ホームセミナーセミナーレポートダイバーシティ研究会 2023年1月18日

セミナーレポート

ダイバーシティ研究会

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の実現に向けて企業が出来ること
~組織風土を変革する具体的な企業事例の紹介~

株式会社東レ経営研究所 ダイバーシティ&WLB推進部長 宮原 淳二 氏

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ダイバーシティ&インクルージョンの次なるフェイズとして、エクイティ(Equity)を加えたDE&Iの概念が拡がりを見せています。D&I(多様性を認め、受け入れる)という概念に、E=equity(公平・公正)を加えることで、組織のマジョリティがマイノリティを凌駕するような、従来型の組織風土は大きく改善され、尊敬の念を持ってマイノリティの存在に目を向けることが出来るリーダーが、組織活力を高めていきます。
今回のダイバーシティ研究会は、東レ経営研究所の宮原氏をお迎えし、企業事例を交えた講演を通じ、DE&Iの実現について考えました。以下は講演の要旨です。

1.DE&Iの”Equity”について

2000年代半ばに、大手企業を中心に「ダイバーシティ推進室」が設置された頃は、「女性活躍推進」として、仕事と育児の両立支援等、女性が退職することなく働き続けられるような環境を整備することが、その活動の中心でした。その後2010年代後半から、多様性を受容する「ダイバーシティ・インクルージョン推進室」とする企業が増え、女性管理職の育成、障害者やLGBTの支援等、活動領域が広がりました。そして2020年代に入ってからは「ダイバーシティ」と「インクルージョン」に「Equity」や「Belonging」を挟む企業が増え、多様性を一律に進めるのではなく、より支援が必要な「マイノリティ」に焦点を当て、男女間賃金格差の是正や精神障害者の支援等、より先進的な活動に注力し始めました。
そもそも「エクイティ(Equity)」とは、どの様な意味か。それは一人ひとりがパフォーマンスを出せるように、個々人に合わせて支援内容を調整し、公平な土台をつくり上げることです。社会構造の不均衡がある中で、全ての人に同じ支援を行っても、実は不均衡は解消されないため、個人個人のスタート地点の違いに着目したDE&Iの概念が今、拡がりを見せています。
左利きやLGBTQ、障害者といった、それぞれ人口の約10%前後を占めるような少数派が存在する中で、効率性の観点から、社会全体の仕組みは多数派をベースに形成されています。少数派の意見を取り入れることで、職場環境の改善や新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあり、P&Gの男性研究員が開発した女性用生理用品や、ワコールの女性が考案した男性用のレースボクサーがヒットに繋がった事例が該当します。こういった逆転の発想も、ヒット商品を生むヒントになるのではないでしょうか。少数派(マイノリティ)の方は、生きづらさを感じたまま日々生活をしていると聞きます。誰もが少数派になる可能性はありますし、少数派の経験を通すことで、ものの見方が大きく変わるとも言われます。皆様は、ご自身が少数派(マイノリティ)であると感じた経験は、どの位ありますか。

2.企業事例の紹介

◆アメリカンエキスプレスの事例
同社では、お互いの違いを尊重し、共通の目標に向かい、チームとして協力することが重要視されています。アメリカ本社では、平等や多様性推進に世界規模で10億ドルを投資し、コンサルティング会社やAIを用い、賃金格差是正等に取り組んで来ました。その結果2020年には、賃金格差の是正を達成するだけでなく、社内ネットワークとして、女性支援窓口の設置やPRIDE+(LGBTQA+の理解促進)等も実施しています。

◆EYの事例
同社では、女性起業家やリーダーシップの開発プログラムを始め、サプライヤー・ダイバーシティとして、女性・障害者・LGBT+・少数民族等の社会的なマイノリティがリードしている企業を、EYのサプライチェーンの中に積極的に参加してもらう取り組みを実施しています。
また、精神・発達障害の次世代向けに、高度専門職(公認会計士や税理士、コンサルタント等)のキャリア応援の実践型インターンシップにも取り組んでいます。

◆協和キリンの事例
同社では、リーダー層のコミットメント形成や、少数派の声を反映するための従業員主導のマイノリティネットワークやボトムアップ活動の支援、また採用や昇進・昇格におけるエクイティの推進やアンコンシャスバイアス研修の実施等に取り組んでいます。従業員一人ひとりが自らの偏見と向き合い、職場における不均衡を是正するよう、グローバルで働きかけている企業です。

◆サイボウズの「公明正大」の文化
 公の場で明るみに出ても、正しいと大きな声で言えること。多様な人材が同じチームで働くために、同社では基本となる行動規範を定義しています。また、様々な制度を設けても活用しやすい雰囲気がないと意味がありません。「理想への共感」「多様な個性の重視」「説明責任・質問責任」の考え方を浸透させ、社員の意見を受け入れながら、働きやすい環境づくりに取り組んでいます。

こうした企業の取り組みも参考にしながら、DE&I推進者は初めに以下のような施策から取り組んでみては如何でしょうか。

・社員のキャリアを考える(少数派に目を向ける)
・男女間賃金格差を是正する
・障害者の就労を支援する
・人材不足を補うために、シニアの活躍を支援する

社員のキャリアという観点ではNTTの『リモートスタンダード制度』や、ヤフー等に代表される企業が、全国どこでも勤務が可能な制度を導入したことで、配偶者の転勤に伴い会社を退職せざるを得ない社員が減少したという成果も報告されています。
各社それぞれ、少数派の抱えている課題は異なるからこそ、各々の課題にしっかりと向き合い、より具体的に一つひとつ解決していく活動が必要ではないかと考えます。

3.多様性を組織で発揮させるために

米国メタ副社長のシェリル・サンドバーグは、自身が妊婦時代に、会社から一番近い場所に車を置いているのが役員だった事に声をあげ、それ以降、弱者である妊婦が会社から近い駐車場に車を置けるようになったそうです。これは経営幹部が少数派の意見を代弁した好事例であると同時に、このことから会社が少数派の意見をくみ上げ、取り入れるためには、組織でその方が責任のあるポストに就くことも重要だと言えます。
また、全米5大オーケストラの楽団員の選考の際、ブラインド審査(氏名や性別を伏せた選考)を導入した効果として、わずか5%であった女性演奏家の比率が、現在では35%まで増加した事例も挙げられます。
皆様の中にも必ず無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)は存在しています。だからこそ、ご自身の意識を定期的にアップデートする事が非常に重要です。
人生100年時代を迎え、女性の人生や家族の姿は多様化しており、もはや昭和時代の考え方では通用しない時代です。昨年夏、女性活躍推進法の制度改正と施行に伴い、男性賃金に対する女性賃金の割合を開示することが義務化されました。結婚すれば生涯に亙り経済的安定が約束されるという価値観は既に過去のものとなり、男性と女性という枠組みを越えて、仕事も、家庭や育児も一緒に取り組む時代となりました。
多数派(マジョリティ)が少数派(マイノリティ)を力でねじ伏せる時代は終焉し、少数派が生きやすい世の中に変わることで、社会は寛容になれるのではないでしょうか。誰も置き去りにしない社会こそ、DE&Iが実現した社会と言えるでしょう。

◎研究会を終えて

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    (参加者アンケート結果から)

    グラフ
  • 参加者の意見・感想は・・・

    企業の具体的な事例や、何を参照すれば良いのかのアドバイスは、たいへん有益だった。 エクイティについての理解が進んでいなかったが、事例を交えたわかりやすい説明だった。 「少数派の意見を取り入れる」という点について、その考え方や具体的な取り組み事例などを紹介して頂き、理解を深めることができた。 エクイティについては正直なところ課題とは捉えていなかったので、まずは課題の洗い出しからスタートしたい。 エクイティの考え方を社員にどのように伝えていけば、わかりやすいのだろうか。アンコンシャスバイアス=無意識の思い込みに気付くことや、心理的安全性の確保などは、何となく理解してもらえるものの、実際の行動に繋がるまでが難しいのが、当社の現状である。 エクイティの概念を、まだ「下駄をはかせる」というニュアンスで受け止めてしまう人がいることが、課題である。男女は均等ということを長く徹底してきたため、逆にわかりにくさを生んでいると感じる。 業界としての男女比が9:1ということもあり、当社では女性活躍といっても、「なぜ女性活躍をさせなければならないのか?現状でも女性は活躍しているのに」(実は女性管理職比率は1%以下なのに……)といった、嚙み合わない議論が続いている。経営層や管理職(=マジョリティ)にダイバーシティの重要性を理解してもらうには、どうすべきかを苦慮し続けている。 女性活躍にフォーカスし、ダイバーシティの取り組みを全社的に始めたばかりだが、製造業という業種柄まだまだ女性はマイノリティという状況である。セミナー中のコメントにあったとおり、女性に対する過度な配慮や、やりがいを無意識に排除するような職務の与え方が存在し、「一律平等」を重んじる風土がある点は、これからの大きな課題だと感じている。 D&IからDE&Iに変えたときに、戦略や施策にどう影響するかの見解を定めていなかったが、今回の講演を聞いて、そこに解を頂いたような思いである。早速、自社のメンバーと対話を深めていきたい。 小売業の自社では、パート社員の間での平等(イコール)一律で同一の対応が正しいという意識が強い。正社員がDE&Iを意識して各々得意なことをやってもらうような作業指示を出しても、「なんで私ばかり」「あの人だけ別の作業でずるい」などの反応が出てきて、職場単位でのDE&Iの浸透について難しさを感じている。そうした人達も障害者の方々には優しく接するのに、同じパート同士だと不公平と訴えるのは何故だろうか。 当社はどちらかと言えば、ダイバーシティ推進が停滞気味だが、他社の状況は今、どのような感じなのか?ますます加速しているのかどうか?また何人体制で推進しているのか? 等、いろいろと悩ましい。また、国からの要望が多すぎる。イチ担当者ではなく、経営層にまず指導してほしい。 何となく理解していたところが明確になり、勉強になった。日系企業でのDE&Iの具体的な事例をもう少し伺えると良かった。
  • 登壇者の感想は・・・

    株式会社東レ経営研究所 宮原 淳二 氏

    株式会社東レ経営研究所 宮原 淳二 氏

    「近年、D&Iにエクイティが入る組織が増えて来ました。左利きやLGBTQなどの少数派を例に解説しました。これまで経営幹部などは多数派の方が担っていたケースが多いと感じていますが、突然事故に遭うなど、自分が少数派になる可能性は否定できません。DE&Iの描く未来は、少数派の方を置き去りにしない社会だと思います。ダイバーシティ推進担当の方々は、自社に内在する少数派の立場と向き合い、その方々が能力をフルに発揮できる仕組みづくりに挑戦して頂けたら幸いです」