成長戦略と人事
株式会社良品計画 人事総務部長 宝地戸 健太 氏
株式会社ジャパネットホールディングス 人事本部 労務戦略部 シニアリーダー 田中 久美 氏
グローバル競争の激化やIT技術の進展など、社会を取り巻く環境が急速に変化する時代にあって、企業には、変化への対応力とともに、多様な価値観・バックグラウンドを持つ人材をマネジメントする力が求められています。
今回は、株式会社良品計画の宝地戸健太氏、株式会社ジャパネットホールディングスの田中久美氏をお招きし、自社の成長戦略と人事戦略及び具体的な取り組みに関する講演をお願いしました。
■PART1: 良品計画の事業戦略とそれを支える組織人事戦略
良品計画 宝地戸 健太 氏
MUJIの原点は、(当時のセゾングループ)堤清二氏の「消費社会へのアンチテーゼ」という思想にあります。ブランド設立から40年以上が経過した現在は、海外31カ国で国内を上回る店舗数を展開。「衣・生・食」を同一ブランドで展開する中で、近年は食品事業に注力し、営業収益の構成比が、この数年間で5%から12%にまで急成長を遂げています。
宝地戸氏は、こうした状況を背景に策定された中期経営計画(2021年7月発表)から、以下の「2つの使命」と、そのための具体的な施策などを紹介しました。
①良品計画の第一の使命は、誠実な品質と倫理的な意味を持ち、生活に欠かせない基本商品群、サービス群を、誰もが手に取りやすい適正価格で提供することです。
②良品計画の第二の使命は、展開する店舗が、地域のコミュニティセンターとしての役割を持ち、地域のステークホルダーの皆様と共に、地域課題に対して取り組み、地域への良いインパクトを実現することです。
これらの使命に基づいて推進する価格改定やロードサイドへの出店は、従来の「MUJI」のイメージを刷新するものといえるでしょう。
中期経営計画の中での組織人事戦略では、2024年までに実現することとして「全社員が自発的に活動する組織風土を身に付け、各店舗、各国・各地域が、自律的な成長を始める」としています。それを、
①第二創業を実行できる経営体制の構築
②採用、育成の刷新、抜擢による、多数のリーダー人材、経営者人材の創出
③無印良品の思想を全社全員で維持継承する活動の推進
④「自発性」「自律性」「チームワーク」風土への転換
⑤コオウンド経営を実現する仕組みの導入
の5ポイントにブレイクダウンし、それぞれのポイントについて解説されました。
人事戦略として注力しているのは、若手の抜擢です。まず、役員・部長クラスを含めて毎年150名を通年採用し、20代でも執行役員ができるキャリアパスを用意。全社員に対して「商品経営」「店舗経営」「管理経営」を教育するとともに、無印良品の思想を維持継承する活動を推進。さらに地域の公益的な課題の解決に貢献する「コミュニティマネージャー」を年100名輩出し、その中から執行役員を誕生させることを目指しています。
こうした戦略を推し進め、新しい人材とのコラボレーションが動き出す一方で、新たな課題も見えてきました。例えば、古き良き時代の小売業文化の中では、自分で課題を設定し、解決に向けて立ち向かう自発性・自律性が求められてこなかった、という現実。組織風土を改革し、自律自発人材を生み出すためには、外部人材採用や若手の抜擢といった「外側からの改革」だけでなく、無印塾による思想浸透の支援や、部課長のマネジメント力強化といった「内側からの改革」も必要となります。
事業戦略と組織戦略は表裏一体。今後とも「消費社会へのアンチテーゼ」という創業以来の大戦略を大切にしつつ、制度や仕組みを整え、新戦術に共感して自ら楽しむ力を高めてもらうことを目指していきます。
■PART2: ジャパネットの成長を支える人事戦略 〜生産性・エンゲージメント向上の具体的取り組み〜
ジャパネットホールディングス 田中 久美 氏
通信販売事業で急成長を遂げ、スポーツ・地域創生事業へと事業展開を拡げるジャパネットホールディングス。TV番組でも取り上げられ、話題となった同社の働き方改革への取り組みは、高田旭人氏が2代目社長として就任して以降の歴史とも重なります。
まず、2015年にノー残業デー制度や9日連続のリフレッシュ休暇制度を導入し、公休日を増加させました。その後も順次、退館時間を早めるとともに、16日連続のスーパーリフレッシュ休暇を導入。さらには、タニタ食堂の設置や健康管理にも力を入れてきました。2018年からは、経産省が健康経営企業を表彰する「ホワイト500」を毎年受賞しています。
こうした改革は、はじめから全社員に歓迎されたわけではなく、現場からの反発も大きかったようです。実際、休暇中に「見学」と称して現場に顔を出したり、オンラインで会議を強行するなど、管理者の違反行為も頻発。実現に向けては「絶対にやるんだ」という強い覚悟と、個人から“仕事を剥がす”などの、努力の積み重ねが必要だった、と田中氏は語りました。
生産性とは「投入資源分の成果」。これを高めるために、まず始めに取り組んだのは「人がやらない仕事を決める」ことです。販売戦略としては、2016年時点で約8,500あった取扱商材を770に厳選し絞り込み。日々の業務管理では、チーム内で各自の仕事を「見える化」して平準化。12〜14時をノー会議タイムに設定するなど、会議方法も改善すると共に、RPAを活用しロボットに業務を任せることで、単純作業から社員を解放しました。
2つ目は「仕事の質を高め、量と幅を増やす」こと。無駄のない職場環境を目指してフラットなデスクとフリーアドレスを導入したところ、70トンものモノが断捨離されました。また、社内研修の充実や資格取得の推進を図るなど、知識・スキルの向上にも取り組んできました。
3つ目は「モチベートする環境を作る」。社員食堂や休憩室の充実、休暇・休日の取得推進、健康管理の推進、福利厚生施策の充実などがこれにあたります。
こうした施策が社内に定着・浸透するためには、社員に施策の背景を理解してもらうことが重要です。ジャパネットホールディングスでは、毎月の朝礼で社長・役員が施策導入の背景などについて説明し、双方向アプリを使って情報を発信。社員からのどんな質問にもNGなしで回答する座談会も開催しました。「長時間働いて成果を上げることは正解ではない」という高田社長のスタンスが、社内に浸透し、「やってみたら案外できる」という感覚が共有されるに従い、施策は徐々に定着。5年間で月平均残業時間が44%削減される一方、お客様満足度は上昇し、従業員の満足度も高まるなど、大きな成果を上げることができました。
講演後の参加者との質疑応答に続き、最後に両登壇者から「皆様のお話を伺いながら、より良い人事を考えていきたいと思います」とのメッセージが発信され、フォーラムは終了しました。
◎フォーラムを終えて
-
フォーラムの内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
参加者の意見・感想は・・・
宝地戸氏の講演は、弊社と比べ全ての点で先に進んでおり、本当に学びが多い時間だった。特に小売業経営者にとって必要な商品経営、店舗経営、管理経営の教育は、弊社でも行いたいと考えている。また、田中氏の講演では、メンバーの仕事をデータを使って可視化し、平準化するという点が改めての学びだった。仕事の可視化というと、性悪説に立ちがちだが、そうではなく、可視化し、フォローできる風土まで作ることがゴールなので、是非当社でも活かしていきたい。今後も、こうした戦略人事や能力開発の方法について、取り上げて頂きたい 登壇者両氏とも、非常に具体的な説明をして頂き、たいへん参考になった。制度変更の際、人事が徹底的に動かれている様子に、ご苦労も多かったと思うが、だからこその成果だと感じた 両社の施策推進・理念の社内浸透など、大変参考になった 両社の制度、工夫、ご苦労等知ることができ、大変参考になった 登壇者の両氏とも、非常に丁寧にわかりやすく自社事例のご説明を頂き、大変参考になった。「事業成長の源泉は、やはり個々の従業員」という、あたりまえのことを、今更ながら痛感させられる思いだった ポジション開発が、当社としても課題と考えている。今回はそういった意味でも、非常に参考になった 良品計画のパーパスに感銘した 良品計画の「訳あって安い」というコンセプトや、アンチテーゼという観点が、よく理解できた ジャパネット田中氏のプレゼンが非常に聞きやすく、腑に落ちた。当社も同様に様々な部分で内製化を図っており、またBリーグ・Jリーグ保有の部分についても、非常に多くの共通点を感じた。傍から見ても、2代目社長は比較され、重圧も大きい中で、しっかりと実績を構築されている背景には、自らの強い信念で泥臭くも会社を改善し続ける気概がありという部分を、田中様のお話から強く実感した ジャパネット社の施策の背景を知ってもらう仕組み、ぶれずにやるべき良きことを実践するという、TOPの強い信念に基づく行動がやはり必要だと感じ、大変参考になった ジャパネットホールディングスが働き方改革を「長く働くことで成果を出すことは正解じゃない」という信念を持って、パワフルに進めている点が、とても印象に残った -
登壇者の感想は・・・
株式会社良品計画 人事総務部長 宝地戸 健太 氏
「組織人事戦略は、事業戦略実現をサポートするものだと強く認識しています。私たちはまだ、その歩みを始めたばかりで、具現化できていることは決して多くないのですが、今日のお話が、ご参加の皆様にとって何らかの参考になったのであれば幸いと思います」株式会社ジャパネットホールディングス 労務戦略部 田中 久美 氏
「今回は貴重な機会を頂き、ありがとうございました。駆け足でのご説明となりましたが、皆様から頂戴した具体的なご質問を伺い、同じ人事として各社の課題に向き合われているお姿が見えた思いでした。弊社の事例が、少しでも皆様のお役に立てたなら幸いです」