「人事は戦略である」を体現するためには!
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括 有賀 誠 氏
このセミナーの案内を見る働く人々の価値観の多様化、グローバル化による国際競争の激化など、企業を取り巻く経営環境が大きく変化する中、企業では事業転換や持続的成長を見据えた経営戦略に向けた、適切な人事戦略が必要になっています。今回のフォーラムは、「人材ファースト」を掲げる日本M&Aセンターの有賀誠氏をお迎えし、同社の人事改革の取り組みもご紹介頂きながら、参加者同士のグループディスカッションも交え、改めて参加者全員で「戦略人事」を考えました。
冒頭、有賀氏はマイケル・ポーターの「戦略論」を簡略化した4つのフレームからなるフレームワークの枠組みを提示し、自社における経験を例に「人事は戦略である」との視点から、フォーラムをスタートしました。
戦略論のフレームの1つ目は「ビジョン:理念」です。理念(Vision)とは、使命(Mission)+価値観(Values)。新しいスタートを切るときには、まずみんなで議論し理念を共有することが重要です。導き出された理念が「当たり前」の言葉であっても構いません。大切なことは、時間をかけて議論して作り上げていくプロセスです。「自分たちで導き出した理念なんだ」という思いがあれば、壁にぶち当たった時、意見が分かれた時などに理念に立ち戻ることで、前に進むことが出来るのです。
2つ目は、意思決定するための「外部環境分析 〜グローバル化における組織論を例として〜」です。例えば、グローバル組織の発展には、3つのステップがあると考えられます。まず、本国で開発・生産した商品・サービスを他国へ輸出、あるいは本国で構築したビジネスモデルを他国へトランスプラントする「International」の段階。次は、世界中に核となる拠点が複数存在し、それらが緩く結び付き、各地域の拠点の自治権・裁量が大きい「Multinational」の段階。その次は、国ごとの組織は存在せず、事業や機能ごとの組織とビジネスモデル、および世界共通の制度・プロセスによって効率を追求する「Global」の段階。現在、米国に本社を置く企業の大半は第3段階である、この「Global」に位置づけられるのに対して、日本は「International」の段階の企業がまだまだ多いと感じます。但し、どうあるべきかの答えは、企業によって異なります。重要なのは、グローバルで束ねる部分と、各組織に移譲する部分とを線引きするための基本思想であり、目指すべきグローバル組織は「Transnational」でしょう。
3つ目は、2つ目と並列する「内部環境分析 〜イノベーションを生む『人と組織』を例として〜」です。制度やプロセスで管理される組織文化の中では、企画・開発の局面だけでイノベーションを叫んでも、なかなか上手くいきません。一方、全てを自由にやらせ・任せたのでは、組織として成り立ちません。重要なのは、組織文化の基軸をどこに置くのか。そしてトレードオフも考慮した上で、複数の価値観をどのように組み合わていくのか、です。これも、答えは企業ごとに異なります。また、ひとつの企業の中でも、オペレーション部門では「統一性・同一性」が尊重されるのに対し、企画部門では「多様性・自由度」が重視されるといった具合に、求められる気質が異なる場合もあります。
イノベーション創出に関する自社戦略を考える際は、何を組織として束ね、何を社員に任せるかがポイントです。そのバランスはどんな企業にとっても悩みどころですが、重要なのは経営の思想、基軸とする組織文化・価値観、リーダーの言動であり、人事制度の仕組みやプロセスではありません。「統一性・同一性」と「多様性・自由度」のバランスをどう取るかは、企業にとって永遠の課題と言えるでしょう。
4つ目は、ビジョンの先にある「戦略の意思決定〜リーダーとしての勝負所〜」です。有賀氏は自らの経験を振り返り、「外部環境分析と内部環境分析を行い、それを重ね合わせると、かなりの確率で勝てる戦略が見えてくる」と言います。それでも最後に何を選ぶかは、理屈では決められず、それこそが「リーダーとしての勝負所」であるとした上で、以下の4区分によって自らの具体的な事例を紹介しました。
①戦わずに後悔していること
②戦って良かったと信じていること
③戦わないことが正解だったこと
④戦ったことを後悔していること
最後に有賀氏は「マイケル・ポーターのフレームワークを活用した『4つのフレーム』は、ロジックとして批判されることのないものだと自負しています。人事を戦略として捉える中で、ぜひ活用してください」と語り、フォーラムを締めくくりました。
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参加者の意見・感想は・・・
社内から「当社の人事部って、何をやっているのかな」「人事部に言っても、なかなか変わらないよね」と思われてしまっているような、迷える全ての人事パーソンに聞いてもらいたい内容だった。これまでの豊富な体験・経験を体系立ててセオリーやエッセンスに編集し共有してくださり、大変貴重な学びだった 世に多くある人事施策の紹介や技術的な話ではなく、人事パーソン、特に責任者としての心構えとして、大変興味深く受講した。有賀氏は以前から存じ上げていたが、改めてその人柄と波乱万丈のキャリアを詳しくお伺いでき、大変価値があった 有賀氏のわかりやすく整理された話に聞き入った。人事部長は“経営者”であると、改めて認識した。今後は、私も自身のビジョンを明確に示していきたい 人事としてのビジョンや戦略を、皆で考えるプロセスを設けることが大切だなと感じた。また同一性と多様性に関しては、日本の会社は比較的失敗をしない、無難な方法を選びがちだが、今後より国際的な社会に変わっていく中で、変化に臨機応変に対応できる柔軟性を身に付けるため、会社はリスクを取ってでも、社員の自由度を増やすことが必要だと思った。最後に個人的な意見だが、私は人事のお客様は社員だとは思っていない。人事のお客様も、会社と同じお客様だ。会社のビジョンを成し遂げるため、どのように人を育てるべきかについてを、経営陣のパートナーとして、人事戦略として考えていくことが出来ればと思う 有賀氏の経歴から、今回の戦略人事のレクチャーはもっとドライでシビアな内容かと構えていたが、人を大切にする考えがベースにあり、これから弊社でも実施していきたい事ともマッチしており、大変参考になった 他社の方とのディスカッションの時間が用意されていたのは、とても良かった。色々な意見に触れることが、日々の仕事の視野を拡げてくれる。有賀氏のお話は、何度聴いても素晴らしく、体験に基づいた具体的な内容を勉強することが出来た。また、人事戦略を立案・実行するための経営者との向き合い方など、有賀氏でなくては聞けないことも多く含まれ、大変有意義な講演だった。私も気持ちを新たに、人事戦略に取り組みたい 有賀氏のレクチャーは大変有意義な内容で、途中にディスカッションを挟んだ進行も素晴らしいと思った 私自身は現在、人事担当者ではないが、最も刺激を受けたのは現在人事担当職に就かれている参加者の皆様とのディスカッションだったので、この時間がもう少し長く設定されていると、もっと参考になる部分が多くなったと感じた -
登壇者の感想は・・・
株式会社日本M&Aセンター 有賀 誠 氏
「いくつかのグループディスカッションを覗かせて頂きましたが、正直ベースの本音の悩みの共有や活発な議論が展開されており、更には多くの方が経営視点で人や組織の課題をとらえていらっしゃることがとても印象的でした。本セミナーが“人事は戦略である”という志向と考察を、さらに深める一助になったのだとすれば、幸いに思います」