ホームセミナーセミナーレポート人事実践セミナー 2022年5月25日

セミナーレポート

人事実践セミナー

質・量ともに不足する『DX人材』の確保・育成に向けて

シードテック株式会社 代表取締役
ギークス株式会社 執行役員 高原 大輔 氏

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VUCAの時代に入り、競争上の優位性を確立するために、DXへの取り組みを行わない企業はないと言っても過言ではありません。しかしながらDX・IT人材は超売り手市場となっており、非IT系企業には優秀な人材が集まりにくく、DX化が進まない要因のひとつになっています。
今回の人事実践セミナーでは、DX戦略の実現に不可欠なDX・IT人材を確保・育成する方法や、外部専門人材の調達手法について、シードテック(株)代表の高原氏にお話し頂きました。

日本で就業しているIT人材は約150万人、そのうちの約110万人、実に80%近い人材はIT企業に所属しています。海外と比較すると、仏・英では約50%、米国では40%以下なので、これは日本特有の傾向です。日本の非IT企業は残りの40万人を奪い合うことになるため、求人倍率全体が約3倍であるのに対して、技術系(IT/通信)は約10倍と、非常に激しい競争となっています。
IT人材が企業を選ぶポイントは、認知度、高待遇、自由な働き方、高い技術力などで、人気上位にはこれらの条件が揃っている企業が並びます。そうした企業に対抗してDX・IT人材を採用するためには、人気企業の戦略を研究した上で、経営・人事・事業が一体となって、報酬や人事制度を見直すことが必要です。

システム外注はコストが高く、時間もかかります。未来を見据え、DXのスピードに付いていくためにも、システムの内製化を図ろうとする企業が増えていますが、そのために必要なのは、社内でIT人材を育成する、あるいは採用することです。例えば「星野リゾート」は、2006年当時、社内のIT担当は1名、システム開発はすべて外注という非デジタルの会社でした。けれども外注パートナーに細かな仕様を伝えることは難しく、費用もかかります。テクノロジーが進化する世の中にあって、これは弱点になると同社は考え、3,500名の社員全員をIT人材化することを決断。時間はかかりましたが、現在では全従業員にIT・DXのリテラシーがあり、開発まで行える人材も育成されました。大浴場の混雑をアプリで可視化し、お客様サービスの向上と業務効率改善につなげるなど、現場ならではの発想に基づくDXで、着実に成果を上げています。

2020年8月より、米国証券取引委員会(SEC)が「人的資本」に対する開示を義務付けたことから、今後はこれが世界のトレンドになる可能性が示唆されています。コストを抑えて効率良く利益を生む「人的資源」の発想から、投資して資本を増やし収益化を図る「人的資本」へ。優秀な人材を採用するだけでなく、教育・研修等で社内人材の価値を上げることが、売上・利益の向上、ブランディングや企業価値創造につながり、その結果、企業の成長という対価につながる、という発想です。そこで注目されるのが、システム開発の内製化です。DXのスピードを早め、コスト削減に貢献するためは、社員育成を視野に入れた体制づくりが求められます。

DX・IT人材の調達方法は、「採用」「外注国内」という従来型と、新たに注目される「外注海外」「社内教育」の大きく4つがあります。どの企業でもまず考えるのは「採用」で、入口では多少コストがかかりますが、外注よりは安価で、スピード、クオリティ、ノウハウ蓄積においては最適です。但し調達難易度は4つの中で最も高くなります。次に考えるのが「外注国内」。コストは近年上昇中ですが、スピード、クオリティは問題なし。ただしノウハウの蓄積は出来ません。次いで注目されるのが「外注海外」、いわゆるオフショアです。中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、タイなどが知られており、コストを抑えるには最適ですが、国内と比べるとスピード、クオリティにおいて劣り、ノウハウも蓄積されません。そして、今後考えられるのが「社内育成」です。すでに採用済みの人材が対象となるため、調達難易度は低く、コストは研修費程度。育成には時間がかかるのでスピードは期待できませんが、育成後はクオリティやノウハウ蓄積の点で最適。つまり中長期的に見れば、社内育成は安定的にIT人材を確保できる方法だと言えます。1年目は先行投資ですが、2年目から徐々に活躍(投資回収)し、3年目から戦力になる、といったロングスパンで取り組むことが重要です。

講義の後半は、IT人材にキャリアシフトした中島知氏をゲストに迎え、高原氏との対談形式によるディスカッションが行われました。中島氏は、IT企業の営業職として社会人キャリアをスタートしましたが、シードテックでのプログラミング学習を経て、未経験でIT人材としてヤフー(株)に転職。社内研修を経て、エンジニア・PMとして活躍したのち、個人事業主として独立し現在に至る経歴の持ち主です。ディスカッションでは、文系の営業職からIT人材を目指した経緯、そのために要した時間、必要なスキルなど、具体的な経験をもとに「営業職として折衝や社内調整などの経験を積んでいたからこそ、早い時期からPMとして活躍できたことは間違いありません。私の感覚としては、文系の出身の方でも1年ほどあれば、IT人材としての第1歩を踏み出せると思います」と語りました。また、「IT人材から選ばれる会社とは?」という質問に対しては、「エンジニアは新しいこと、チャレンジングなことが好きです。会社としてのビジョンや新しい技術を使って拓こうとしている未来が見えると、グッと惹きつけられます。テックイベントや技術サイトで、エンジニアが積極的に発信している会社は魅力的ですね」と回答。また、参加者からのいくつかの質問にも本音で答えて頂きました。

最後に高原氏は総括として、
「この先、IT人材を自ら作り出す力、ドリブンエンジンを持たない企業に未来はないと思います。中島さんのように、文系の仕事からエンジニアにジョブチェンジした方でも着々と育っており、インハウスでIT人材を育成することは不可能ではありません。外部への投資を社内の人的資本に振り向け、時間をかけて取り組めば、現場のDXは着実に進み、利益が出る事業運営が可能になります。今日のセミナーを、3年後、5年後に向けた投資を考えるきっかけにして頂けたならば嬉しいです」と語り、セミナーを締めくくりました。

◎セミナーを終えて

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    人的資本への投資=企業価値向上ということ、そしてITエンジニアを外に求めるのではなく、自ら育成する考え方がこれからの時代には不可欠であるということがよく理解できた DX推進をどのように進めていくかという具体的な選択肢や、それぞれのメリットとデメリットが分かりやすく参考になった IT・DX人材の社内育成の必要性が理解でき、実施に向けての気付きとなった点がたくさんあった 社内育成後、実際に活躍できるまでにかなりの時間が必要だと理解した 採用だけでなく、自社社員の育成にも力を注いでいく必要があることを理解できた 全社員のスキルUPには取り組み始めているが、今回のゲストの中島氏のような社員が沢山いれば、社内での人材育成も、もっと活性化されると感じた。当社のレベルでは(やらされ感なく)まずは社員のスキルUPへのモチベーションをいかに高めるかというところから始めるのが現実である 人材開発において、DX人材育成の優先度を高めていく必要性を強く感じた。一方で、DX人材を育成することでもたらされる価値とは何か、具体的な事例があれば自社内でイメージしやすいので、今後是非取り上げてほしい 社員のITリテラシーを高めるための社内教育を検討しているので、今後そのようなテーマでもセミナーを開催してほしい
  • 登壇者の感想は・・・

    シードテック株式会社 高原 大輔 氏

    シードテック株式会社 高原 大輔 氏

    「本セミナーでは日本の課題であるDX・IT人材不足について、採用以外の調達方法や人材育成の重要性を、事例を踏まえて具体的にお話ししました。これから更に、非IT企業での採用難易度は上がります。採用・育成の両面から社内体制を整えていく上での、ささやかなヒントになれば幸いです」