ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2023年1月12日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

DX時代のリスキリングの前に
個人や組織が必ず行うべき「アンラーン戦略」

株式会社チームボックス 代表取締役 中竹 竜二 氏

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今回の人事戦略フォーラムは、ラグビー界のコーチとして数々の実績を残し、企業のリーダー育成トレーニングを行う(株)チームボックスを創業した中竹竜二氏をお迎えし、限界に達している行動や方法、古い考えやビジネスモデルを、新しいものに置き換える継続的なサイクルとしての『アンラーン戦略』について学びました。
本講演は、中竹氏が参加者の意見や考えを随時チャットで募る等、双方向のコミュニケーションを使い実施しました。以下が講演の要旨です。

本日のテーマである「アンラーン」という概念は、様々な場面で耳にするようになったものの、正解がある訳ではありません。今日はこれまでの私の考えや経験、監訳した書籍をもとに、この「アンラーン」についてお話します。
まず初めに、「学び」について考えてみましょう。学びには「知る」「分かる」「試す」「できる」「続ける」の5つの段階があります。必ずしも「知る」のステップからひとつずつ段階を踏む必要はなく、例えば「試す」ことから始めることも有効です。また、一度「できた」としても「続ける」という習慣化された無意識の段階に至らなければ、自身の血肉とはなりませんし、いざというときに使えません。また、できたとしても意外と気づいたり、理解できないこともあるのです。「知る」「分かる」の段階では、後からでもきちんと言語化していくことも非常に大切です。
次に問いを使い「学び」について考えてみましょう。「学び」について大切な問いは、以下の3点です。
①「What(何)」:何を学ぶのか
②「How(どう)」:どうやって学ぶのか
③「Why(何故)」:何故学ぶのか
実は、脳の中で「Why(何故)」を考えることは負荷がかかりますので、時々立ち止まり、考え、言語化しなければなりません。また、これら①〜③に加え、そもそも「学び」とは何かという定義をしっかり考え、共通認識を持つことが最も大切です。本日は「アンラーン」の定義と意義について皆さんと考えていきましょう。

皆さんにとって「アンラーン」とは何でしょうか。言語化してみましょう。学びには「ラーン」と「アンラーン」の2種類があり、前者は新しい知識やスキルを獲得すること、後者は過去の学びや獲得した栄光を捨て去ることです。この2つはアプリケーションとOSのように、全く異なるものです。何故「アンラーン」が必要なのか。それは、社会や価値観が変わり、競争社会が激化する中で、停滞しがちな個と組織・立場や役割の変化に伴い、自己と他者に対する誤った認識等が発生するからです。
またDE&Iの観点からも、これまで持っていたバイアスや思い込みを捨て去ることは必要です。
例えば、プレイヤーからマネジャーになった場合、自分ができること(主体・直接的)と他人が出来ること(客体・間接的)は全く別物であるため、支援という関係の中で、多様な視点を持って部下と接することが必要です。「なぜその人はできないのか」「興味はあるのか」「他者は自分と何が違うのか」。私はよく“業界を変えたつもりで、ゼロから学びましょう”とお伝えしています。それほどにアンラーニングしないと、スタート地点には立てないと考えています。学ぶのをやめたら、教えるのをやめなければなりません(参考:コーチング論 ロジェ・ルメール)。「学び」を学んでいきましょう。

さて、学びには原則というものがありますが、ここでは3つ紹介します。
①インプットよりアウトプット
②成功体験より失敗体験
③予習より復習
実はインプットするよりもアウトプットする方が記憶に定着し、ネガティブな感情の方がポジティブな感情よりも印象に残りやすく、リフレクションと呼ばれる振り返りの方が、予習するよりも学習効果が高いと言われます。一方、学びには“恥の意識”と“勘違い”という2大障害があります。思い込みやバイアス、この2つをまず初めに取り払わなければ、学ぶことは出来ません。この障害を取り除いていくための、ひとつのアプローチとして「アンラーン」は大いに寄与すると考えます。
「学び方」を学ぶことも必要です。「学び方」には”Solo-learn:独りで学ぶ”と”Co-learn:共に学ぶ”の2種類があり、後者は、PairやTeamなど学びの方法により、影響も異なります。独学も大切ですが、Solo-learnでは失敗しにくく、クローズした世界の中で完結してしまうため、Co-learnで時々失敗もしながら、この両者を行き来することも大切です。
私のキャリアを考えると、スポーツでもビジネスでも、アンラーンが中心となっていました。コーチングディレクターの際に言われた「When one person teaches Two people learn」(独りが教えると、両方が学ぶ。教えるのではなく共に学べ)、この言葉こそが私自身のアンラーンの原点となっています。
「アンラーン:脱学習」⇒「リラーン:再学習」⇒「ブレークスルー:飛躍」。この3つの循環がアンラーンのサイクルです。きちんとアンラーンした上でリラーンをすると、必ずパフォーマンスが変わり飛躍します。アンラーン・リラーンの際に、言語化出来るかどうか、また何をアンラーンするのか、その対象物を何にするのかという点にも着目してください。

人事の皆さんは、自社の中でリーダーを教育する必要があると思いますが、リーダーシップに関してアンラーンが起こっている現象として“オーセンティック・リーダーシップ”が挙げられます。リーダーのあり方として“模範的”であるよりも“自分らしさ”を高めることで、結果としてその組織はより良くなります。また“強くて賢い優秀さ”よりも、いかに“弱さのさらけ出し(Vulnerability)”が出来るかが鍵であり、このことこそが学びの障害のひとつである「恥」の概念や心理的安全性に繋がっていきます。
また、経営・人事こそ「感情」を大切に扱うべきであると考えます。認知し理解し制御するとか、リーダーとして感情を出すべきではないという概念は、早く手離すべきです。アンラーンを実践する際には、自分を信じると同時に疑うこと。プロジェクトにおいても同様です。行動を振り返り、目標・計画を振り返り、背景や存在を振り返る。各々の段階において、しっかり言語化していきましょう。
「成長」にも、能力やスキルといった水平的成長(量的)と、人間性や器といった垂直的成長(質的)の2種類があります。こちらもアプリケーションとOS同様に、どちらも伸ばしていくことが必要です。ここでも「学び」「成長」ともに、アンラーニングが重要な基盤となってくると言えるでしょう。

人事の皆さんにとって重要な「アンラーン」とは何でしょうか。皆さん自身の会社やチームの中で言語化し共通認識を持ち、目線合わせをしていくと良いかと考えます。

中竹氏は最後に「本日は私自身も講師という立場でありながら、皆様からのコメントや質問等を通して学ばせて頂きました。これこそCo-learnであると思います。ありがとうございました」と述べ、講演を締めくくりました。

◎フォーラムを終えて

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  • 参加者の意見・感想は・・・

    アンラーンについて間違った理解をしていた。過去を全て捨て去るようなイメージをしていたが、いいものとそうでないものを選別したり、学びを追加したりと、まさにこれからの人材育成・開発に必要な要素だと思った。 非常に興味深く、面白い内容だった。正直、これまで「アンラーン」の意味や方法論が分からなかったが、今回のフォーラムで理解できた。 指導の仕方やアンラーンについて、これまで色々なセミナーで聴講してきた内容とは切り口が異なり、興味深かった。 教育心理学を学びたいと思った。「子供は親が言っていることはやらないが、親がやっていることはやる」「これからの口だけ教育や人材育成は通用しない」というコメントが印象に残った。 学びの障害は「恥の意識」「勘違い」であるという点に納得した。 中竹氏の具体的事例や感想を交え、アンラーンの定義と具体的な方法について学ぶことができた。感情を大切にすると言うことが、私にとってはとても印象深く、これからの社会は物質的な豊かさから感情的な豊かさに向かっていくと感じ、希望を持った。 弱さをさらけ出すことが、リーダーの要素となり得ることに気付いた。 ラーンとアンラーンの関係を、アプリとOSに例えられていたのが、とても腹落ちした。 「ブレークスルーのためにアンラーン」という考え方が新鮮だった。 これまでコーチングをする時には、成功体験を聞き出すことが良いことだと思っていたので、目から鱗だった。 アンラーンのサイクルが役立った。「ブレークスルー」に気が付かない人に対して、気が付くような支援をしていきたいと思った。 アンラーンのサイクル。リラーン、ブレークスルー。オーセンティック・リーダーシップ。模範的より自分らしさ。リーダーのあり方として、強くて賢い優秀さより、弱さのさらけ出し。自分を信じる事と疑う事のループ。水平的成長と垂直的成長。人間性の器。どれもが腹落ちした。 アンラーンというネガティブに聞こえる単語が、刷新等の前向きな意味があることが驚きだった。 これからは模範的よりも、自分らしいオーセンティックな上司をめざして、自分をさらけ出してメンバーと接していきたい。 今ある仕組みややり方を疑った上で、違う方法はないかを考えていきたい。 管理職になることに自信がない人に「共に学ぶ」ことを伝えたい。 学びの障害の乗り越え方についてのヒントを頂けたので、社内施策に活かしたい。 これまでは、成功事例などを学ぶ(学ばせる)機会が多かったが、そうではない「こんな場面では何が必要か、自分の能力に照らしてどう解決させるか」など、本日の講義を参考にして、自社の研修カリキュラムも再構築したい。 「学びの3大原則」は明日から活かしていきたい。 これまで自己のキャリア形成を意識してこなかった高年齢層ほど、何事も他責(会社任せ・上司任せ)になっており、自分事としての危機感が薄いのではないかと思えることが、アンラーンの障害となっていると思う。 一方的な講義ではなく、チャットを使った問いかけも多くあり、良い学びの機会だった。 全般的にあまり知らなかった分野なので、全ての情報が新鮮に感じた。 普段何気なく使っていることについて、きちんと言語化して考えてみようと思った。 スポーツやビジネスにおいても一流のコーチである中竹氏の実体験を踏まえた話は、非常に説得力があった。今後もアンラーニングの他、リスキリングや学びに関して取り上げていってほしい。
  • 登壇者の感想は・・・

    株式会社チームボックス  中村 竜二 氏

    株式会社チームボックス 中竹 竜二 氏

    「今回、私は登壇者として、今まさにこの概念が必要とされている組織の皆様に対して「アンラーン」の重要性についてお話しましたが、ご参加頂いた皆様の学ぶ姿勢や言語化した言葉の数々を見ながら、私自身がまたアンラーンサイクルを回すきっかけとなるような時間を過ごさせて頂きました。皆様の組織がブレークスルーし続けるためには、アンラーンに関する個の力と組織の戦略が欠かせません。今回のフォーラムをきっかけに、まず、ご自分の所属する組織の成長を信じ、アンラーン戦略に向けた一歩を踏み出して頂けたら幸いです」