ダイバーシティ推進責任者・担当者の集い
~共働き夫婦がともにキャリアを形成するために、企業ができることは~
公益財団法人21世紀職業財団 上席主任・主任研究員 山谷 真名 氏
このセミナーの案内を見る今回のダイバーシティ研究会は、21世紀職業財団の山谷真名氏をお迎えし、同財団の『子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究』結果を発表していただき、その後参加の皆様同士の小グループでの情報交換・意見交換会を行ない、本テーマに関して考察しました。以下は山谷氏の講演要旨です。
1.調査概要
(1)問題意識と調査研究の目的
1990年代以降、結婚・出産後も就業継続する女性の割合が徐々に高まり、2010年以降は、その変化のスピードも加速しています。一方で、就業継続は出来ても、出産や育児を機にキャリアが停滞してしまい、思うように活躍出来ない、いわゆる”マミートラック(キャリアロス)”問題と同時に、男性側では、海外に比べ家事・育児への参加時間の短さや育児休業取得率が依然として低い問題(プライベートロス…家庭から得られる幸福のロス)が浮上しています。
そこで、当財団ではミレニアル世代で子どものいる夫婦が共にキャリア志向を持ち、家事・育児を担いながら、キャリア形成出来るための要因は何か、他方で、夫婦双方あるいは片方のキャリアが停滞してしまう原因は何かを、それぞれ探りました。
ただ働くだけでなく、夫婦各々がキャリアを自律的に考え形成し、仕事と家庭双方において充実した生活を実現する夫婦を”デュアルキャリアカップル”と定義しました。個人のウェルビーイングが向上し、結果として企業の生産性向上に繋がるという先行研究があるため、子育て夫婦がデュアルキャリアカップルを志向し、それが実現してウェルビーイングが高まれば、結果として企業の生産性向上に繋がるということを前提に、当財団では企業や夫婦がどのような取り組みをしていけば、デュアルキャリアカップルの増加に繋がるのかを模索しました。
(2)ミレニアル世代の特徴
本調査においては、ミレニアル世代を26~40歳(1980~1995年生まれ)としましたが、その上の世代と比べた場合、男女平等な環境のもとで働き子育てをしていることが特徴として挙げられます。
そのような環境下においても、未だ多くの課題があり、本調査ではそれは何故なのかを洞察しました。
(3)ミレニアル世代の子どものいる女性の就業状況
ミレニアル世代であっても、女性の正規社員・正規従業員の割合が低いことが厚生労働省の調査結果からわかっており、残念ながら女性の正規社員は未だ希少な存在です。
2.主な調査結果
(1)若手の育成における男女差とキャリア意識への影響
いずれの年齢層においても、男性より女性の方が「一皮むける経験をしたことがない」割合が高いことがわかりました。どの項目においても男性よりも女性の方がこうした経験が少なく、総合職で無職期間のない男女を比較しても、特に「昇進・昇格による権限の拡大」、26~30歳と31~35歳では「部門を横断するような大きな異動」で男女差が大きい結果となりました。「一皮むける経験」がある女性は、子どもがいても昇進意欲やキャリアアップの意識が高いこともわかりました。
また、同じ勤続年数でも男女で職位構成の違いが大きく、勤続年数6~10年では、男性の半数以上が「係長・主任及び係長・主任相当職」以上となっているのに対し、女性では約7割が「一般従業員」に留まっています。一方、管理職に登用されている人には「一皮むける経験」(※)の男女差がなかったことも明らかになりました。
(※「一皮むける経験」とは?=ここでは、入社初期段階での異動、プロジェクトチームへの参画、業務改善や再構築の経験、新規事業の立ち上げ等を指します)
(2)マミートラックの実態
難易度や責任の度合が低く、キャリアの展望もない「マミートラック」に該当する女性の割合は、女性全体で46.6%、総合職で約4割という結果となりました。女性総合職で過去「一皮むける経験」がある人は、「キャリア展望がある」人の割合が高く、このことからも「一皮むける経験」を積んでおくことが大切であると言えます。
また、一旦マミートラックに入るとそこから脱出することは難しく、第一子出産後に仕事復帰した際に、仕事の難易度や責任の度合、キャリアの展望を低下・縮小させないことが、その後の女性のキャリア形成には極めて重要であると考えます。
マミートラックを脱出出来た理由として、上司との関わり、働き方の変更、家事・育児負担の減少等が挙げられており、出産後就業継続出来る雰囲気があるだけでは、マミートラックの問題は解消しないことも調査結果から分かりました。
就業しやすい職場で、さらに「女性活躍推進(※)」の取り組みを積極的に行うことや、上司がチャレンジングな仕事を与え、期待を言葉で伝えることにより、マミートラックの割合は低くなります。また、キャリアについて夫婦でよく話し合ってきた女性は、マミートラックの割合が低くなる傾向にあります。職場では上司がキーとなり、家庭では夫婦間で話し合いの機会を持つことが非常に重要であると言えます。
(※「女性活躍推進」=ここでは、女性の採用数の増加・女性の育成促進・女性の職域の拡大等を指す)
(3)男性の育児・キャリア意識
ミレニアル世代の男性では、「家事・育児をすることは当然」と回答している割合は8割近い結果となりました。
子どもが生まれる前の夫婦間の育児分担に関しても「夫も妻と同じように行うべき」と考えていた男性が7割近くいた一方、育児休業取得経験者・取得中の数値結果から、その考え方と現状が乖離していることもわかりました。
男性の育児休業取得経験者の半数以上が、家事・育児を行うことのメリットとして「仕事の効率化」を挙げており、男性の育児休業取得は、育休を取得した男性にとってメリットがあるだけでなく、勤務先組織にとってもメリットがあると考えられます。
働き方に関しては、女性には出産後「残業からほぼ毎日定時帰りにした人」「残業を減らした人」が6割近くいるのに対し、男性では子どもが生まれた後も働き方を変えている人が少ないということも明らかになりました。また、「男性であれば残業をして当然」という上司の考え方が男性の働き方に影響しているということも明らかになりました。
そして、女性が週1回でも子育ての心配をせずに働くことが出来る(=配偶者(夫)が「お迎え」を週1回以上行う)と、妻のキャリア形成に好影響があることも示唆されています。
(4)デュアルキャリアカップルを志向しやすい環境
ミレニアル世代においても、自分のキャリアよりも配偶者のキャリアを優先していこうと考えている女性が5割を超えています。
しかし、上司が少し高い目標を与え、本人への期待を言葉で伝えられている女性には、デュアルキャリアカップル志向の割合が高く、また、職場の女性活躍推進の取り組みが積極的に行われている場合等にも、その割合が高くなることが明らかとなりました。
男性においては、育児休業を取得している場合や、育児休業復帰者セミナーを受講している場合等にも、デュアルキャリアカップル志向の割合が高いことが明らかになりました。
3.企業への提言
■提言1:制度の運用や組織風土について
①時間をかけた働き方が出来る社員を評価する人事管理や職場風土を解消、全ての社員が能力を発揮できる組織へ
時間の長さではなく、時間当たりの生産性を適切に評価する制度立案と運用を徹底することが必要です。
②成長実感の持てる職場へ
女性には、初期キャリアの段階で男性同様の「一皮むける経験」をさせ、男性には、キャリア自律が出来るように働きかけることが重要です。また男女共に、ライフイベントを前提にした人材育成戦略全体の見直しを検討する必要があります。
③女性活躍推進の取り組みは男性にも好影響を与えることを再認識
女性活躍推進の取り組みを積極的に実施していると、男性のデュアルキャリアカップル志向が高く、管理職がアンコンシャスバイアスによる決めつけをしていません。
④男性の育児休業取得促進
男性の育児休業取得者は家事・育児時間が長く、メリットとして仕事の効率化、視野の拡がり、モチベーションアップをあげています。
■提言2:アンコンシャスバイアスの認識やキャリア形成意識醸成のための研修の実施
①アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)を認識するための研修の実施
管理職にアンコンシャスバイアスがあると、部下の性別や子どもの有無で仕事の与え方や成長期待などが変わってしまい、部下の能力を十分に引き出すことや能力開発が出来ていません。
②管理職のキャリア支援能力向上のための研修の実施
管理職が面談を通じて、部下のキャリア志向やキャリア希望への理解を深め、アドバイスをすることが必要である一方、現在の管理職世代はキャリア教育を十分に受けておらず、自身のキャリアのついて深く考えたことがない人も多いと思われます。
③デュアルキャリアカップルセミナーの実施
育児休業復帰者セミナーを開催している企業もありますが、夫婦で参加し、各々が自身のキャリアを考え、配偶者の勤務先企業の役割期待を知るプログラムを追加した、デュアルキャリアカップルセミナーの実施を推奨します。
■提言3:マミートラックに入らない取り組みの推進
①仕事免除型から仕事(キャリア)支援型の取り組みへ
今後は、フルタイム勤務でも無理なく仕事と育児の両立を可能とする働き方改革、在宅勤務等の柔軟な働き方を可能とする制度の導入、復帰後の仕事やキャリアについて話し合う上司のキャリア面談等が必要です。
②第一子出産後復帰時にマミートラックに入らない取り組みの推進
出産後復帰時も女性がキャリア展望を持てるよう、管理職側の適切な対応が必要不可欠で、その管理職に対して会社から情報を提供するなどの支援も必要です。
③マミートラックから脱出させる取り組みの推進
「上司のキャリアに関する前向きな支援」「柔軟な働き方の実現」「妻の負担が大きくなりがちな家事・育児の分担を夫婦で見直すこと」がマミートラックから脱出する契機となります。
■提言4:働き方改革の続行
「定時退社する日を夫婦で交互に持てる組織に」
夫婦間で家事・育児の分担を柔軟に出来るよう、定時で退社する日を夫婦で交互に設け、夫婦共にメリハリのある働き方が実現できるような職場の働き方改革が望まれます。
プログラムの後半では、少人数でのグループディスカッションを行いました。山谷氏の講演内容を踏まえ、各社の課題や自社の取り組み好事例等、参加者同士で様々な情報交換・意見交換を行い、本研究会は終了しました。
◎研究会を終えて
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研究会の内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
一皮むける仕事経験が、以降の仕事観に影響を及ぼすという事が、たいへん勉強になった。この事は女性に限らず、若年世代の離職率にも影響を与えているのではないかと感じた。 非常に参考になったセミナーで、特に他社の方との意見交換では非常に興味深い情報を得られた。 当社人事担当から案内があり、参加した。普段はダイバーシティ推進を担当する立場ではないが、たいへん勉強になった。ブレイクアウトルームでいろいろなお話を伺うことができ、他社の取り組み実態がわかったので、非常に参考になった。 調査結果は、自身にも当社にもそれぞれあてはまる興味深い内容だった。改めてじっくり内容を拝見させていただきたい。 調査の切り口が良く、クロス集計もされていて、本当に役立つ資料だった。また、グループ討議でご一緒した方々が皆さんとても良い方で、もっとお話したかった。 女性活躍に関する合理的な調査分析で参考になった。また後半の他社との交流は良い機会になった。 ミレニアル世代の調査結果や提言は、非常に参考になった。また、他社事例を共有して頂くことで、新しい視点で物事を捉えることができ、今後の施策にも活かせると思った。 まだまだ取り組み始めたばかりの当社だが、やろうとしていう方向は間違っていないことを確認することができた。また、後半の討議での同じグループの方々との意見交換がたいへん参考になった。 グループ討議が刺激的で役に立った。 当社ではまだまだフォーカスしていないテーマだったが、ブレイクアウトルームで話し合った皆様の意見を聴き、他人事ではなく、いずれ当社でも問題になってくるであろうと思った。 -
登壇者の感想は・・・
21世紀職業財団 山谷 真名 氏
「調査結果から明らかになった、子どものいるミレニアル世代夫婦の課題(①若手育成の男女差②マミートラック③男性が家事・育児をする難しさ)に、既に取り組み始めている企業もいらっしゃいます。夫婦のキャリアの課題は、一企業だけではなかなか進みません。多くの企業で取り組むお手伝いを今後もしていきたいと思います」