でなく総花的」などが、その理由として挙げられます。エンゲージメント・ストレスに影響する要素を網羅的に正しく計測し、それだけでなく、計測データに基づいた施策を実施し、エンゲージメントレベルの効果を検証する必要があります。
では、どのようにエンゲージメントを高めていったら良いのかを、3つの具体的な例でご紹介します。
① 各人の考え方や行動の癖である「認知対処行動」の影響
エンゲージメントやストレスは、自分自身が作り出しているものであり、世の中にあるものは刺激でしかありません。物事の考え方や受け止め方である「認知対処行動」は、人によって異なり、同じ出来事が認知対処行動によって、エンゲージメントにもストレスにもなります。予め自身の癖が理解できていれば、事前に考え方や行動を変えることにより、刺激やストレスに強い人になり得るのです。認知対処行動(メンタルタフネス)度は、ストレスのみならずエンゲージメントにも影響を与えることが分かっているため、個人が認知対処行動を振り返り、行動変容に繋げ、習慣化させることで、エンゲージメントを高めることが可能となります。
認知対処行動のアクションとしては、まず「自分の認知(思考)の癖を把握する」こと、そして「プラスの認知を増やし、マイナスの認知を減らす」ことが挙げられます。これらのアクションは仕事への自信を高め、自己認識を良好な状態に保つことにも繋がります。
また、「対処行動を変化させる」ことも大切です。頭に浮かんだ否定的な考えを対処出来る思考に修正し、解決に繋がる行動へと紐づけることで、プラスの対処行動を増やすことが可能となります。
② 上司の行動様式・コミュニケーションスタイルの感情面での影響
エンゲージメントやストレスは感情問題です。エンゲージメントを高めるためには「ポジティブな感情」が欠かせません。逆にストレスはネガティブな感情の積み重ねにより生み出されるものです。「ポジティブな感情」を醸成するためのボトルネックは、ラインマネジャーであるケースが多く、大半の上司は、古くからの仕事と感情に関する影響で、感情を活用できていないのではないでしょうか。環境(上司と職場)に対するアプローチとして、感情をうまく管理し、利用出来る能力としての”EQ(感情マネジメント力)”が、とても重要となります。EQの高い上司は、部下にやる気を出させ、チームワークを高めることができます。一方でEQの低い上司は、感情的に怒り、部下の変化に気付かないなど、上司によって組織のエンゲージメントの高低が決まると言っても過言ではありません。人は正論ではなく、感情で動くのです。
③ エンゲージメントに影響を与える要因ごとのソリューションの実施
エンゲージメントを高める施策として、OKR(Objective Key Results:目標と成果指標)があります。共通の目標に対して、会社内の各チームがチャレンジングな取り組みを行うことを促す組織マネジメント手法です。会社のミッション・ビジョン実現に貢献する定性目標と、目標の実現度合いを測る客観的な定量指標からなり、目標管理ツリー・進捗管理・1on1等と組み合わせることにより、自身の仕事と会社の目指す方向性との繋がりを感じることが可能となります。これが組織のアライメント(整合性)の強化に繋がり、エンゲージメントが高まっていきます。
4.当社支援領域のご紹介
当社では、従業員が心身ともに元気で、一人ひとりが自分の能力を最大限発揮出来るとき、企業の生産性も大幅に向上し、組織も活性化すると考えています。20年におよぶ研究に基づく豊富な知見とデータベースを結集した、ウェルビーイングの「DXプラットフォーム」と「多彩なソリューション」で、あらゆる人事課題を解決できることが強みです。
「見える化」だけで終わらせず、真の課題解決へ導くPDCA伴走型の「アドバンテッジ ウェルビーイングDXP」では、ストレスチェックやエンゲージメントサーベイ、健康診断データ、勤怠データなど、様々なデータを一元管理することにより、従業員の課題を一気通貫で把握することが可能となります。また、オンラインで行う復職支援プログラム「eRework(イーリワーク)」では、認知行動療法と回復状態が分かるプログラムや職場の受入体制づくりにより、メンタル不調による休職の再発予防に繋げます。
講演後には参加者から質問が多数寄せられました。鳥越社長がその一つひとつに丁寧にご回答いただき、本セミナーは終了しました。
◎セミナーを終えて
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セミナーの内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
これまで私の理解があいまいだったモチベーションとエンゲージメントの違いが、とても明確になった。従業員サーベイの実務を担当しているため、エンゲージメントを高めるための施策についての話はたいへん興味深く、今後の企画立案の参考にしたい。 個人的には、エンゲージメントに影響を与える認知対処行動の話が、働く上でとても参考になった。また、EQについての話も、かつて聞いたことはあったが、具体的な例でご説明いただき、その重要性について納得感が高まった。 マイナス認知を減らためのトレーニングに関して、嫌悪度×発生率の指標は、とても勉強になった。また、ワークエンゲージメントとエンプロイーエンゲージメントの考え方の違いについても参考になった。 「人は正論ではなく感情で動く」という言葉は、心に刺さった。また「アラインメント(整合性)」という考え方も聴けば当たり前だが、実際はなかなかという気がする。日本はエンゲージメントが低い国というのも気持ちの良い話ではないし、今後しっかり自分ごととして考えていきたい。 「刺激」を受ける人によって、「エンゲージメント」になる場合と「ストレス」になる場合があることを意識して、人と関わることを理解してもらえるように働きかけたい。 一社員としてしての立場で視聴したが、結局は個人の持つ特性が大きく影響するものと感じた。同じ事を言われても問題がない人とある人、それには個人のとらえ方がとても影響してくるので、上司はそれを見極めるスキルがないとパワハラ等になってしまうと思う。本件が受け取る側の問題もあり、なかなか企業で進まない理由は、そのバランスがとても難しいためかと思った。 実際に、認知・捉え方による個人の悩みが多いと思っており、全ての社員がここを知っておくと良いと感じている。 モチベーション、エンゲージメント、認知対処行動、上司の対応、OKRについて、丁寧にわかり良く説明していただき、大変勉強になった。 鳥越社長の端切れ良い説明から、対処法のヒントをいただいた。 人事に関わる仕事をする中で、新たな知見を授かった。 ワークとエンプロイーの切り口、認知対処行動とは、上司のEQの向上等が新たな気付きとなり、今後どうすべきかを考えさせられる深い内容だった。会社として現在、パーパス経営を推進しているが、これとエンゲージメントとの関係も興味深いテーマだと思う。 本日のセミナーは、具体例を織り交ぜながらの話でとてもわかりやかった。引き続き、類似テーマについての学びの機会は、スケジュールさえ合えばぜひ参加したい。 -
登壇者の感想は・・・
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 鳥越 慎二 氏
「エンゲージメントに関しては、取り組みを始めた企業が増える中で、なかなか成果につながらないというご意見を多くお聞きしますが、本日のセミナーがそれに対するひとつのヒントとなれば幸いです。参加された皆様からも、数多くのご質問をいただき、このテーマに関する興味の高さを改めて感じました」