ホームセミナーセミナーレポートオンライン新春特別公開講座 2021年1月26日

セミナーレポート

オンライン新春特別公開講座

~社会・経済・環境の3側面からの地球規模での目標~
SDGsの実践と人事部門の役割

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 渡辺 珠子 氏
三井化学株式会社 理事 ESG推進室長 右田 健 氏
株式会社丸井グループ サステナビリティ部 サステナビリティ担当 課長 村上 奈歩 氏
株式会社パソナグループ 常務執行役員 IR担当 進藤 かおり

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今回の公開講座では、当協会で初めて「SDGs」をテーマに取り上げました。より良い世界の実現に向けた持続可能な開発目標であるSDGsに人事部門はどのような立場で関わったら良いのか?その結果何を実現するのか?

最初に、㈱日本総合研究所の渡辺珠子氏からSDGsと人事部の関わり方について解説して頂きました。続いてSDGsを実践している三井化学㈱の右田健氏と㈱丸井グループの村上奈歩氏より、具体的な取り組み事例をご紹介頂きました。後半は、登壇者全員が参加したトークセッションを、パソナグループの進藤かおりが進行しました。

以下は、渡辺氏の講話の要旨です。

SDGsとは2050年までに解決しておきたい「課題のカタログ」であり、そこに掲げられている目標は日本にとって特段目新しいものではない。今日、企業がSDGsを気にする背景には、以下に示す5つの理由があるのではないか。

①他社の動きや取引先からのプレッシャー
②政府の動き
③金融機関や投資家の関心
④新しい事業機会
⑤若者の関心

人事部は、⑤の「若者の関心」を特に意識する必要がある。昨今の大学生は「企業がSDGsに取り組んでいることは当たり前」という感覚で、就職活動をしている。人材を確保する上で、自社がどのようにSDGsに取り組んでいるのかを明確にしておくことが採用に直結することを理解し、人事部は常にこれに回答出来る準備をしておくべき。
以下、SDGsの拡充に向けて、人事部に期待されている目標を列記し、そのポイントを示す。

【人事部に期待されているSDGsの5つの目標】

  1. ① ⇒ 「3. すべての人に健康と福祉を」
    ~昨今においては「感染症対策」など、社員の安全と健康を保全する労務管理が適切に行われているか~
  2. ② ⇒ 「4. 質の高い教育をみんなに」
    ~社内研修や資格取得支援制度など、全ての従業員がその仕組みを利用できるか~
  3. ③ ⇒ 「5. ジェンダー平等を実現しよう」
    ~男女が等しくキャリアアップの機会を得られる評価や昇給制度が実施されているか(無生物のジェンダー配慮が問われることもある)~
  4. ④ ⇒ 「8. 働きがいも経済成長も」
    ~社内公募制度・FA制度など、社員がやりがいを持って働く環境が整っているか~
  5. ⑤ ⇒ 「10. 人や国の不平等をなくそう」
    ~あらゆる人事制度や人事部門の取り組みが、全ての人に公平で平等な設計と運用になっているか~

次は、三井化学の取り組みに関する右田氏の講話の要旨です。

当社では、ECG事業を経営戦略の必須課題として、いわゆる狭義のCSRからの脱却を考え、2018年4月に専任体制でESG推進室を新設。そして環境・社会に対し貢献できる価値の「見える化」を促進する方法として、Blue ValueとRose Value を定義した。
・Blue Value=環境貢献価値:ライフサイクルを通じて環境貢献価値が他を上回る製品・サービスを認定
・Rose Value=QOL向上価値:あらゆる人の健康・安心な生活を向上させる製品・サービスを認定
収益拡大とBlue&Rose Valueの拡大は同義であり、社会課題から如何に商品を見つめるか?技術的な機能価値だけでなく、感性価値を追求し実感できるものを見せていくことが必要であると考え、社会との共感コミュニケーションの重要性に軸を置いた。
以上の取り組みを社内に浸透させるには、ESG推進を社員が「自分ごと化」するための下地づくりが必要であり、2年間に亘り様々な施策を実施してきた。結果的に経営層へは着実に浸透したが、部長以下へのこうした理念の浸透にはまだムラがある状況。今後、これまでESGというテーマに触れる機会が少なかった社員にも興味を持ってもらい、自らの業務がESGに繋がっていることに気が付いてもらう。そのために、動画メッセージの配信、ワークショップイベント、「ESG Linkカフェ」等、気楽にBlue&Rose Valueに触れるイベントを実施した結果、着実に浸透しつつある。

最後に、丸井グループの取り組みに関する村上氏の講話の要旨です。

丸井グループは、共創サスティナビリティ経営を目指し「全ての人が幸せを感じられ、インクルーシブで豊かな社会を共に創る」を目標に、ビジョン2050を掲げ、ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創ることにチャレンジしている。社会課題をチャンスと捉え、ビジネスを創出し、企業価値の向上を目指す。それがSDGsの「誰も置き去りにしない」という目標とイコールだと考えている。
以下4つのテーマで、インクルージョンの実現に向け、具体的にアプローチしている。

①お客様のダイバーシティ&インクルージョン ⇒ 《事例》らくちんきれいパンプスの開発
②ワーキングインクルージョン ⇒ 《事例》アンコンシャスバイアス研修/女性いきいき指数導入
③エコロジカルインクルージョン ⇒ 《事例》再生可能エネルギーでの小売電気事業の開始
④共創経営のガバナンス 

グループ全体を通して、長きに亙る取り組みの結果、“手上げの文化”が定着し、社員一人ひとりが自らの判断で自律的に行動をすることが浸透してきた。また「一方通行から2ウェイコミュニケーションへ」という対話の文化が根付いてきたことも、ビジョン実現に大きな影響を与えている。これは当社が目指す企業文化である「自主性、楽しさ、支援するマネジメント、本業を通じた社会課題の解決、価値の創造」を愚直に推進してきた結果だと考えている。

以上2社の事例を踏まえた後半のトークセッションを通じ、2つの実践のキーポイントが浮かび上がりました。
1)自分の日々の行動のひとつひとつがSDGsに繋がるということを紐づけていくこと。
2)SDGsを考え行動する人が「意識高い系」と揶揄されないよう、バイアスを外していくこと。
またSDGsの理念を浸透させるためには、経営システムに如何に組み入れていけるかが重要ですが、そのために、まずトップ自らが動くこと。そして社員一人ひとりは担当する事業や研究、そして自らの報酬もSDGsの理念実現に繋がっていることをバックキャスティング(=未来志向)で常に考えること。また人事部門は狭義の人事業務の範疇だけでなく、社内の各事業部門を巻き込みながら進めていく息の長い取り組みが必要ではないでしょうか。

◎セミナーを終えて

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  • 参加者の意見・感想は・・・

    私自身は人事担当でSDGs推進担当部門ではないが、SDGsに限らず社内で新規の取り組みを始める/深める際に、いかに社員に自分ごととして腹落ちしてもらうか、そのための巻き込み方、組織風土の醸成の仕方、人材育成の仕方など、示唆に富んだお話が聴けた。これらはまさに社内での課題と認識しているので、大変参考になった たくさんの情報があったので本当はもう少しゆっくり聴きたかったが、取り組み内容だけでなく、姿勢のお話が伺え、大変有意義だった 今回もたくさんの事例を聴けたが、成功事例や失敗事例、苦労話等を具体的に伺えると、自社内の施策に落とし込みやすく、他社事例を踏まえた提言ができ、経営からの理解も得やすくなる やはり、まずトップがしっかり話すことが大事だと認識した SDGsに限らない、幅広いお話を聴くことが出来、大変参考になった。SDGsの自分ごと化にあたり、日々の業務とSDGsを結び付けて考えることが大切というお話が特に印象に残った。これは企業理念の浸透にも応用できる考え方だと思う。また、SDGsやESGの推進にあたり、ビジネスと結び付ける事が大前提という考え方にも大いに賛同する。ビジネスが根幹にあり、SDGsは新たな付加価値やバリューチェーン全体での付加価値を見出すための視点だという整理は、事業と向き合う従業員にも親しみやすく、わかりやすいと思う 事業会社なので、ビジネスの枠組みにSDGsをどう組み入れるのかは勿論重要だが、本来的な意味として、社員一人ひとりが単なる評価の物差しという認識ではなく、どう自分ごと化できるか/させることができるかの方が、大事な取り組みだと思う 最近注目されているSDGsと健康経営という両軸は、社内外に対して非常に重要な意味を持つと認識しているが、当社ではまだまだ経営陣との温度差を感じる。また施策を打つにも新規の追加支出という見方をされてしまうため、世界的な(=一般的な)状勢を交えた導入事例等のセミナーがあれば是非とも参加したい SDGsという言葉は聴いていたが、人事部としてどう対応するべきか、どうあるべきかという事まで具体的に落とし込めていなかったので、本日のプログラムはそれらを検討する上で大変参考になった 旬なテーマと思い参加したが、聴き応えがあり、人事パーソンとしての新たなパラダイムを認識する上で大変参考になった SDGsの推進は、人事機能が担うのがベターかなと思った 自社のSDGsの取り組みについては何から手を付けたら良いかわからないくらいのスタート地点にあるので、とても参考になった SDGsを具体的な施策に結び付け、意義を持たせる事の重要性を再認識した。全プレゼンテーションが大変示唆に富んでいた 非常に有意義な時間だった。特に日本総研の渡辺氏のお話は、SDGsと人事業務を結びつける上で、非常に参考になった 日本総研の渡辺氏のプレゼンテーションは、SDGsの全体像を理解するにあたり非常にわかりやすかった 日本総研の渡辺氏の資料にあった「ウェディングケーキモデル」は、SDGsの理解に大いに役立った 丸井グループの取り組み、特に手上げ文化の浸透などは、社内で是非参考にしたい
  • 登壇者の感想は・・・

    日本総合研究所 渡辺 珠子 氏

    日本総合研究所 渡辺 珠子 氏

    「SDGsの目標年まで残り10年。国連では“行動の10年”と銘打ち、企業にもSDGs達成に向けた行動強化を呼びかけています。企業活動の要は人材であり、SDGs推進も同様です。本日のセミナーが、よりよい社会を継続するために企業や従業員がどう行動するかを考える一助になれば幸いです」
    三井化学株式会社 右田 健 氏

    三井化学株式会社 右田 健 氏

    「異業種のパネリストや人事担当の質問者の皆様から感じたのは、ESG/SDGs推進の悩みは各社共通、しかしその解決策は各社各様だということです。組織風土やトップの意識により、SDGs推進を加速させる“スイッチ”の場所は異なります。だからこそ人材開発や評価制度がカギとなります。何ごともまず“人”であるというシンプルな結論でした。今回は貴重な機会を頂き、ありがとうございました」
    丸井グループ 村上 奈歩 氏

    丸井グループ 村上 奈歩 氏

    「パネリストの皆様とのお話で、SDGsの実践には様々な社内部署との連携が必要だと痛感しました。また、失敗やチャレンジを認め合う企業風土や、評価制度をはじめとする社内のしくみ、トップからの働きかけ等、複合的な取り組みが大事だと感じました。これからも社内での連携も深めつつ、社会全体での共創を推進し、SDGsの実現に邁進していきます」
    パソナグループ  進藤 かおり

    パソナグループ 進藤 かおり

    「今改めて重要なキーワードとして注目されているSDGsをテーマとしたセミナーで、モデレータを務めさせて頂き、大変勉強になりました。パネリストの皆様から先進的な事例を伺う中で、結局SDGsを実践するのは人。一人ひとりが当事者意識を持って取り組むために、企業においてはやはり人事部門の果たす役割が大変大きいと感じました」