変革人材の発掘と育成
〜VUCA時代最強のリスキリング戦略〜
株式会社アルファドライブ 取締役 コーポレートトランスフォーメーション事業部 事業部長
株式会社ニューズピックス NewsPicks Enterprise 事業責任者 平尾 譲二 氏
VUCA時代と言われる現在は、企業の競争環境が激しく変化し、従来の延長戦では生き残りが難しくなっています。先の見えない未来に目を向け、社内の人材を導き、売上を創出する人的資本を構築するという仕事は、正解のないテーマです。
今回の人事戦略フォーラムは、(株)アルファドライブの平尾譲二氏によるレクチャーを軸に、小グループに分かれての議論も挟みながら、「変革人材の発掘と育成」について掘り下げました。
■PART1: 隠れ変革人材の育て方
先の見えない現在の事業環境では、正しい事業戦略があれば勝てるというわけではなく、人材が整っていなければ戦い続けることができません。ビッグワードとなっている「トランスフォーメーション」を、平尾氏は『飛び移ること』と定義。今までのやり方に固執せず、ルールや国を飛び移ることが今後は増える一方、新事業を育て、未来を作り、企業として生き残り、勝ち続けるための手段としてトランスフォーメーションが重要だと説きます。
一般的に、変革を牽引してほしい次世代リーダーを選抜する場合、コミットメントや効率が高く、分析思考を持ち、変なことをしない“優秀人材”を選びがちです。しかし、事業開発という名の山登りでは、仮説が崩れたり、途中で進む道を変えたりする局面が多々あります。そんなとき優秀人材は状況を瞬時に整理して、登ることを諦めるスピードが早いのです。諦めず登り続けるのは、一見仕事ができなそうで、自分軸で勝手に動き、未来志向で失敗に対しても素直な姿勢を見せる“変革人材”なのです。こうした人は社内で「何だか変な人」「残念な人」と見られがちなので、見極めと発掘が大切です。
社内で変革人材を見つけるためには、新規事業の起案や経営への提言などの社内公募が有効です。柔らかいものから堅いものまで、さまざまなレベル感で実施すると、人事部門も事業部も知らなかったような能力を持つ人材が発掘できることがあります。
こうした人材はまさに「隠れ変人」なので、何もしなければ埋もれたままで、少しずつ成長するだけに留まってしまいます。このため、資質を発揮できるような瞬間を迎えられるよう、覚醒させることが大切です。アカデミア型の研修やリスキリングプログラムなどで、内発的動機を高めるとともに、勇気付けや課題整理、そして正しい行動を促すための伴走者=メンターをつけることもポイントです。
変革人材が覚醒したら、プロジェクトにアサインしたり、異動させたり、挑戦の機会を与え続けることで、より多くのスキルを身に付けてもらえるようにします。それによって、挑戦する文化が周囲に伝わる波及効果も期待できます。変人が活躍できる企業文化を築くことで、他社から恐れられ、結果的に競争を勝ち抜く力を生み出すことができるのです。
■PART2: 小グループでの情報交換
レクチャーに続く30分間は、参加者が小グループに分かれ情報交換を行いました。変革人材の選抜の困難さや新規事業立ち上げにあたってのさまざまな課題、人事部門と他部署のつながりの重要性などについて、活発に意見が交わされました。
■PART3: 事業創出型人事の仕事とは?
再び登壇した平尾氏は、新規事業開発などの不確実性の高い未来へのチャレンジを一つの専門部署に丸投げしている企業が多いと指摘。場づくり・人づくりなどは人事部門がプロであり、事業創出型人事の出番であると提案しました。
人事が主管するとオフィシャル感を出しやすく、社内での承認のハードルも下がりやすくなると言います。まずは人事部門主管でセミナーや勉強会、ミートアップ、動画学習会、アカウント配布など、手を挙げるさまざまな機会を創出してみます。参加することをポジティブに認め、明確に業務として扱い、エントリーシートなども審査を目的とせず、関心や気づき、興味のあることを書いてもらって、人材を可視化します。そして次のステップとして、仮説検証やピボットの方法など、山を登るためのルールをインストールします。なるべく広く、楽しい雰囲気で実施することで、変革の風に当たる人を増やすとともに、参加ハードルを下げることで脱落を防ぐことができます。
覚醒変革人材になるための最初のWillは、種火のようなものです。吹けばすぐに消えてしまうくらいの弱い火で、「それ儲かるの?」という魔法のキーワードひと言で完璧に消火してしまいます。一度火が消えてしまうと、その人の中で「新しいことに挑戦したのに損をした、時間の無駄だった」と膠着化するだけでなく、周囲にも悪影響が及び、覆すのが難しくなります。Willの火を初期に消さないためにも、伴走者が良いところを見つけて正しい行動を伝えることが重要です。
その後は(表面的には)拘束することなく、自由に“泳がせて”様子を見ます。適宜「最近どう?」「ネクストアクションはなんだっけ?」などと声をかけながら、ポジティブな空気を保ち、動いたらいいことがあると感じてもらえるように心がけます。
平尾氏は、「社内に変革人材は必ずいる」と断言します。「構造を変革する手綱を握るのは人事部門であり、一歩を踏み出すことが大切だ」と説き、フォーラムを締めくくりました。
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参加者の意見・感想は・・・
変革人材の発掘と育成について、当社の取り組みは遅れていると感じた。その意味では刺激を受ける、とても貴重な機会となった 特にマーケティング・プロモーション・SDGsなどの視点から、イノベーションを起こしていく点で参考になった 実践していくまでには難しい部分もあるが、人材の考え方が整理でき、かなり有意義な時間だった “共感を創る”ことは変革人材だけでなく、新入社員や異動者にも当てはまると感じたので、ぜひ部署内で実践していきたい 優秀な人材のペルソナと変革を起こす人材のペルソナが違うという話は、何となくイメージと合ったが、実際にサーベイ等で調査された結果があれば教えて頂きたい。弊社にも“変人”はいるが埋もれており、評価も低いような気がする。変革を起こす人が持っている特徴、特に資質などがプロファイルされているようであれば、弊社内でも傾向値分析ができるかもしれない 興味深いお話で、参考になった。たしかに当社も、会社幹部層は、優秀人材に新規事業なども考えさせようとして、変革人材は別だということを理解している気配がないので、幹部層にそのあたりを理解してもらうための方策が知りたい -
登壇者の感想は・・・
株式会社アルファドライブ 平尾 譲二 氏
「変革人材を発掘・育成して活躍させる重要性は、日に日に高まるばかりです。セミナー中に実施したグループごとの情報交換も、とても活発な議論がされ、変革人材の重要性を頭では理解しているが、具体的な設計や、社内の説得が難しい、と言った声も多く聞こえてきました。今後も引き続き、変革人材の発掘と育成に関する仕組みづくりを行い、ご支援の輪を拡げて参りたいと思います」