シニア人材の活躍
~真の『人生100年時代』に向けた企業と個人の備え~
コーン・フェリー・ジャパン株式会社 アドバイザリー部門 プリンシパル 吉本 智康 氏
一般社団法人定年後研究所 所長 得丸 英司 氏
サトーホールディングス株式会社 国内人財開発室 人財企画担当部長 金沢 春康 氏
リスタートサポート木村勝事務所 代表 木村 勝 氏
株式会社パソナマスターズ 代表取締役社長 中田 光佐子
グロービス経営大学院 教員/ファカルティ本部 シニア・ファカルティ・ディレクター 林 恭子 氏
シニア層を取り巻く環境は、この一年で劇的に変化し、フォローとアゲインストの風を同時に受けています。そのような中、シニア人材を活かす企業はどのように時代に立ち向かうべきか?個人と企業に様々な接点を持つ5名のパネリストが、シニア人材の活躍を多面的に考察しました。
まず冒頭にモデレータを務めるグロービズ経営大学院の林恭子氏より、高齢者雇用安定法の改正や、65歳定年制の増加等、シニアを取り巻くトレンドの大きな変化を解説して頂きました。
シニア人材の活用は、優先度の高い人事課題であるとの指摘を踏まえ、引き続き5名のパネリストがそれぞれ異なる立場から、様々な意見と貴重な情報を語って頂きました。
以下は各パネリストからのコメントの要旨です。
■コーン・フェリー・ジャパン 吉本智康氏
コロナ禍により、シニア層のみならず日本の人事制度全般を考え直す機運が高まっている。今まではシニア人材にどのように活躍してもらうかより、処遇をどう取り扱うかという点に関心が高かったが、これからは一人ひとりの労働観を把握し尊重し、個別最適を実現する人事戦略へのシフトチェンジが必要。その結果、上司・部下という関係性が薄まり、「プロジェクト型」で仕事が進んでいくと、シニア人材の活用も理想に近づいていくと思う。
■定年後研究所 得丸英司氏
「役職定年」や「配置転換」は、シニア人材にとっては「もはや、これまで」という、“定年後シンドローム”を誘発する。シニア人材のモチベーション低下による経済損失は、ニッセイ基礎研究所との共同研究によると1兆5,000憶円にものぼる。この事実を社会問題と捉え、個人の自己研鑽に頼らず、企業はシニア層をしっかりと支援し、主体性をもった「自走人生」のサポートをする必要がある。そのために「キャリア羅針盤」というe-learningプログラムを開発したところ、コロナ禍も影響してか、多くの問合せを頂いている。
■サトーホールディングス 金沢春康氏
本日はシニア社員のひとりとしての立場から意見を述べたい。これからは一つの会社に永続的に所属するのではなく、複数の依存先を確保しておかないと、定年を迎えた途端に居場所がなくなる。依存先は「有給ワーク」「ギフトワーク」「学習ワーク」。以上3つのワークスタイルを意識し、最終学歴を常にアップデートしていくことが大切だ。キャリア自律には個人差があり、日本企業は全ての社員を同じ観点で見すぎている。改めて個人差を理解し、それぞれに合ったキャリア形成を支援していくことが大切だ。
■リスタートサポート木村勝事務所 木村勝氏
私自身は個人としての様々なキャリアの節目を経て、現在はインディペンデントコントラクターとして、大学講師やキャリアアドバイザーなど、「雇われない・雇わない・ピン芸人」のように、一か所に依存しないパラレルなワークスタイルを自ら実践している。それには現在の仕事の延長線上で専門性を高めることが近道である。多くのシニア社員からのキャリア相談で、自社の人事部にはやはり本音で話せないと聞く。これからは社外の研修や異業種交流のプロジェクトベースでの仕事など、「他流試合」の機会を増やすことにより、それが有効なキャリア形成を促すきっかけとなるのではないか。
■パソナマスターズ 中田光佐子
中小企業やIPOをめざすベンチャー企業等は、大企業で様々な経験を得たシニア人材の知見がほしいという潜在的な希望を持っている。シニア人材と人材を送り出す企業、また受け入れる企業、三者にとってより良い循環が進むためには、社内のみならず社外での研修機会等を増やし、40代半ばから定年後の自分の人生のイメージを持ちはじめ、自らの意志で能動的にキャリアを考える場を提供する事が大切だと思う。
5名のパネリストが、それぞれの経験から得た気付きや意見を余すところなく伝えてくれた約1時間のパネルディスカッションでしたが、共通するメッセージは、シニア人材の活躍や活用を前向きに考え、個別最適を意識し、しなやかに対応していこうということ。これから訪れる真の「人生100年時代」に向けた企業と個人の関係性を再考する機会となりました。
◎セミナーを終えて
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参加者の意見・感想は・・・
パネリストそれぞれの立場・切り口で、多面的なコメントが寄せられ、たいへん有益だった。シニアの意欲を高めるための企業の取り組みのヒントもたくさん見つかった シニアの活性化に自らが挑戦してきたつもりだが、本日のパネルディスカッションは納得することも多く、自分の歩んできた道のりに間違いはなかつたことをと確信した。84歳の現在、キャリアコンサルタントの資格更新にも挑戦中です! 大変示唆に富んだ話ばかりで、人事部員として、またシニア目前の当事者として動機付けられた 定年退職後に拝聴したが、大変ためになる話がたくさんあった 自身もそろそろシニアと呼ばれる年齢に近付いており、今後のキャリアをどうするか考えるきっかけを頂いた 自分自身が「雇わない、雇われない」と言えるような存在になりたいと感じた 50代シンドロームや中高年のリカレントステイプログラム等、非常に興味深い話を聞け、たいへん勉強になった 各パネリストの実際例をもっと拝聴したかったが、結局は積極的なやる気の問題、というところがスタート地点であることを今更ながらに感じた 地方の中小企業では、あまり接触する事が無い話題で刺激になった。自社ではミドル・シニア層の個別課題が徐々に顕在化してきており、技術の継承が課題となっている。改めて経営者と相談しながら、シニア層が活躍して事業継続していける環境を作りたいと思った シニアだけの問題ではなく、キャリアの個別最適戦略をどう進めるか、というメッセージが強く印象に残った 個別最適化戦略には賛同したい。定年5年前に受ける研修制度は、定年後の個人の仕事に関する施策や研修がなかった。パネリストの皆さんが提案されている制度が急速に広まっていくことを切望する 50代シンドロームによるモチベーション低下が、日本経済に1.5兆円の損失を与えている事に驚いた。社外集合型研修の他流試合は、自分自身が気付きを得る意味でも良いと感じた シニア層には、社外交流型と社内メッセージ伝達型の場の組み合わせが最適と感じた 社外への出向支援は、弊社にはまだまだ馴染まないように思うが、社外での集合研修でキャリアライフプランの新しい発見を促すことは、当人のモチベーションアップに有効な取り組みだと感じた。現在弊社ではキャリアライフプランニング研修が50歳時に行われているが(役職定年は56歳、定年は60歳)そこから考え始めるのではちょっと遅すぎるのでは…という懸念もあり、40代半ばからリカレントの機会を与えることも有効だと感じた -
登壇者の感想は・・・
コーン・フェリー・ジャパン 吉本 智康 氏
「シニア人材の活性化は、アフターコロナでも引き続き重要な課題になると感じています。むしろ、激動の日本社会を経験してこられたシニアの経験こそ、アフターコロナでどのように生きていくかを指し示す社会の羅針盤になると思われます。今回のセミナーがシニア活用の課題解決へ少しでもお役に立っておりましたら幸いです」定年後研究所 得丸 英司 氏
「今回ご一緒させていただいたパネリストの方々から、大変貴重なお話をいただきました。“シニアの活躍“という労使共通の課題に対して、企業として真摯に取組んでいる様子や、“自走人生”を実践されている先行事例も確認できました。労使の橋渡し役としての定年後研究所の役割が、より一層大切になってきたと感じています」サトーホールディングス 金沢 春康 氏
「パネルディスカッションを通じて実感したことは、“シニアの活躍”を生み出す源泉は、会社のサポートや人事制度改訂のみではなく、シニア自身の“意識の変革”に尽きるという点です。アグレッシブに自分自身の人生を駆け抜ける「自走ペダル」をいち早く、みつけて頂きたいと願います」リスタートサポート木村勝事務所 木村 勝 氏
「我々シニアは、先輩後輩の濃密な人間関係の中でみっちり実務を叩き込まれてきた最後の世代です。AI時代だからこそ必要な「何故この仕事を行っているのか」「仕事の根拠は何か」など、仕事の原理・原則・原点を究めた実務のスペシャリストとして、今一度キャリアを磨き上げ、若手・ミドルとスクラムを組んで頑張りましょう!」パソナマスターズ 中田 光佐子
「今回の皆さんのお話から、コロナ禍で更に多様な価値観が生まれている今をシニア活躍・活用促進の好機と捉え、『自分ごと』にする事が大切だと改めて感じました。自走人生のために、正しく知り早期に準備をする!そんなニューノーマルをしっかりご支援したいと思います」グロービス経営大学院 林 恭子 氏
「時代を捉えたテーマで、多くの方から関心をお寄せ頂いた大事なセッションのモデレータを務めさせて頂き、大変うれしく思いました。企業の人事部側、企業を支える側、企業と個人をつなぐ側、個人を支える側、そしてシニアご自身という、豪華なパネリストの方から示唆深いお話をたくさん伺うことが出来て、私個人も大変勉強になりました」