ホームセミナーセミナーレポート人事戦略フォーラム 2021年11月25日

セミナーレポート

人事戦略フォーラム

国際標準ISO30414による
人的資本価値の指標化と人材情報開示の義務化から
これからの人事のあり方を考える!

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 研究員(兼)人的資本経営ワーキンググループ リーダー 小澤 ひろこ 氏
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 副代表理事 加藤 茂博 氏

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「人的資本経営とこれからの人事戦略」について考える2ヵ月連続企画として、10月のテーマ「コーポレートガバナンス・コードの改訂」に続き、今回のフォーラムでは、近い将来に人的マネジメントのグローバルスタンダードになると注目されている国際標準ガイドライン「ISO30414」と、人的資本の指標化や情報開示の動きを取り上げました。

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の小澤ひろこ氏の講演と、講演内容を踏まえたアンケートの実施、アンケート結果を受けた加藤茂博氏と小澤氏のトークを通じ、人的資本や情報開示に関して多角的に掘り下げる勉強会となりました。

小澤氏の講演では、まず人的資本情報開示が義務化されるようになった背景が解説されました。VUCA(不安定・不確実性・複雑性・曖昧さが高く、先行きの見通しが困難な状態)な時代においては、イノベーションを通じた非連続な成長が不可欠であり、その実現のためにダイバーシティ&インクルージョンが重視されるようになりました。かつては生産性・企業価値向上には設備投資が重要でしたが、これからは価値を生み出す源泉として、人的資本への投資が求められます。

また、世界経済フォーラムや米ブラックロック等は、企業に対して利益創出だけでなく、社会課題の解決やステークホルダーとの対話を重視するよう要求し始めており、日本版コーポレートガバナンス・コードの改訂も、こうした背景に影響を受けています。投資家の62%が人的投資を重視する一方で、企業側では37%にとどまるという調査もあり、人的資本の重要性に対する認識のギャップが見て取れます。こうしたギャップを埋めるためにも、人的資本に関する情報開示が求められており、特にイノベーションの源泉となるダイバーシティ&インクルージョンへの注目が増しています。また、日本ではジェンダーダイバーシティの動きが活発化していますが、他にもキャリアやエスニック、LGBT、ジェネレーションや価値観の多様化などにも、目を向ける必要があります。
コロナ感染の社会・経済への影響を含め、将来予測が難しい状況の中では、長期目標や戦略を立て、それを常に見直しながら経営を進めていく必要があります。そして、その戦略を実行する人材をどのように確保し、どう働き続けてもらうかが重要です。企業がそれらの姿勢や考え方、企業風土を開示していくことは、投資家の納得感にも繋がります。

人的資本に関する情報開示の要請は、2013年に国際統合報告評議会(IIRC)が「国際統合報告フレームワーク」の中で、人的資本を含む6つの資本を企業価値を生み出す要素として提示したことを皮切りに加速しています。他にもSASBスタンダードやGRIスタンダード等でも、人的資本に関連する情報の開示が求められています。

2019年1月には、人的資本に関する情報開示のガイドライン「ISO30414:ヒューマンリソースマネジメント~内部及び外部人的資本報告の指針」が公表されました。人事の担当者は、まずISOを参考書と捉え、指標化された項目に目を通し、開示できそうな項目・開示すべき項目のチェックシートとして活用するのが望ましいと考えます。項目を数多く網羅することを目的化せず、自社の事業特性や戦略と関係が深い重要な項目を導き出し、開示することが重要です。

人的資本の開示に対しては、機関投資家もまだ検討段階であり、評価する側の視点も定まっていません。一方、企業が人事・人材に関する自分たちの考え方をしっかりとステークホルダーに伝え、啓発に繋げることも重要です。企業の積極的な情報開示によって、人的資本経営の評価と開示、両方の質を上げていくことが望ましいと最後に締めくくりました。

尚、本フォーラムの中で、当日の参加者の皆様にご協力頂き、その場で共有した「クイックアンケート」の結果は、 こちらからご覧ください。

◎フォーラムを終えて

  • フォーラムの内容は参考になりましたか
    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    人事は定量的な目標設定が難しいとされてきたが、財務とつながる人的資本の本指標が、人事の目指すべき指標になることを期待している。弊社では、この指標をもとに、人事の戦略を作り上げていく予定である。 投資家の視点からISO30414に関する解説をして頂き、経営層との対話にあたっての、とても貴重な情報となった 人事戦略をいかに経営と結び付けるかが課題と思ってきた。経営に資する貢献が出来るよう、人事の仕事のやり方や施策を見直したいと決意するに至る、たいへん重要なお話だった 教科書的な話にとどまらず、現状の他企業の実態や、小澤・加藤両氏の肌感覚的なご意見も伺え、まさに「生きた情報」収集が出来た セミナー中のクイックアンケートにより、フォーラムに参加している他社の状況が把握でき、とても参考になった 初めてISO30414に関するセミナーを受講した。今後もISO30414の主要な項目に関する情報のセミナーがあると嬉しい 人的資本の概念がよく理解できた。今後もISO30413の動向について逐次、セミナーを行ってほしい 海外のISOの状況やISO以外の人的資本基準の策定に関する動きがあれば、継続的に勉強したい 日本企業が今後ISO30414へ取り組んでいくにあたり、着手方法の参考になるようであれば、何か体系的な指標の提示やサンプル等の商品・サービスが今後出てくるのか、システム対応が出来るのか、また既に取り組んでいる海外事例などを、引き続き取り上げてほしい
  • 登壇者の感想は・・・

    ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 小澤 ひろこ 氏

    ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 小澤 ひろこ 氏

    「人的資本経営と報告には、リーダーシップや倫理・コンプライアンスといった伝統的な人事の業務を超えたテーマが含まれおり、関連部署との連携を前提とした体制整備が重要になります。セミナー中に行った調査によると、現時点では、知識や体制が不十分という状況である企業が多いことがわかりました。引き続き、事例を含めた情報発信をしていきたいと思います」
    ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 加藤 茂博 氏

    ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 加藤 茂博 氏

    「今CHOの役割が変わろうとしています。人事と財務の境界領域に、人的資本に関する経営情報開示が誕生。今後の非連続な変化によって、株主総会での質疑への対応や、取締役会で事業戦略と人事戦略の一貫性の審議が求められるCHOもいるでしょう。セミナー中のアンケートで、多くのCHOはまだ準備不足だが、人事の専門家の視点から貢献したいと考えていらっしゃる事が、ひしひしと伝わってきました」