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セミナーレポート

オンライン公開講座

ミドル・シニアのキャリア自律を考える

神戸松蔭女子学院大学 人間科学部教授 楠木 新 氏
株式会社パソナJOB HUB 代表取締役社長 髙木 元義
キャプラン株式会社 代表取締役社長 石田 正則
株式会社パソナ キャリア支援事業本部
セーフプレースメント事業部 シニアコンサルタント 山下 弘晃
株式会社パソナマスターズ 代表取締役社長 中田 光佐子

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日本CHO協会では「ミドル・シニアのキャリア自律」を、来る2022年の年間重点テーマとして展開します。今回はそのプレ・プログラムとして、長年にわたり本テーマを探求してきた神戸松蔭女子学院大学の楠木新教授の基調講演と、日頃よりミドル・シニアの支援事業・サービスに関わるパソナグループの代表者4名が楠木教授を囲むトークセッションを行いました。

■トークセッション 『ミドル・シニアのキャリア自律を考える』
楠木教授からはまず、ベストセラーとなった著書『定年後』の紹介から、就職・転勤、休職・復職、さらに仕事をしながら始めた転身者へのインタビューと、それをきっかけとする新聞連載についてなど、ご自身の経験をもとに、ミドル・シニアのキャリアについて考えることの重要性をお話し頂きました。
会社に適応していても、実は「働く意味」に悩んでいる人は多く、彼らの悩みは概ね「今やっていることが、誰の役に立つのか分からない」「成長している実感が得られない」「このまま時間が流れていっていいのか」の3つに集約できます。45歳以上になると、そのような悩みを抱え出す傾向があり、楠木教授はそれを「こころの定年」状態と表現しました。日本の一般的な企業では、長期雇用の中で年次が上がっても同様な組織土壌、組織文化の中で働くことになるので、どうしても「飽きる」「マンネリになる」「人間関係のトウが立つ」ことになります。このため中高年以降に働く意味に悩む「こころの定年」状態に陥る人が少なくありません。それは寿命が長くなったことを誰もが感じるに至ったこととも関係しています。だからこそ、50歳以降は会社で働きながら「もうひとつの顔/もうひとりの自分」を探し育てることを、楠木教授は推奨します。「もうひとりの自分」を通して社会とつながることが、残りの会社員生活を充実させるとともに、定年後のいきいきとした暮らしも実現するからです。
日本企業には長く「副業禁止」の規則がありましたが、働き方改革やコロナ禍などを背景に、副業を許可する企業が増えています。会社で働き続ける自分と、別の形で社会とつながる「もうひとりの自分」という2つを顔を持つことで、視野が拡がり、これまで気付かなかった会社の良い面・悪い面を理解できるようになるなど、会社にとってもメリットがあるという認識も広まっています。今後は従業員のキャリア形成についても、これまでの一括運用ではなく、個別人事運用の時代に変わっていくのではないでしょうか。

■トークセッション 『ミドル・シニアのキャリア自律を考える』

基調講演を受け、トークセッションでは、まずモデレータを務めるパソナマスターズの中田光佐子から、参加者の皆様に「もうひとりの自分、もうひとつの顔を持っていますか?」という質問が投げかけられました。集計の結果は「はい」が36%、「いいえ」が64%となりました。「もうひとりの自分」を探す第一歩として、楠木教授は「自分の中から抜き出す」のが良いのではとアドバイスされました。幼い頃に好きだったものを思い出し、もう一度やってみる、会社員として悩んだことを克服する取り組みを行うなど、これまでにやり残したことに挑戦してみるのが良く、特に重要なのは、金儲けや人からの評価を目的とするのではなく、自分に合ったものに取り組むことだとお話されました。

キャプランの石田正則は、自分自身が「もうひとりの自分」を探し育てた方法として、50歳前後でキャリアカウンセラーに相談したほか、(大谷選手で有名になった)「マンダラチャート」を活用したと説明。これに対し、パソナの山下弘晃はキャリア開発支援に携わる立場から、悩みにとことん向き合ってくれるキャリアカウンセラーに相談するのは良い方法だと補足しました。

一方、個人事業主と多く接するパソナJOB HUBの髙木元義は、自身の経験や知識を会社以外の場で活用する機会があると、意外な場面で役立てられることがあり、その積み重ねでプロフェッショナルの道に進む人もいると話しました。また、副業を認める企業も増えていることから、いきなり起業・独立するのではなく、今自分にできることで副業をしてみるのも良い方法であると提案。石田と山下は、社内・グループ内で別部署やグループ会社のサポートをする取り組みから始めるのも良いと補足しました。

これに対し楠木教授は、社内では「もうひとりの自分」に気付きにくく、会社の枠組みの中での取り組みには限界もあることを指摘。しかしながら、そもそも業務が多忙すぎる状況では新しいことに挑戦できないという現実もあることから、山下は「まず環境を整えることが第一歩」だと語りました。社内で少人数のグループで始めてみるのならば、就業時間後や休日を使うのも容易。さらに続けてやっていきたいとなったら、社外に出るなど、ステップを刻むと挑戦しやすくなると解説しました。また社外での活動ならば、ボランティアやNPOの活動に協力することを石田が推奨するとともに、山下からはボランティア以外にも、村おこし・町おこしなど地方自治体が行っている活動への協力は、企業の人事部にも認めてもらいやすいとアドバイスしました。

◎公開講座を終えて

  • 公開講座の内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    1人で生きていくことは出来ないので、定年後も、会社・地域コミュニティ・NPO等多様な形態で社会参画するためにも、社会とのつながりが必要となること、身近なところから社会活動の領域を拡げていく必要があること、きっかけはそれぞれだが、会社以外の友人や知り合いとの接点からでも、拡がりを持つことができること等の、示唆に富んだ内容で、とても参考になった 「もうひとつの顔の自分を持つ」大切さを学んだ。また、人が一歩踏み出すための仕組み作りや障壁を、どう減らすか均すかといった観点からも、非常に勉強になった。社内の方とのコミュニケーションをはじめとして、社外の方との接点・コミュニティを継続して取り入れることを意識しようと再認識した 自身のキャリアについての考えを深める手段として、キャリアカウンセラーを活用するという、石田氏のお話が印象に残った。キャリア研修では、講師一人対十数名の受講生という形で、各自がなかなか気付きに至らないイメージを抱いていたが、1対1での対話が、キャリア自律を意識させる有効な方法の一つとなる可能性を感じた 定年退職後の再雇用希望者が増加傾向にある中で、社内だけでは中長期的な対応が難しくなることを想定すると、もう一つの本業/もうひとつの顔を早めに各自が意識することは大切だと思った 仕事の延長線上で考えるより、自分に向き合い、自分の中でのもう一つの顔にフォーカスすることには、すごく納得感があった 会社から一歩外に出る勇気、もう一つの顔を持つというワードが、非常に新鮮だった ミドル・シニア世代が一歩踏み出すためのヒントを沢山頂いた。自分の中にある興味・関心を呼び起こし、スモールステップで段差を無くしながら行動してみることが、ワークにも還元されるイメージが、登壇者の方々の楽しそうな会話から伝わってきた。ミドル・シニア世代には介護の問題を抱えている方も多いと思うが、弊社でもこの領域の課題解決にも更に注力していきたい 「とりあえずやってみる」「やめることはいつでもできる」という言葉に、勇気をもらえた。今、切実にそういう状況にあるだけに、心に染みた キャリア自律を促す場面において、先ず「動くこと」の重要性を再確認できた。雇用されている立場であると、社外だからこそ得られる体験の重要性は理解しながらも、そのハードルの高さについての認識がいろいろある点も理解できた キャリア自律は、当社にとっても大変重要なテーマである。ミドルやシニアに限らず、若手社員に対しても早い段階からの意識付けは、結果的に会社の魅力付けにつながると思う 現場での実体験からのお話で、たいへん感銘を受けた一方、理論的な考えとの整合があれば、さらに活用の範囲が拡がるような気がした 50才以降のキャリアの作り方について「問題意識は持っているが、一歩踏み出すために、どう動いていいか分からない人」への対処について実例を含めたお話があり、大変参考になった。一方で「全く悩んでいない人」「考えたことがない人(でも、会社としては考えてほしい人)」へのアプローチのお話があまりなかったので、次回はそうしたお話を聞きたい 「もうひとつの顔」、自身が持ちたい別の顔がどのようなものなのか、先ずは興味のあることから棚卸してみたいと思った。また、頭で考えるだけではなく、体験や体感できる環境に身を置く事も必要だということが、楠木先生の話からもよく理解できた。本日のテーマをさらに掘り下げていくような機会をまた作ってほしい
  • 登壇者の感想は・・・

    神戸松蔭女子学院大学 楠木 新 氏

    神戸松蔭女子学院大学 楠木 新 氏

    「セミナー参加者の皆様に冒頭実施したクイックアンケートで、自らのキャリア自律について関心のある人が9割近かったことに、少し驚きました。人事担当としての役割発揮と自身のキャリアは繋がっているので、それも当然かもしれません。「もう一つの顔を持つ」と講演で話しましたが、働き方は本来多様なものなのですから、議論のたたき台にしてもらえれば良いと考えています」
    株式会社パソナJOB HUB 髙木 元義

    株式会社パソナJOB HUB 髙木 元義

    「「企業依存社会」から「個人自立社会」へ。誰もがイキイキと働ける環境とは何か、真の豊かな生き方・働き方とは何か、人生100年時代、一人ひとりに問われています。第2、第3のステージに向けて、ミドル・シニアの皆さまに寄り添い、一歩を踏み出す使命・役割を改めて感じるとともに、更に議論を進めていきたいテーマですね」
    キャプラン株式会社 石田 正則

    キャプラン株式会社 石田 正則

    「自分の生き方、望む人生を、30代、40代、50代と出来る限り自分の言葉で考えプランできるよう、会社がサポートし応援することはできますし、ボランティア団体等の外の機関を支援することも、外からの刺激と期待を得られ、人生への自信やキャリアを主体的に考えることにつながると思います」
    株式会社パソナ 山下 弘晃

    株式会社パソナ 山下 弘晃

    「以前はエレクトロニクス業界のデジタル化、最近は自動車業界のEV化等、大きな環境変化が起こってきましたが、キャリア自律も「やや抽象的な人事テーマ」から「結果が求められる具体的な施策」となり、日本の特性に合った形での実行が期待されていると強く感じます。2022年の本活動を通じ、この議論をさらに深めていきたいと思います」
    株式会社パソナマスターズ 中田 光佐子

    株式会社パソナマスターズ 中田 光佐子

    「いつもの毎日から、少しだけ違う選択をして、少し違う経験をしてみる、そんなちょっとした事から新たな自分に出会い、これからの人生の糧となる強みや価値観が見えてくると、改めて感じた時間でした。また、そんな気付きが得られる多様な機会を提供していく事が、私たちの役割と考えています。真の豊かな生き方・働き方とは?それぞれの答えが見えてくるサポートをしてまいります」