人が資本のSCSK ~「健康経営」から「Well-Being経営」への深化~
SCSK株式会社 ビジネスデザイングループ統括本部 事業企画推進部(兼)
人事・総務本部 D&I・Well-Being推進部 担当部長 杉岡 孝祐 氏
株式会社パソナ メディカル健康経営本部 副本部長(兼)メディカルDotank事業部長 佐川 泰徳
本フォーラムでは、経営的な視点から社員の健康に戦略的且つ計画的に取り組み、9年連続で唯一『健康経営銘柄』に選ばれた、「健康経営」推進のリーディングカンパニーであるSCSK株式会社の「健康経営」から「Well-Being」経営への深化の軌跡を、講演と対談を通じてご紹介しました。
以下が講演と対談の要旨です。
【PART1】 人が資本のSCSK ~「健康経営」から「Well-Being経営」への深化~
SCSK 杉岡 孝祐 氏
当社は2011年に経営統合した際、経営理念を新たに設定すると共に、3つの約束を社内外へ発信しました。その約束ごとの1つ目が『人を大切にします』この人を大切にする取り組みこそが、私達が10年に亙り行ってきた「健康経営」の取り組みです。
10年前のIT業界や当社は、長時間労働や休日出勤が多く、夜遅くまで働くことや休まないことを“良い社員”として評価する風潮がありました。高い業務品質・多様な能力発揮・創造性が必要な仕事であるにも関わらず、こうした状況が本当に良い働き方なのだろうかという危機意識から、経営として抜本的な取り組みが必要だと考えたことが、健康経営に取り組み始めたきっかけです。
2012年、まず初めに仕事の質を高める『働き方改革』に着手しました。「社員が心身を健康に保ち、仕事にやりがいを持ち、最高のパフォーマンスを発揮してこそ、お客様の喜びと感動につながる最高のサービスが出来る」、この好循環サイクルは最終的に企業価値向上に紐付くのではないかという考えに至りました。ワークライフバランスの向上やダイバーシティ&インクルージョンなどの土台を通じた「効率的な働き方(時間):スマートワーク・チャレンジ」「健康増進:健康わくわくマイレージ」「柔軟な働き方(場所):どこでもWORK」の3つの施策を中心に、好循環をめざす取り組みでした。この取り組みの結果、2014年には、平均残業時間20時間以下、有給休暇取得率は9割と、それぞれ大幅な改善ができ、結果的に生産性の向上やより良い働き方を実現できたと考えています。
当社の健康経営の基本方針は、健康リテラシー(自ら健康を決定する力)を土台とし、健康管理と健康増進の両輪を回しながら、心身の健康、働きやすさとやりがい、パフォーマンス・創造性発揮、そしてお客様への貢献や経営成果へと繋げていくという考え方です。2015年には、就業規則に健康経営の章を新設し、会社の責務と社員の協力を謳い、両者がお互いに手を取り合っていく旨を明記しました。
2023年度の基本方針としては、Well-Being経営の実現に向け、「健康経営の4つの施策:①安心感・リスク対応 ②健康管理 ③健康増進 ④健康リテラシー」を継続・深化させ、心身両面から役職員の健康をサポートし、多様な専門性の活用と健康保険組合とのコラボヘルスを通じて、SCSKグループの健康管理・増進に貢献していきたいと考えています。
当社の健康経営の取り組みは、大きく2つのステップを経て、定着・拡充して来ました。2015~2019年の第1ステージでは、健康に良い行動習慣の定着と健康診断結果の良化を目標とし、健康わくわくマイレージを通じた健康増進(行動変容・意識変容)等に取り組みましたが、積極参加者と無関心層の二極化や健康課題の多様化が課題でした。2020~2022年の第2ステージでは、健康わくわくマイレージを健康増進の基盤としながら、社員一人ひとりの健康リテラシーをベースに、健康関連施策の拡充に取り組みました。具体的には、年代別・テーマ別のセミナーの充実やこころの健康:マインドフルネスやパルスサーベイ、Well-Being施策としての講演会やワークショップ等、様々な切り口から諸施策を実行しました。その結果、第1ステージの初期の頃から、健康わくわくマイレージ参加率が99%を維持しており、「健康を維持していることが自分と家族の幸せにつながることの実感値」としてのデータが88.6%と、5年間で約16%上昇しました。また、第2ステージでは2015年以降、健康年齢が実年齢を下回るという結果にも繋がりました。
2015年から開始された健康わくわくマイレージは、健康に良い行動習慣の定着、健康診断の結果の良化を図ることを目的としており、日々の目標(ウォーキング・睡眠・アルコール・食生活・月間イベント)・年間目標・健康診断結果における11項目をポイント化し、達成基準をクリアした場合、1年間で獲得したポイントを個人インセンティブとして支給しています。2015年以降継続しているこの取り組みですが、必ずしも最初から全社員の信頼を得ていた訳ではありません。当社の場合は、広義の意味での健康経営として、働き方改革・働く環境を整えることから着手しました。そのことが、残業時間の削減や睡眠の確保、更にパフォーマンスを発揮することや、社員としても実感を得ることに繋がったと感じています。個人インセンティブの達成率は、コロナ禍の2020年度に一時低下したものの、その翌年に改善したことからも、社員自身がセルフケアできる状況になってきたと思います。そして、「体の健康」「心の健康」「組織の健康」の3つの軸を中心に、課題を把握し、施策設計・実行に移し、意識行動変容・促進へと繋げ、効果測定・分析というPDCAサイクルを回しています。インセンティブや手当、経営からのメッセージを通じた後押しや応援などを通し繰り返しながら、継続して現在も取り組んでいる状況です。
今後は、時間・場所・健康増進の好循環サイクルを回していく「健康経営」から、心身の健康と充実したキャリア・仕事を通じた人との繋がり・事業を通じた社会貢献など、働きがいや心の豊かさを高めていく「Well-Being経営」へと深化させていきたいと考えています。人的資本経営という観点においても、まずは健康を土台とし、働く環境を整えた上でこそ、会社としての次のステップへの取り組みやチャレンジができるのではないでしょうか。引き続き、健康経営から「Well-Being経営」へと深化させると共に、企業価値の向上をめざしていきたいと考えます。
【PART2】 Well-beingな働き方を支援するパソナグループの取り組み
パソナ 佐川 泰徳
パソナグループは、取り組み開始から7年が経った今年、初めて健康経営銘柄に認定されました。当社では、平均年齢の増加に伴い、健康診断の有所見者率が増加しており、約60%の社員がライフスタイルの改善が必要な状況です。このような状況を改善するため、当社では主に、以下の施策を実施しています。
1.ライフスタイル調査
社員一人ひとりが健康にイキイキと活躍できるよう、全社および性別・年代別・部門別に現状課題を把握し、それを踏まえた施策を検討し実施しています。
2.メンタルヘルス対策
新型コロナウイルスの流行により、「心の健康づくり」の重要性がより一層高まった中、ストレスチェックの実施と併せて、セルフケア・ラインケアを推進するための施策を実施しています。
3.男女の健康づくり
仕事の中で無理せず健康づくりに取り組める環境の整備や機会提供を行い、社員が正しい健康リテラシーを身に付け、日々の生活習慣をより良いものにしてもらうため、諸施策を推進しています。また、産婦人科医による女性の健康講座や婦人科検診の全額補助なども環境整備のひとつです。
4.健康をきっかけとした社内コミュニケーション
朝礼時のパソナ体操や、親子で参加できる”UNDOUKAI WORLD CUP”など、グループ各社や部署の垣根を超えた交流・コミュニケーションを促進し、健康風土の醸成に努めています。
5.多様な相談窓口
一人ひとりの異なる悩みをサポートするため、健康推進室やワークライフファシリテーター、オンライン健康推進室といった、各種の相談窓口を設置しています。
6.育児・介護との両立をサポート
多様化するライフスタイルの中で、自身のキャリアを活かし、安心して働き続けることができる制度を整えています。
そして今後は、健康経営から真に豊かな生き方・働き方の実現のため、”Well-being経営”をめざしていきたいと考えています。
【PART3】 対談「これからの健康経営を考える」
2氏の講演の後、休憩をはさんで、後半のプログラムはパソナの佐川泰徳からSCSKの取り組みの詳細について、杉岡孝祐氏にインタビューする対談方式で進行しました。
Q1.健康経営の取り組みを開始した背景を教えてください。
まず始めに働く環境を整えること、その次のステージとして個々人の健康にフォーカスしたという順番が非常に大切なのではないかと考えています。2011年の経営統合時に「人を大切にする」という約束事を宣言し、翌年の2012年に働き方改革として残業時間の削減・有給休暇の取得に取り組みました。これらが、当社にとって大きな意味での健康経営の取り組みのスタートであると理解しています。その後、2015年に健康経営の理念を制定すると共に、様々な施策を実行して来ました。
Q2.健康習慣の定着に向けて、工夫されている点を教えてください。
健康経営への取り組みスタートにあたり、長時間労働・残業が本当に正しいことなのか、ということが大きな焦点となっていました。これを改善しない限り、会社の未来はもとより、業界の未来もなく、さらには日本社会の発展も遅れてしまうのではないか。そういった危機感から働き方改革・健康経営に取り組んできました。健康意識の醸成という観点では、最初はリモートワーク・フレックスタイム等の就業規則の改定を、経営トップと人事の二人三脚で行いました。1~2年目は試行錯誤を繰り返し、経営の覚悟としてのメッセージを様々な切り口で伝えていきました。
残業時間の削減は、社員にとっては収入が減るというデメリットもあるため、当社では削減された残業代を全額返還する方針と制度を打ち出しました。その結果、残業を減らした分だけ、インセンティブとして新たな収入が得られる、残業時間を減らした方が得であるという考え方が広まり、現場主導で毎年試行錯誤しながら、今日まで取り組んでいます。役職員自らが実感し、自走できたことが1番の成果であると考えます。
Q3.健康経営の推進における重要指標(KPI)を教えてください。
働き方改革という観点では、「月間平均残業時間:20時間未満」「有給休暇取得20日間」が目標値です。ただ、最終ゴールは「仕事のやりがいや品質、お客様満足度の向上」としており、売上や利益は結果として付いてくるものだと考えています。当時、役員層から「残業を削減してしまったら、売上や利益が立たない。そして、お客様にもご迷惑をかけてしまう」と経営トップへの反論があったことも事実です。経営トップから「健康を害してまで売上や利益を上げることが本当に正しいのか」と投げ返されたことを通して、お客様とも向き合い、ひざを突き合わせて丁寧で粘り強い対話により、この取り組みをご理解いただくと共に、一緒になって働き方改革を実行するお客様も出てきたほどです。
KPIに関しては、通過点としての目標値はあるものの、あくまでもひとつひとつ積み上げてきた好循環サイクル作りが、会社にとっての価値になるという強い思いがあったことが、当社の特徴と考えています。
Q4.残業代に対する会社の基本方針と取り組みについて、社員の方々のリアルな声を教えてください。
削減した残業代を翌年6月の賞与として、裁量労働制を入れている基幹職へは少なめに、一方で総合職へは手厚く分配していました。残業代が減ると収入も減ってしまうという考えがあった一方、減らした分だけ賞与として支給されることへの安心感は、どの社員も感じてくれたのではないでしょうか。また、睡眠時間や家族との時間の確保という意味では、金銭ではなく心のインセンティブとしての価値も得られるのではないかと思いますので、大きな不公平感はなかったと思います。
また、健康わくわくマイレージを開始した3年後には、削減した残業代の返還方法を変更し、返還金額の半分を裁量労働制の適用拡大に、半分を総合職への20時間分の業務手当に充当しました。残りの金額は、健康わくわくマイレージのインセンティブや健康リテラシー向上施策(セミナー)に使用しています。
Q5.これから新たに強化したいテーマがあれば、教えてください。
今後に関しては、健康経営からWell-Being経営へ深化を進めていき、様々な切り口で働きがいや心の豊かさを高めていきたいと考えます。
私個人のテーマとしては、この4月から健康経営の事業化に取り組むと同時に、2023年6月に設立される健康経営アライアンスへの参画を通して、世の中に“健康経営の型づくり”を広め、社会課題解決に向けて取り組んでいきたいと思います。
Q6.就業規則で社員の参加を求めていることが特徴的だと感じますが、どのような経緯で盛り込むことになったのか教えてください。
就業規則に健康経営の章があることもさることながら、会社・社員の責務や両者が手を取り合っていくことを明記していることが特徴的だと言えるでしょう。健康経営の型づくりという意味では、各社様にも是非取り組んでいただきたいと思います。当社が就業規則に明記した背景は、「健康経営は不変」であり、経営者が変わったとしても会社としてのルールは変わらないという、経営トップの強い思いの表れだと考えています。
対談後に行われた参加者との質疑応答の時間にも多数の質問が寄せられましたが、ひとつひとつお二人から丁寧に回答していただき、本フォーラムは終了しました。
◎フォーラムを終えて
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フォーラムの内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
SCSKとパソナ、両社の取り組みともに先進的であり、ぜひ参考にしたい。 SCSK杉岡氏の熱意が伝わる素晴らしいプレゼンだった。 SCSK杉岡氏の講演から、企業としての本気で真剣勝負な取り組み姿勢を感じ、大変勉強になった。 SCSK杉岡氏の講演での「取り組む順番が大切」というコメントは、まさに腹落ちする内容だった。 SCSK杉岡氏のお話で「働き方 ⇒ 従業員の健康」という順序が大事とのコメントに、とても共感した。また、パソナ佐川氏から紹介してもらったソリューション施策の中で、女性の健康にスポットを当てた「女性の健康~管理職編~」は、弊社でも利用させてほしい。 「運動や食事改善を習慣化するにはどうしたら良いか」という点に悩んでいたので、SCS杉岡氏の「施策をやってみて、見直して…を繰り返しているうちに、健康に対する意識やイベントが自走するようになった」ということを伺い、私たちもまずは考えるより走り出そうと思った。健康ワクワクマイレージ、楽しそうですね! SCSKの健康経営への取り組みは、社員の腹落ち感を重要視していたが、社員の腹落ち感があれば、行動変容に繋がっていくということが大変参考になった。 SCSKの取り組み内容は、とても良く理解できた。10年近くに亙って続けている取り組みということに非常に驚いた。 弊社はダイバーシティと健康経営、共に取り組んでいるが、それぞれの推進・担当部署が異なるため、上手く関連付けられていない。両社の事例をお聴きし、具体的に何を絡めると良いかのヒントを貰えたので、今後の取り組みの参考にしたい。 事業戦略の数値責任を負う役員の理解、巻き込みの難易度の話には、とても共感した。ここはどの会社でも推進するにあたってのネックになるところだと思う。また、リテラシー教育を最初から準備するのではなく、上手くいかなかったときの切り札として実施する点も、とても参考になった。 斬新な発想で健康経営を推進している企業の貴重なお話が聴けて良かった。自社でも取り入れていける内容は積極的に取り入れたいと思った。 まず働き方改革を行い、そのあと個人へのアプローチを行ったという話は、目から鱗だった。弊社内でも、直ぐに内容を共有したい。 このような取り組みは、やはり経営トップのコミットメントが非常に重要だと改めて感じた。 Well-beingについて改めて研究が必要と考えていたタイミングでのタイムリーなテーマで、大変参考になった。 -
登壇者の感想は・・・
SCSK株式会社 杉岡 孝祐 氏
「働く環境を整え、健康に良い行動習慣の定着に着手した『順番』と、会社と社員との『信頼度』が重要です。そこに、経営者の覚悟と継続的な想いを伝えるメッセージ、そしてインセンティブというスパイスが好循環を生み出すと言えます。今回のフォーラムが皆さんの後押しとなり、世の中に健康経営がさらに広まることを願っています」パソナ 佐川 泰徳
「9年連続健康経営銘柄を取得しているSCSKの杉岡様から、なぜ健康経営を推進していくことが大切なのか、どのように従業員の意識を変えていったのか、具体的事例を交えたお話で大変学びの多い時間となりました。今後も健康経営を推進する企業様、ご担当者様のお力となれるよう、情報発信を行ってまいります」