変化の時代におけるLIFULLの組織戦略
株式会社LIFULL執行役員 Chief People Officer 羽田 幸広 氏
このセミナーの案内を見る「利他主義」を社是に掲げ、「日本一働きたい会社をつくろう!」という経営トップの熱い思いと、社員のモチベーションとエンゲージメントの高さが、好業績を支える(株)LIFULLは「あらゆるLIFE を、FULLに」のコーポレートメッセージのもとで“革進”と成長を続けている企業であり、「ベストモチベーションカンパニーアワード」「働きがいのある会社ランキング」「健康経営銘柄」等に何度も選出されています。
今回の人事戦略フォーラムは、同社の人事責任者である羽田幸広氏をお招きし、組織戦略・人事戦略とその実現に向けた取り組みの軌跡、並びに時代の変化に対応した今後の展望等について伺いました。
(株)LIFULLは、日本最大級の不動産・住宅情報サイトLIFULL HOME‘Sを運営するソーシャルエンタープライズです。羽田氏は、その前身である(株)ネクストに2005年に入社。現在は同社執行役員であると同時に、Well-beingに関する研究開発活動への助成を通じて、研究者を支援する「公益財団法人Well-being for Planet Earth」の事務局長も務めています。
以下が、今回の講演の要旨です。
羽田氏が組織戦略としてまず語ったのは、平時と有事での切り替えの重要性です。
「有事に際しては、一人の意思決定者が課題に対して集中的にリソースを投資する『トップダウン型』が良いと考えます。一方、平時においては、個々が自律的に活動しつつ、全体としての協調を実現することが大切です。目的で束ねながらも、何をやるか/どうやるかは、一人ひとりが考え行動する。その方がスピーディで、変化にも迅速に対応できると考えます。もちろん、みんなが自由勝手に行動したのでは組織として成り立たないので、『私たちは何のために存在するのか』『この会社は何のために設立されたのか』というビジョンを明確にした上で、自律を促すカルチャーをつくることが大切です」
組織運営で大切なのは、まずビジョンを明確にすることです。(株)LIFULLは「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」を企業理念に掲げ、この理念に則った事業を行っています。事業領域は不動産関連から、地方創生・民泊・介護まで幅広く、主なグループ会社が41社、63カ国で展開。経営陣主導で生まれた事業もあれば、社員の提案から生まれた事業もありますが、「ビジョンを実現する」という理念は共通しています。
「経営理念を掲げても、実行されなければ何の意味もありません。だから私たちは常に理念やビジョンを語り、1on1(毎日)、朝会・夕会(毎週)、全社総会(毎月)など、さまざまな場面で共有する機会を持つようにしています。また全社員を対象とするアンケートを年2回実施。そのフィードバックから、役員は自分たちが経営理念に沿った戦略・指示等を行っているかを検証しています」
もう一つ大切なのは、自律を促す企業文化です。
「“カルチャー”にはいろいろな定義がありますが、私は『ボスが出ていった後に起こること』と考えます。社長がいる時だけ行動するのではなく、上司がいてもいなくても関係なく、自然にとる行動。それがカルチャーだと思っています。カルチャーの醸成に必要なポイントとして、以下の2つを挙げます」
1. 内発的動機づけ
自分の内側から出てくる「こうありたい」「こんなことをしたい」という欲求は、事業を生み出す力の源泉。LIFULL社員の働きがいの源泉であり、多くの社員が日常的に「内発的動機」を使っています。
2. 革進の核になる
革進とは、現状を革め、今を超える価値を生み出し続けること。すべての人がその価値提供の中心(核)となり、大きな革進から日々の小さな革進(改善)まで、既成概念に捉われず、自らが当事者として挑戦し続けます。
こうした文化をベースとして、LIFULLでは全社員が年2回、キャリアデザインシートを提出します。ここで問われるのは、LIFULLの社内に限られたことではなく、自分の人生をどうデザインするかです。将来、5年後、3年後、半年後と考えた結果、営業から企画に職種を変えたい、新規事業を立ち上げたい、といった欲求に気付くこともあるでしょう。組織としては、そうしたさまざまな内発的動機からの提案ができる制度を整え、行動できるようにします。
支援策の一例として、労働時間の10%を他部署の仕事に充てられる社内副業制度「キャリフル」があり、現在、社員の約10%がこれを活用しています。「お試し」で経験した仕事がいいと思った場合には、キャリア選択制度を利用して異動希望を出すことができ、実際、手を挙げた社員の5〜7割が希望部署に異動しています。
2006年からは新規事業提案制度「SWITCH」を開始し、年4回開催しています。テーマはまったく自由で、自分がこれまで生きてきた中で感じた社会の課題を事業で解消したい、という提案が、年間100〜160件も寄せられます。
「利他主義」を社是に掲げるLIFULLでは、社会貢献活動支援も重要なテーマであり、実際に参加している社員も少なくありません。そうした社員の活動には、会社として前年度利益(税引後)の1%を原資として支援しています。
また「LIFULL大学」は、さまざまな研修を自分で選んで受けられる制度で、自ら講師になることもできます。
事業をつくるだけでなく、会社をつくるために社員が自発的に行っている活動もあります。現在は有志社員によって多くの委員会活動が運営されていますが、実は、こうした活動ははじめから活発だったわけではありません。例えば、多くの社員が参加し熱心に議論を交わしてきた『日本一働きたい会社プロジェクト』も、私が呼びかけた当初はほとんど人が集まりませんでした。それでもあきらめず、一人ひとり声をかける地道な勧誘活動をコツコツと続けることで、徐々に盛り上がりを見せました。
立ち上げた新規事業が残念ながら失敗に終わった場合も、戻ってきた社員に『ナイスチャレンジ』と声をかけて温かく迎え入れることで、『失敗しても大丈夫なんだ』という空気を作っていくことも大切です。
作った制度が使われる企業文化を育むためには、まず明文化することが第一歩。その上で、背中を押して事例をつくっていくことが重要だと思っています。自分の部署の仕事だけやって、全社の活動に協力しない人。新規事業を進めようとしても『ウチの部署は忙しいから』と提案や部下の異動を拒む管理職。こうした存在は当社でもありましたが、そうした行動がタブーであることを明確にし、会社の理念を伝えて説得を続けることで、次第に理解が得られ、提案しやすい環境が整ってきました。こうした地道な活動を5年ほど続けることで、少しずつ主体的に動く社員が増え、提案数も増えてきました。大切なのは、諦めずに粘り強く続けることです。
企業文化に関しては「こういう文化を作りたい」と宣言していますが、これは、役員だけでなく有志社員も含めて検討し、4〜5年ごとにその時にあったカルチャーに変えています。
新卒採用に関しては、LIFULLのカルチャーに沿う人だけを採用することを鉄則としています。選考の途中でアドバイザーを入れ、その学生の興味、将来やりたいことなどをしっかり確認。IFULLに合わないと判断した場合には、優秀なスキルを持つ人材でも採用を控え、他社を紹介することもあります。
コロナ禍でリモートワークが進んだ際は、一人でやる仕事とみんなでやる仕事、目的が強い仕事と弱い仕事を分析し、そのすみ分けを会社として協議しました。自律を促すカルチャーに沿って検討した結果、推奨されるのはオフィス勤務。ただし会社として出社してほしいのは週1日で、この日をメンバーが対面で顔を合わせる「コミュニケーション・デー」としました。もちろん、これだけでは他部門や外部とのつながりが弱くなる恐れがあります。そこで、チーム間や社外とのコミュニケーションを図るために、オンライン推奨のサークルを立ち上げました。月1万円の支援金を提示したところ、約75のサークルが誕生。さらには交流の活発化を目的として、サークルやワーキンググループの見本市「LIFULLエキスポ!」をオンライン開催しました。
重要なのは、こうしたビジョンやカルチャーに関する活動の効果測定を、定期的に行うことです。LIFULLでは年2回の組織サーベイなどを実施。社員一人ひとりに対して「仕事が楽しいか」「よく眠れているか」などの項目について調査を行い、その分析結果を組織課題や個人課題の解決に活かしています。
「組織づくりは『人の心』なので、本当に大変です。私自身、会社が急成長して人手が足りない時期に、スキルの高さだけでたくさんの人材を採用したことがありましたが、ビジョン・カルチャーが合わない人が増えたため、企業文化が乱れてしまいました。それ以来、どんなに能力が高くとも、ビジョン・カルチャーに合わない人は採用しないことを全社的に周知しています。また、ビジョン・カルチャーに沿う人材であっても、採用後は定期的に測定を行い、フィードバックすることで行動を修正することが重要です」
羽田氏は、レクチャー終了後も参加者から寄せられたたくさんの質問に、丁寧かつ具体的に回答して頂きました。そして最後には、参加者の皆様に
「変化の激しい時代にあって、組織をつくることは苦労の連続です。心が折れそうになることもあると思いますが、一緒に頑張っていきましょう!」
とエールを送ってくれました。
◎フォーラムを終えて
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フォーラムの内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
羽田氏がLIFULLで取り組んでいる全てがバイブルだと思った。「日本一働きたい会社のつくりかた」を全社員の課題図書として読んでもらい、LIFULLのような素晴らしい会社組織にしたいと思った。社員の自薦・他薦によりプロジェクトを立ち上げ、諸々を参考にさせて頂きながら、これから当社を少しずつ日本一働きたい会社に近づいていけるようにしていきたい 他部署や外部とのコミュニケーション作りに注力する/年数回のコンパを実施する/新しい制度を導入する際には、社員がほぼ知った状態になっている/感情・ビジョン・戦略のギャップ/心理的安全性がないと、戦略なんて出てこない等々。これらの事項は、まさに今後当社で実施しようと思っていたものだったので、とても共感出来た。経営層のリーダーシップも勿論だが、人事部主体でこうした改革を行なう、その方がワクワクすると思う 理念・文化をどう浸透させるかの徹底ぶりに感心すると同時に、そのための具体的方法が大変参考になった 「理念や文化に共感してくれる人材」しか採用しないという徹底が、まず重要だと感じたし、その理念や文化をきちんと明文化することが必要だと感じた 理念や文化を浸透・定着させていくための仕掛けを上手に作り、運用されている点が素晴らしいと感じた 当初の予定時間を超えても、ひとつひとつ丁寧に回答してくださり感謝している。自分は新卒で人事配属なので、担当している業務は違うものの、当社にある制度/ない制度、取り入れられそうな施策など、詳しく制度をご紹介して頂けたので、自分ごととして考えやすかった。特に、入社前の内定者フォローは抽象度の高いことから始め、4月に向けて段々と具体的な内容にしていくというアドバイスは、今直ぐにでも実践できそうなので早速活用してみたい 弊社も「日本一働きたい会社のつくり方」を全スタッフで閲読させて頂いた。更なる会社の風土、組織の向上のために参考にしていきたい このようなセミナーで、私自身もHR担当者として「自社事例」を話す機会が出てきたところだったので、非常に参考になった。「御社の特殊なカルチャーだから出来るのでは?」から、「どんな会社カルチャーでもできる」「カルチャーを変えてでもやるべき」というように、聴講者に気付いてもらうことが大切だと感じた こういう会社にしていきたいという、強いWillを喚起させられた。当社なりに負けずに頑張りたい 当社では「日本一働きたい会社のつくり方」を参考に、プロジェクトを立ち上げて取り組んでいるところ。出来れば、書籍の章ごとにセミナーを開催して頂けたら、非常に嬉しい 羽田氏の本を読ませて頂き、本日は実際にお話をお聞きすることができ、とても光栄。今後、より詳しいケーススタディや失敗談も含めた話をお伺い出来れば、自社の組織作りにより活かせると思った 羽田氏の著書を読んでいたので、是非お話が聞きたいと思い、今回参加した。現在、人事として組織作りに携わっているが、コツコツと努力してもなかなか結果が出ない状態。そもそも「組織に対してあきらめている」「どうせ言っても変わらないと思っている」社員達の心を動かす方法や、役員に対してのマインドセットなど具体的な方法が知りたい -
登壇者の感想は・・・
株式会社LIFULL 羽田 幸広 氏
「本フォーラムでは、変化の激しい時代において、社員が自律して仕事に取り組める環境をつくるために、当社が大切にしていることを共有させて頂きました。外部人材を惹き付けるためにも、社員が自律的に挑戦できる環境をつくることが重要になっていくと考えます。皆様の組織作りのヒントになったのであれば幸いです」