経営のDX推進を人事視点で支えるためのDX人材の確保・育成
~企業におけるDX人材確保・育成の実態と課題、そして課題解決のポイント~
PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター 田中 大介 氏
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー 宮村 和谷 氏
日本CHO協会では、企業規模や業種を問わず、現在どの企業でも戦略的な重要課題となっている「デジタルトランスフォーメンション(以下DX)」を考えるシリーズプログラムを、PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)と共催企画し、本年4月には会員企業へのアンケートを、5月には人事責任者の方への「DX推進にあたっての人事課題と今後の展望」についての個別ヒアリングを実施し、そこから得た本質的な課題と解決に向けたポイントを、PwCあらたの田中大介氏と宮村和谷氏からお話し頂きました。以下は両氏の講演の要旨です。
■DX人材の確保・育成の重要性
経済産業省が実施した「企業のDX推進調査結果」を見ると、DXの成果を出している企業には、以下の2つの特徴が読み取れる。
【1】DX推進に向けた全社方針・戦略に基づいた「全社的な取り組み」を行なっている
【2】経営層、事業・IT・人事部門等の関係者間での対話が促進され、「DXのビジョンや戦略、課題等の共通認識」が出来ている
とはいえ、DX推進指標の自己評価結果からは、「DXは部門横断的、且つ持続的に実施している」と回答した企業はわずか5%に留まり、「未着手~一部門での実施」が95%という現状が読み取れる。DXとは単にITシステムやデジタル技術を導入・活用することではない。一般的なDXの定義を踏まえつつも、各社が自社独自の「DXの定義」を定め、各部署と課題認識を共有することがまず重要である。
以下に、経済産業省の「DX推進指標とそのガイダンス」に記載されている「DXの定義」をまず共有したい。
『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確保すること』
そうした中、人事部門に対してはDX推進の鍵となる「組織や企業文化の変革」「全社的な取り組み」「関係者間での対話促進」を推進する『DX人材の確保と育成』に、より一層の期待が寄せられている。そして、①構想力やリーダーシップを持った人材 と ②変革や新しい価値の構想をITシステムに落とし込む技術者との「融合」が鍵となる。
■人事部門が抱える悩みや課題と、取り組み事例
日本CHO協会の会員企業の人事部門幹部の皆様に実施した個別インタビューでは、人材確保・育成の前提となる「人材の配置や定着」に関して、以下のような課題認識が共通項となっていた。
【人事部門の悩みと課題認識】
・DX人材の要件があいまいで、採用ミスマッチが懸念される。
・DX人材に、中長期的な活躍機会を提供できるか。
・採用するDX人材に過度に頼り、任せがちとなっており、既存の社内人材との融合や育成への意識が低い。
上記のような悩み・問題意識が寄せられた「人材の配置や定着」の背景には、人事部門と経営層や事業部門、IT部門の連携の弱さがある。連携が進むよう、継続的な対話を促すことが、DX推進にあたっての人事部門の役割として強く求められている。
また、インタビューからは人事部門によるDX人材確保・育成推進の取り組みには、全社のDX推進状況やDX推進専任部署の有無(人事部門のDX推進上の役割)などにより、以下に示す「3つのステージ」があると確認できた。
【取り組みステージ】
ステージ1: 他部門からの要請への個別対応(=受身型)
ステージ2: 部分的な他部門との連携
ステージ3: 全社DX推進の旗振り役
■今後の取り組みにあたって
取り組みのステップとしては、経済産業省「DX推進指標」にならい、DX人材の育成・確保実現に向けた当社作成の「課題チェックリスト」を活用したらどうだろうか。
《課題チェックのポイント例》
①全社DX推進方針・計画、ガバナンス
・トップと各部門が、DXに関して継続的に対話できる場が整備されているか?
②DX人材確保・育成方針
・「技術」と「事業・業務」に精通した人材をバランスよく確保・育成し、融合する仕組みは整備されているか?
③DX人材要件
・DX人材要件を定めるためのDX課題や技術、人材市場の理解、学習の機会が提供されているか?
④DX人材のリソース計画
⑤DX人材確保プロセス(募集・選考・訴求)
⑥DX人材管理プロセス(配置・育成・評価)
・中長期的な活躍機会やキャリアプランを提供できているか?
・DX人材と対話する場があるか?
こうした課題チェックリストも活用しながら、DX人材の育成・確保に向けた自社の課題の自己診断・仮説の構築、経営層や関係部署への課題認識の共有やディスカッション、他部門との連携を通した取り組みの推進など、人事部門としては、課題を明確化し、関係各所との対話を粘り強く推進していくが重要だと考える。
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参加者の意見・感想は・・・
DXを進める上では何よりも、組織内での適切な役割分担と、組織間での対話が重要であるということが、印象に残った あたりまえのことだが、DXが極めて大きな変革なのだという思いがより一層強くなった DX推進には、トップとのグリップと強力なリーダーシップが必要だと理解した 今回の講座は、とても有意義だった。但し、DXと業務改革との関係や、DX人材とは(単なるシステム担当ではないのは判るが)どのようなポジションなのかが、未だにしっくり腹落ちせず、他社主催のセミナーを聞いても同じだった。これは、経営者だけでなく、業務担当者レベルまで全てが感じている疑問や悩みではないか。そして、その事が、今まで経営者がシステムにコストをかけてこなかった原因ではないかとも、個人的には考えている DX関連のテーマは、今後も様々な切り口から取り上げてほしい 成功している、あるいは、取り組みが進んでいる5%の企業の具体的な取り組み事例を知りたい 次は、もう少し具体的に掘り下げた詳細な先進事例を伺えればありがたい 外部人材の獲得が難しい場合に、社内人材をどうやって育成するのかの成功事例等を、今後聴いてみたい -
登壇者の感想は・・・
PwCあらた 田中 大介 氏
「全社横断的・継続的な取り組み、部門間連携など、DX人材の確保・育成を進めていくことは“ハードルが高いな”とお感じになった方々もいらっしゃるかもしれません。しかし、着実に歩みを進めていくことこそが、変革には何より重要です。今回共有させて頂いた観点や各社の取り組み事例が、皆様のDX推進の第一歩に繋がれば幸いです」PwCあらた 宮村 和谷 氏
「多くの本邦企業のDXはまだまだ始まったばかりです。DXはJourneyと言われるように、長い道のりです。焦らず足元から、或いはやりやすいところから着実に取り組んでいくことが肝要です。自らの企業グループ内の強みを活かし、デジタル技術を用いた変革に、積極的にチャレンジする人財を発掘・育成・支援していきましょう」