“自律型人材”が求められる時代の人材開発/人材育成を考える
コーン・フェリー・ジャパン株式会社 共同代表 滝波 純一 氏
株式会社日本能率協会マネジメントセンター 代表取締役社長 張 士洛 氏
株式会社ヒューマンバリュー 代表取締役社長 兼清 俊光 氏
株式会社人財ラボ 代表取締役社長 下山 博志 氏
キャプラン株式会社 代表取締役社長 石田 正則
今年一年間をかけてシリーズ展開する「“自律型人材”が求められる時代の人材開発/人材育成」のキックオフプログラムとして、数多くの企業を支援されている人事/人材開発コンサルティング業界のトップの皆様をゲストにお招きし、今後の人材開発/人材育成のあり方について、様々な切り口からのメッセージを頂くシンポジウムを開催しました。
以下は、プログラムの前半でお話し頂いた4名の登壇者からのメッセージの要旨です。
■社員の自律的育成にむけた3つのポイントと先進事例
コーン・フェリー・ジャパン 滝波 純一 氏
コーン・フェリーでは、全世界15万人のアセスメント結果と795人の投資家から収集したインプットを分析・抽出し、将来に耐性のあるリーダーの要件を「セルフ・ディスラプティブ・リーダー(SDL)」と定義し、そのリーダーに必要な 5つの要素「ADAPTモデル」を以下としました。
A=先見性: 不透明な状況下であっても、方向性を示す
D=活性化: パーパスを育み、人々を活気づけ、前向きな環境を育む
A=スピード: 知識・情報の流れを、アジャイルプロセスなどを駆使し、マネジメントする
P=パートナーシップ: 能力を相互に補完し合い、パフィーマンスを実現する
T=信頼: パーパスを明らかにする手助けをし、最大限に貢献を促す
当社では、“自律型人材”の開発・育成に向けて必要なアプローチ・仕組みとして、
「自律的に社員が能力開発を進められるラーニングプラットフォームの提供」
「ジョブ型人材マネジメントの仕組み検討」
という2点を重要視しています。そして、“自律型人材”を惹きつけリテインするために考えなければならないこととして、自社の存在意義(purpose)の発信がより重要な要素であると考えています。
■事業を変革する“自律型人材”の創出 ~越境学習による学びのリ・フレーミング~
日本能率協会マネジメントセンター 張 士洛 氏
一般的に、“自律型人材”には「自分を律して主体的に判断行動できる」「企業の価値観(理念・方針)を理解して自ら判断・行動できる」など、多様な期待イメージを持たれていますが、当社では、今、必要とされる“自律型人材”を以下のように定義しています。
・自ら答えを見つけ出し、事業を変革するのが、“自律型人材”=イノベーション人材である
・イノベーション人材を1人でも多く創出することは、まさに経営課題である
“自律型人材”の必要性を感じている会社は多いのですが、そうした人材が少ないのが実態です。経営課題の解決には、イノベーション人材が育つ環境を整えることが不可欠です。それには従来の学び方から脱却した「学びのリ・フレーミング」によって、人材育成の限界を超えていくことが必要であり、以下に示すような環境を整える必要があります。
◆越境学習: 固定観念や暗黙の前提から脱し、自ら問いを立てる力を養う環境づくり
◆対話力: 相互の深い理解と、新たなアイディアを創発するコミュニケーション力
◆インフォーマル・リーダーシップ: メンバー自身の新たな取り組みや、他者との連携を推進し課題を解決するリーダーシップへの転換
■“自律型人材”への転換がなぜ不可欠なのか?それを妨げているものは何か?
そして実現していく取り組みのレバレッジは何か?
ヒューマンバリュー 兼清 俊光 氏
“自律型人材”への転換がなぜ不可欠か?それは社会やビジネスを取り巻く環境がVUCA Worldから、より破壊的な既存の価値基準を打ち抜くDisruptive Worldへと突入し、今までにも増して未来が予想できなくなったからです。ゆえに企業は、主体性・創造性・情熱に溢れる組織に変わることが急務であり、そのためには、前を見通す「Forecasting」から、将来のありたい姿をまず最初に考え、今出来るアクションを見つけ出す「Backcasting」への発想の転換が必要です。当社が考える「個人のあり方」と「組織のあり方」の次元の変化を以下に示します。
【組織のあり方・求める働き方】 服従・共同から、協働・共創へ
【個人の在り方・働く意味・動機】 外発的動機から、内発的動機へ
【パフォーマンス・成果・結果】 心身の健康へ、そして多幸感・社会価値の創造へ
以上の点を踏まえると、カンパニーセンタードからピープルセンタードへのフィロソフィの変革が、求められています。それには、スマートに見られたいと考える結果、停滞し潜在能力を充分に発揮できなくなるようなFixed mindsetから、成長したい!を起点として行動し、高いレベルに到達するGrowth Mindsetへの変容が必要なのです。その上で「成功循環モデル」に示す、関係性の質~思考の質~行動の質の向上を実現していくことが大切です。
■4人の社長が認めた“自律型人材” 〜組織の成長ステージ毎に求める人材像〜
人財ラボ 下山 博志 氏
“自律型人材”として定義される人材は各社各様で幅広く、企業規模や置かれた環境、成長ステージによって求められるポイントが違いアプローチも異なります。そのモデルとして「総合的人材開発戦略」を以下のように定義しました。
◆組織的アプローチ: 組織力の強化を通じて、個人と組織を成長させる4つのアプローチ
①組織開発施策 ②後継者育成施策 ③定着管理施策 ④配置登用施策
◆個別的アプローチ: 個人の成長支援を通じて、組織力を強化する4つのアプローチ
①キャリア開発施策 ②成果管理施策 ③人材教育施策 ④採用発掘施策
当社が支援したシチュエーションの違う4社の社長の実例を踏まえ、組織の成長ステージ毎に求める人材像を解説しますので、求める“自律型人材”を理解する一助として頂ければ幸いです。
◆求める“自律型人材”像A社の場合: 自らが中心となり、状況に応じて行動するリーダーシップ
そのために必要な施策: 定着管理施策・採用発掘施策・成果管理施策
◆求める“自律型人材”像B社の場合: 言われなくても、自から進んで行う積極性
そのために必要な施策: 組織開発施策・配置登用施策・成果管理施策
◆求める“自律型人材”像C社の場合: 他者に頼らず、自ら自立する行動・独立心
そのために必要な施策: 後継者育成施策・キャリア開発施策・採用開発施策
◆求める“自律型人材”像D社の場合: 自ら律して意思決定できる、高いモラル観と道徳観
そのために必要な施策: 組織開発施策・成果管理施策・人材育成施策
後半のトークセッションはキャプラン(株)代表取締役である石田正則の進行により、前半の4氏それぞれからのメッセージを受けた、これからの自律型人材や人材育成のあり方について、様々な角度から本質的な意見交換が行われました。参加者からの意見や質問への回答も交えながら、印象深いキーワードが次々と発信され、参加企業が今後の人材開発・人材育成を考える上でのヒント満載の場となりました。
◎シンポジウムを終えて
-
シンポジウムの内容は参考になりましたか
(参加者アンケート結果から) -
シンポジウムで印象に残った言葉/キーワードは・・・
(回答が多かった順に以下、列記します)“自律型人材”(とその定義) 越境(学習) カンパニーセンタード/ピープルセンタード Self Disruptive Leader グロース・マインドセット 内発的動機と外発的動機 ADAPT outside-in/ inside -out インフォーマル リーダーシップとシェアード リーダーシップ イノベーション人材 バックキャスティング 関係の質 curator of culture 啐啄同時 フィロソフィの転換 -
参加者の意見・感想は・・・
人事・人材開発の第一線の方々のお話を伺う機会はなかなかないので、非常に勉強になった。昨今の現状から未来のあるべき姿までを、4名の登壇者から多岐に亙ってお話し頂き、とても参考になった 自律型人材の育成は弊社でも大きなテーマだが、自律型人材とひと言で言っても色々な観点があるため、議論が拡散しがち。今回のシンポジウムで、色々な専門家の方のご意見を伺い、頭がすっきりと整理できた 今まで人材育成において、自分の考えを押し付けていたことを反省した。今回のシンポジウムでの示唆を活かし、先ずは個々人の考えを理解した上で、自律型になってほしい自分の考えを相手に伝えていきたい 「社員に○○させよう」という思考になっていたことを反省した 我々、人事部門にどれだけの力があるのかが、問われていると思う 人事部門こそがイノベーターとなり、対話風土の環境を創っていく役割を担っていることを改めて認識した 私が現在悩んでいるのは、完全に自律し事業を変革していける人がいないことよりも、もっと小さな組織単位で自分の仕事を変えていける人をどう育成するかだ 当社も人材不足が待ったなしの状況になりつつあるが、これまでの育成方法ではVucaの世界に太刀打ちできないと思った。本日のシンポジウムに参加し、どんな人材を育成するかの答えが見えてきた気がする 様々な切り口から自律型人材育成についてお話頂いたので、複眼的に考え整理することができた。そして自分たちにとってなぜ自律型人材育成が大事なのかを言語化する助けと、自律型人材が育つ環境をどのように整備できるのか、多くのヒントを貰えた。
自律型人材の重要性がクローズアップされるとともに、社会システムとして、そうではない特性を持ったタイプの人材をも包含しながら成長しつづける組織のあり方が求められていく時代になるだろうと感じている (一定期間、他部署を経験する)社内留学制度を検討していたが、本日のお話を伺い、それでは他流試合にはならないことがわかったと同時に、社外での越境学習にたいへん興味を持った トークセッションで、人事がどのような役割を果たすべきかというお話があったが、まさに経営層にどのように提案をしていくべきか悩んでいたので、大変参考になり、また勇気付けられた 海外の動向や定量的情報に基づいた考察は、非常に参考になった。弊社内でも人材育成は急務だが、今回のシンポジウムを拝聴し、旧来のリーダー像に基づく育成ではいけないと痛感した 複数の専門家から、それぞれの視点でフレームワークと情報を頂いたが、短時間で概観が辿れる構成で、効率が良かったと思う 同じテーマでも、登壇者それぞれのスタンスの違いから、自分の中に違った視点と、考え方の切り口やヒントをたくさん頂けた(チャットも楽しく活用できました…) 大変参考になる話ばかりで、特に滝波氏と兼清氏の話は興味深く拝聴した。自らが、そして組織全体が自律型人材に“なる”ことだけではなく、企業としては、そういった人材をマネジメントする側に目を向ける(=教育する)必要性を感じる。
弊社では若手ばかりが自律意識の強い状況で、そうした人材をマネジメントし、モチベートさせるための手法を、管理職側が持ち合わせていないという現実的な課題があるため、そのあたりも今後テーマに取り上げてもらえるとありがたい 滝波氏のお話にあったグローバル企業での自律的に学ぶ環境を、もっと具体的に知りたい。また、新たな仕組みの設計や導入を何から始めて、どのように進めていったのか、先進企業から学びたい 特に、コーンフェリー滝波氏の「SDL人材の発掘・育成」のお話と、ヒューマンバリュー兼清氏の「個人のあり方と組織のあり方の次元」のお話が大変参考になった 兼清氏の、社内に溢れる言葉遣い(ピープルセンタード、カンパニーセンタード)の話が大変印象に残った。自律型人材を意図的に創っていくためには、「自律」と「育成」のコンフリクトが必ず発生するため、それらを中和し解消する手段として大変有効だと感じた 兼清氏の「自律型人材は『関係の質』の高い組織で育まれる」という言葉が印象的だった。組織における「心理的安全性」の重要性を改めて認識した まだまだ“カンパニーセンタード”な言葉を無意識に使ってしまう自分は、頭でわかっていても腹落ちしていないのだろうな…と自戒を込めて感じた。自然な形での多様性の共生の実現を目標にしたい 人材教育の仕事をしていないので、とても新鮮だった。ヒューマンバリューのokapiに興味を覚えた 4名のお話には共通点がいくつもあり、腑に落ちる場面が何度もあった。中でも、兼清氏は世界の潮流をベースに、我々が取り組むべき方向性も詳しく説明して頂き、本当に心に刺さった 従業員の自律的なキャリア形成施策に迷っている。本日のシンポジウムはイノベーションリーダーの育成が主眼だったが、キャリア教育を会社が推進する必要性、さらにはその対象者の考え方(既存事業や若年層)などもこれから勉強させて頂きたい 非常に素晴らしいシンポジウムだった。特に日本の経済・社会に閉塞感が漂う中、企業や経営者や働く個人にとって今何が必要かを具体的に示す羅針盤を見る思いだった。今後も、我が国の社会課題の解決や新たな経済発展の方向性とそのための人材開発などについて取り上げてほしい 様々な施策がある中で、それを自分のこととして受け止め、気付き学んでいくためには相当の自己変容が求められると思うが、一方で多くの人はそこでくじけてしまうのではないかとも思え、それらを乗り越えられる工夫を学びたいと思っていたが、滝波氏の伴走者(コーチ役)を付けるという考えは興味深く感じた。
今後はどのようなやり方があるかというソリューション以外にも、兼清氏のプレゼンにもあった「変容を妨げているもの」を皆様がどのように分析し、それに対してどういったアプローチをとることで取り除こうとしているのかも聞かせて貰えると大変参考になる 改めて大切だと思う事や納得することが多かった。流されることなく、また大切なものを手放さず、自律したプロフェッショナルの集団を目指して変革に取り組みたい。次は、制度設計と運用の強化について、そのポイントや事例を聞きたい 今回のテーマに関心があり参加したが、なぜ自律的人材が求められているのか、さまざまな背景・考え方など、たいへん勉強になった。次回は、実際に取り組まれている企業から、施策の企画・導入・展望や、フェイズごとに見えてきた課題、苦労した点などを伺いたい 自律型人材の定義や具体的な行動をもう少し揃えた上での講演やディスカッションだと、さらに焦点が絞れてわかりやすかったのではないだろうか -
登壇者の感想は・・・
コーン・フェリー・ジャパン 滝波 純一 氏
「事前アンケートや参加された皆様とのやり取りから、このテーマに対する問題意識と悩みの大きさや深さを感じました。これまで多くの日本企業で「メンバーシップ型」の雇用・人材マネジメントが中心であったことも課題の背景にはあり、大きなパラダイムシフトが求められていることを改めて感じます。コーン・フェリーも、そのような皆様の問題意識に応えられるよう一層尽力せねばと、おおいに刺激を受けました。ありがとうございました」日本能率協会マネジメントセンター 張 士洛 氏
「皆様のアンケート結果は、実態を現しており、今後の変革ポイントが見えてきました。今後、自律型人材を社内にもっと増やして、企業活動全般において各事業や各部門が主体的に変革を進められる自律的組織にしていきたい、と言う皆様の意思を強く実感しました。 ただ一方、そのために自律型人材の各社なりの定義や期待する自律型人材の成熟度別のイメージなどが曖昧で、具体的な打ち手に落とし込めず、迷われているのではないかとも感じました。組織と人材には成熟度があり、そうした環境も見極めて変革の手を打つべきではないかと思います。 また、オンラインイベントの割には皆様からのチャットやご質問が思ったほど多くなく、ポイントをどこに見出せばよいか分からなかったからかもしれませんね。今からでも良いので聞いてみたいことがあれば、是非寄せてください。
今はこうした行動も含めて、人事・人材開発が積極的に変わる時ではないかと思っています」ヒューマンバリュー 兼清 俊光 氏
「日本を代表する企業の人事・人材開発の部門長やマネジャーが数多く参加されたシンポジウム。終えてから正直に言うと、あまりにショックで、こころが痛くなりました(まだ痛いし、しばらくはずっと痛いと思います)。
CHO協会会員企業への事前アンケートで「自社に自律型人材はどれくらい必要と思うか?」で、100%と回答された方は1割未満で、一方30%以上50%未満が3割近くありました。シンポジウムで出てきた「自律せずに従順勤勉に働いてもらいたい仕事もある」「もしも全社員が自律したら、会社を辞めてしまう人が増える」という残念な文脈。どちらも会社都合で、一人ひとりの社員の人生に寄り添い、向き合っているようには感じられません。 ゲイリー・ハメル氏が「企業が繁栄するかどうかは、あらゆる階層の社員の主体性・創造力・情熱を引き出せるかどうかにかかっている。社員から従順さ・勤勉さ・知識だけしか引き出せないのなら、あなたの会社はいずれ経営が傾くだろう」と警鐘を鳴らし、マイクロソフトのナデラ氏が「マイクロソフトが社員を雇うのではなく、人々がマイクロソフトを雇うとも言える。10万人を超える社員のマインドセットを、雇われる側から雇う側に変える時、どんなことが可能になるだろうか」と言って、マイクロソフトのカルチャーを大きく変革し、ビジネスを取り巻く環境変化に見事に適応し、価値創造を現実化してきたという事実があります。 自律した人が、他のフィールドではなく、自社のフィールドを使って仲間と価値を共創したいと感じられる状態にするのが、経営やHRのミッションのひとつであり、ピープル・リーダー(マネジャー)はアソシエイト(メンバー)のエンプロイ・エクスペリエンスが高まる機会を創造し、エンゲージメントを高めることが重要なミッションのひとつという時代なのです。 そういうマインドセット、枠組みがない企業が、日本にはまだまだたくさんあるという悲しい現実。そして、いまの会社に仕方なく依存し、従順・勤勉に働くことを期待するという道具的世界観(カンパニーセンタード)で社員を見ているHRが、日本にはまだ多くいるという現実を突きつけられたようでした。他の登壇者の皆様とお話をしながら、そうした会社で働く多くの人々の苦しさや、人としての存在を受け止められていない心の叫びが聞こえてくるようで、こころが痛くなりました。当日はヒューマンバリューの仲間も2名が参加しましたが、終えてから共有するとやはり同様の感想でした。 だからこそ私たちがなすべきこと、なしたいこと、求められていることがたくさんあるように感じました。そういう意味でとても有り難い貴重な機会でした」人財ラボ 下山 博志 氏
「多くの方が、今回のテーマに課題観を持たれていることを知りました。一方で自律型人材の定義は幅広く捉えられており、それぞれの組織でどんな人材を期待しているか、5W1Hで再考することをまずお勧めします。そして今回のテーマは、組織の未来に向けて我々自身が「自律心」と「情熱」を持ってまさに取り組むべきテーマだと確信したシンポジウムでした」キャプラン 石田 正則
「今回のシンポジウムの後で、改めて重要と感じ意識したことは「組織」です。従業員や自律型人材に変化した人も、「組織環境」から影響を受け続け、育成された自律型人材の大事な力も「組織」に対して発揮されます。組織としての意志と、個人が組織に影響を与える意志をどう持つかの双方がカギだと思います」