AIを活用して、人事課題を解決するための入門/体験講座
株式会社 aiforce solutions Sales Manager 吉沢 耕太 氏
キャプラン株式会社 執行役員 タレントマネジメント事業部長 平間 芳和
人事は会社にとって重要な“ヒト”に関わる仕事であり、多大な時間と労力を必要とします。近年では、人事部門にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せ、業務の効率化と業務品質向上の両側面から、人事分野にテクノロジーを活用する「HR Tech」や、データに基づく「データドリブン人事」の動きも少しずつ進んできました。AI(人工知能)の活用も進み、その範囲も少しずつ広まっています。今回のフォーラムでは、人事分野でのAI活用の最新事情を学ぶとともに、ご参加の皆様にAIを実際に体験して頂きました。
【PART1】 事例でわかるAIドリブンなDXの実践方法 〜HR領域におけるAI活用の最前線〜aiforce solutionsの吉沢氏は、DXとAIがなぜセットで語られるのか、その関係の解説からフォーラムをスタートしました。
「デジタル・トランスフォーメーション」とは、『現状の事業(As-Is)を、①デジタル技術の組合せ や ②データ活用 により、競争上の優位性がある事業(To-Be)に転換・変換すること』と定義されます。これまで積極的にシステム導入に取り組んできた企業は、その過程で社内に大量のデータが蓄積されています。このデータを価値に変換するテクノロジーがAIです。『データは21世紀の石油である』という有名な言葉がありますが、原文では、これに『但し、精製して分析をしないと価値にはならない』という言葉が続きます。つまり、データを収集・蓄積してきた企業は、次のステップとして、データ活用に目を向けることが必要なのです。AIは「一つ作って終わり」というわけではなく、これからは各業務・各領域に大量に組み込まれていくものです。目的に応じて多くのAIモデルを作り活用していくことができますので、コストやスピードを考えると、社内にAIのリテラシーを蓄積し、自分達で運用・改善していけるのが理想です。
AI活用の過程で、つまずきやすいポイントは、以下の3つです。
①リテラシーの壁「AIは魔法の杖」という間違った認識から、自社業務での具体的活用イメージがわかず、導入に向けた検討が進まない。これを乗り越えるには、AIで出来ることを理解し、AIを分解する力を身に付けることが必要です。
②プログラミングの壁専門知識を持った人材がおらず、プログラミング言語の勉強には時間がかかるため、取り組みたいテーマがあっても実現できない。これはAIツールなどを活用しAIを使う力を身に付ける事で乗り越えられます。
③実践の壁どのようなデータを投入すれば良いのかわからず、期待した精度まで上がってこない。業務でどのように使って良いのかがわからず、見込んだ成果も出せない。これを乗り越えるには、専門家を上手く利用しながら、より多くの実践経験を積むことです。
AIという言葉から、人間のように柔軟にものを考える「鉄腕アトム」のようなシステムを思い浮かべる方も多いようですが、これは「汎用型AI」と呼ばれるもので、現在の技術ではまだ実現されていません。現在活用が進められているのは、ある一つの意思決定に特化した判断を行う「特定型AI」です。これを実現するためには、特定の事象を予測するための法則性を、過去のデータから学習する「機械学習」の技術が活用されます。機械学習の要素は3つ。物事を考える思考回路である「アルゴリズム」に「データ」を与えて学習させると、過去のデータから未来に起こることを予測して「学習済みモデル」ができます。機械学習にも3つのタイプがありますが、ビジネスでの活用シーンでは、求めたい正解を含んだデータ(教師データ)をもとに学習する「教師あり学習」がほとんどです。教師あり学習で出来るのは、対象を複数のグループにカテゴライズする「分類」と、金額や数量など連続した数値を予測する「回帰」の2つです。HR領域においては、退職リスクの分析や人員の最適配置など、会社の仕事に長年従事していなければ難しかった業務課題に活用できます。ある企業では、AIを活用して退職パターンを可視化し、そのパターンごとの人事施策を策定、退職リスクの高い社員に対して適切な人事施策を打つことで、退職率の大幅な低減(20%→8%)を実現しました。
レクチャーに続いて、参加者はAI操作を演習にて実体験し、「退職予測」に取り組みました。演習終了後、吉沢氏は「現在、業務の上でAIを活用するために、プログラミングの知識は必要ありません。自動車に例えるなら、エンジンのメカニズムを知らなくても運転免許が取得できるのと同じです。本日、実際に触れてみて、AIを作ることはそれほど難しくない、とわかったのではないでしょうか。実践の段階でつまずくポイントは出てくると思いますが、その際は私たちのような専門家を上手に活用してください。
【PART2】 DX化0.1。人事データの整理を始める際の留意点続いてキャプランの平間が「ピープルアナリティクス」を用いた人事関連データの統合事例を紹介しました。
「ピープルアナリティクス」は、人事に関する様々な既存データを取り込み、離職や入退職の傾向などを可視化することで、人事の課題と解決方法を予測するために活用されています。
データの整備にあたっては、いわゆる「ごみデータ」に注意が必要です。人事データを持っていたとしても「メールアドレスが複数存在する」「年齢が100歳を超える」「所属がコード番号になっている」など様々なエラーが含まれることが多々あります。運用を担っている担当者であれば、エラーの発生理由を判断できる場合がほとんどですが、データを見ただけでは理由や背景がわかりません。このため、プロジェクトメンバーには現場の運用を把握しているメンバーを加えることをお勧めします。
また、過去のデータがどこまで必要なのかも検討課題です。コロナ禍の前後では人事に関わる環境が大きく変わっているため、2〜3年単位で区切って考えてみるのも一つの方法です。データの修正は必要最小限にとどめ、とにかく進めてみることによって、本当に必要な情報は何かが見えてくると思います。まずは一歩踏み出すこと。それが一番の近道です。
◎フォーラムを終えて
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参加者の意見・感想は・・・
非常に実践的な研修で、有意義だった。AIは色々な仕事に活用できるとは思っていたし、退職予測にも使えるとは思っていたが、実際のAI演習を通じて、具体的にどのようにデータ解析結果が導き出されるのか、解析のフローを見ることができ、とても参考になった 今回のフォーラムに参加された企業の多くが、既に人事業務にAIを活用していることがわかり、参考となり、また刺激となった 今回演習で使ったAIツールは使い勝手が良かったが、一方で使う側の能力・スキルが重要とも感じた 省人化・省力化のための大きな枠組みにおける小さなステップとして、AIの活用を想定していた。活用のために、予測・検知・認識というところまで細かく、ヒトの作業を腑分けしていくには、かなり難しそうだと感じた AIが自分達で簡単に活用できるというのは目から鱗の情報だった。社内で本日の内容を共有すると共に、4/28までAIツールをテスト利用できるようなので、他のメンバーとともに活用してみたい ピープルアナリティクスに関心があったので、今回のセミナーは大変参考になった。この分野をテーマとしたセミナーを引き続き開催してほしい 次回は、AIを活用した人事施策の展開の裏側のロジックや、具体的な人事施策の事例等をもう少し深く聴ければありがたい -
登壇者の感想は・・・
株式会社 aiforce solutions 吉沢 耕太 氏
「セミナー中に実施したクイックアンケートでは実に85%の参加者が人事領域でAIを活用したいと回答しており、期待値の高さを改めて感じました。AI演習を通じて具体的なイメージが湧いたのか、AI活用に向けた前向きなご質問も多数頂きました。本講座をきっかけに、一社でも多くの企業がAI活用の第一歩を踏み出せることを願っております」キャプラン株式会社 平間 芳和
「DXという標語が飛び交う中で、既存の人事システムなどの正しくないデータが存在しうる点や、その背景や理由などについて具体的な事例をお伝えさせて頂きました。データを綺麗にする事よりも、まず一歩を踏み出し、その後、必要最低限のデータの修正見直しをする。このひとつだけでもお持ち帰り頂けたら幸いです」